太陽発射用蝋燭基地
第49話 男の計画
以前、そこには“浄化の太陽”が存在していた。
16本の白い柱が太陽を中心に並んでいるだけの簡素な神殿だったが、みすぼらしさなど全くなく、太陽の雄大さがそこにはあった。
もしかしたら、そこは太陽を讃えるための神殿などではなく、ある一匹の魔物が狂気の末に創り上げた芸術だったのかもしれない。
なんにせよ、今のここは太陽の神殿ではない。神殿は周りの土地もろとも蝋に埋められて、蠟でできたロケットの発射基地のようになっている。柱があったところには、蠟でできた巨大な銃身が構築されている。この銃身から、太陽の種火を射出するのだ。
そして、その太陽の種火の大本である浄化の太陽は今も爛れた男の膿の中でパチパチと燃えていた。
————
爛れた男は蝋の銃身の塔から離れたところで、満月を見上げていた。この星には月が複数あり、今宵はその中でも1番大きい月がこの星に近づく日。夜中だと言うのに、その日は昼のように明るかった。
「この星は月だけは綺麗だな。何もいないから。」
「だが。もっと綺麗にしてやる。太陽の光を反射する鏡などではない。全てを照らし、不浄を焼き尽くす太陽そのものに変えてやる。」
「お前を使ってな。」
男は振り向き、ラナを見る。ラナはロウソクの騎士2体に捕えられており、下を向いている。
(まだ気絶しているな。このまま進めよう。)
コツ、コツと杖をついて、爛れた男はラナに近づいていく。
コツ、コツ、コツ、
(……今!)
瞬間、ラナの腕を掴んでいた騎士2体が勢いよく燃え上がった。ラナはそのまま、右手で燃え盛る騎士の炎を掴み、炎を細い炎の剣に形状を変化させる。そしてそのまま、爛れた男の腹部を切りつけた。
「!。 やってくれたな。。。!。」
(浅い……!)
男の腹の傷口からドロドロと膿のようなものが流れているが、それは致命傷にはなり得ない。
男はグッと傷を抑える。
「炎よ! “焼け”!」
ラナは左目から噴き出した炎を集め、炎球にした後男に思い切り投げつけた。
「赤毛よ〝次元を繋げ〟。」
しかし、男は堕転した赤毛の一部を取り出し唱えた。すると男の目の前に空間の歪みが発生し、炎球はその歪みの中に入り、次の瞬間全く別のところに炎球は飛んでいた。
(……あれは、闘技場の時と同じ歪み……!)
「我が物顔で。。。僕の太陽を扱いやがって。」
「……じゃあ与えなければ良かったんですよ。こんな力なんか」
ラナは炎の剣を構え直す。
男はラナを恨めしそうに睨みつける。
「お前はただ種火として存在していればよかったんだ。燃え尽きぬ種火として。あるべき時まで僕の元でただ燃え続けたらそれでよかった。だというのに!。 あいつが逃がしたせいで夜を消すことに無駄な行程が挟まってしまった。」
「夜を……先程言っていた月を太陽に変える話ですか」
「そこから起きていたのか。忌々しい。」
「そう。お前を打ち上げ月を薪に太陽に変える。そして。その太陽の熱波でこの星を浄化する。」
ラナは赤毛の塔で見た炎竜の熱波を思い出していた。
(あれを今度は世界規模で……)
「無駄話がすぎたな。なんであれ、お前を種火にすることに変わりはない!。」
男はラナに手を向け唱える。
「〝足せ!〟。」
「! っぐああああ……!!」
ラナの体が燃え上がる。しかしここで男はラナの異変に気付く。
(!?。 火の勢いが……弱い?)
今のラナの体の強度は、ダイコクの魔法によって、強化されている。
(ダイコクさん……ありがとう!)
「ぐうううあああああ!!!」
ラナは苦悶の声を上げながらも
「馬鹿な!?。」
「やぁぁ!!」
ラナは男に接近して持っていた炎の剣を男の体に突き刺した。
「ぐあっ!!?」
「このまま! お前を内側から焼いてやる!」
それは意趣返しのつもりだった。男によって内側から焼かれる苦しみを味わった。だからこそ、男にも同様の苦しみを与えるべきだと、ラナは考えた。
それがいけなかったのかもしれない。
「な。。。これは。」
それは男も予想していなかった。
男は感覚で、己の中に埋め込んでいた太陽が流れていくのを感じていた。
そう。全てが、ラナの方へと流れ込んでいったのだ。
「!!? ああああああああああああああああああ!!!!」
ダイコクの魔法も瞬く間に燃やされ、ラナは初めて体が焼かれたときの何百倍もの火力で何千倍もの苦痛を味わった。
「な。。。なぜ。僕の太陽が。。。」
爛れた男はうろたえていた。浄化の太陽は魔物ではなく、誰かが残した力でしかない。だからこそ、太陽は爛れた男でも扱うことが出来たのだ。
それが今、太陽が自分の意志でラナの中に入っていったように感じられた。そして何よりも、今ラナの中にある太陽は男の中に在った時よりも美しく力強く燃えている。それが男にとって何よりも許せなかったのだ。
「待て。ふざけるな。。。!。 それは僕の——」
「あナたの……なんでスか……!!」
「!?」
いつ燃え尽きてもおかしくない。炎の勢いが強すぎて、炎の中にいるラナの姿がはっきりと視認できない。
しかし、はっきりと男にはラナの怒りに満ちた声が聞こえた。彼女は、意識を失って倒れることもなく、今なお復讐心を宿して男の前に立っているのだ。
「なんナんですカ……ふザケないデくださいヨ……!! これハあなたノまホウじゃナイ!!!」
炎をまとったラナが男ににじり寄る。ラナの怒りがどんどん強くなり、それに呼応するように炎の勢いも強くなる。その勢いに思わず男は後ずさる。
(この僕が。こんな魔物に!。)
「このホシをじょうカするとかいっとキなガら、あつカうのはすべてほかカラのチかラか!!? あなたのけいかくでありながら! あなたはしじだけでなにもしていない!!」
そしてついに燃える吸血鬼の少女は男の目の前に立ち、男の胸倉を掴んだ。
「空っぽ野郎!! あんたの計画は必ず潰す!! 悉くを焼き尽くしてやるからな!!!」
流石にそれ以上は耐えきれなかったのか、男の胸倉をつかんでいたラナの手の力がすっと抜け、ラナは燃えながらその場に倒れてしまう。
(。。。今度こそ気絶したのか?。こいつ。。。!!)
男は燃えているラナの頭を踏みつけてやりたい衝動に駆られたが、その気持ちをぐっと抑える。
(。。。こいつはいつ燃え尽きてもおかしくはない。急いで銃身の塔に運ばねば。。。)
そう思い爛れた男は蠟の銃身の塔の方を見やる。堕転した赤毛を用いて一瞬で飛ぼうとしたその瞬間。
ドコォォォオン!!!
反対側から盛大な破壊音が聞こえてきた。
「。。。こ。。。この。。。腐れ畜生共がぁぁあ!!!!」
男はわなわなとしながら破壊音の聞こえた方を向く。随分と遠くだがはっきりと数本の大きな釘柱が突き立っているのが見えた。
そして、男にとってこれ以上ないほどの不快極まる魔物の声が大音量で飛んできた。
「ラナァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
それは、メテットに導かれて百鬼魔盗団の本拠地から、ここまでまっすぐに突き進んできたシズルの咆哮だった。
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