第41話 鬼の親分

「アイナ、コルネ、ローザ、ここまで案内してくれてありがとうな。ここからは俺様が変わろう。どうやらこっちに用があるようだしな?」


「了解でゴニャル。お頭」


「それじゃあ! 後でまた会おうね!」


 そう言ってアイナ達は先に本拠地の中に入っていった。


「さて……まずは名前を教えてもらおうか」


「はい。ワタシはラナ。情報担当です」


「シズル、戦闘担当」


「トウキタイメイはメテット。イドウタントウだ」


「……なんか聞いたことある自己紹介だなぁ」


 ダイコクはラナ達の方を向いてにっと笑う。


「まぁいい、ラナちゃんにシズルちゃんにメテットちゃん。ついてこい」


(……ラナちゃん?)


(……ちゃん付けなんて初めてだわ……)


(メテットはゲンミツにはセイベツないんだが……ベツにいいか)


 ラナ達は少し困惑するものの自ら案内を買って出たダイコクについていくことにした。 

 中に入ると、あちらこちらで笑い声が聞こえた。

 そこは広場となっているようで、様々な魔物達が何か作業をしていた。


「外から聞こえてたけど、活気があるわね。いったい何をして——」


 シズルが広場でしている作業を軽く見ると、あちらこちらでダイコクの像が作られているようだと分かる。

 皆が一心不乱に石材を削っていた。


「……ねぇ。あんたもしかして洗脳とかしてる?」


「やってねぇよ。ちょっと俺様への尊敬があふれちゃっただけだ。 お前ら! 客だぞ! 後で評価してやるから持ち場に戻れ! あとてめぇで作ってる像はてめぇのところに持って帰れよ!」


(ヒョウカしてあげるんだ……)


 ダイコクは像を持って解散していく魔物の中の一体に声をかける。


「あ、待て。ゲマリア。お前んとこの行方不明だった魔物見つけたぞ。雪魔人のとこで傑作作ってた」


 そう言ってダイコクは小脇に抱えた魔物をゲマリアと呼ばれた絵画から上半身だけ飛び出し、ふよふよと浮いている魔物に差し出した。


 ゲマリアは驚愕する。


「なんと! アマリリスがダイコク様も認めるほどの傑作を!? よくやったアマリリス!」


「うん。褒めるのも大事だがよそ様に迷惑かけてたことを叱れ」


「「「…………」」」


(((めっちゃ常識/ジョウシキある……)))



 魔物達に自分の像を片付けさせた後、ダイコクは案内を再開し、今は農業をしているところにまで来ていた。


「——なんか悪いな。どうやら今日は『ダイコク芸術の会』の日だったらしい。最近寝てないから時間の間隔が曖昧でなぁ」


「待って、ダイコク芸術って何?」


「俺も知らん。奥が深いよな芸術って」


(それでいいの?)


「……ネてないって、イソガしくてジュウブンなスイミンがトれていないのか? それともネムれないとか?」


「そんなんじゃねぇ。眠りたくねぇんだ」


「?」


「まぁ、そんなとこはどうだっていいさ。それより見ろ!」


 ダイコクはラナ達の視線を畑の方に誘導した。

 そこには、新鮮な野菜を収穫している魔物達の姿があった。


「……見たことない植物ですね。食べれるんですか?」


 ラナは首をかしげる。


「そうか。外から来た魔物じゃ馴染みが薄いか。これらは大昔人間が作っていた食べられる植物でな、また蘇らせられねぇかと思って仲間達と頑張って再現してみたものがこれらだ」


「……キュウリ、リンギー、シュウイモ……私の故郷で一般的な野菜達ね」


「おっ!? 知ってんのかシズルちゃん! ……って故郷? まさか」


「ええ。私も確信を得たわ。私も人から魔物になったの。そして貴方、私と同じ出身よね?」


「ほんとか!? “夜明け”で魔物になっただけならまだしも、同郷か!」


 話を聞いたラナは驚いた表情を見せる。


「えっ!? でもシズル、あの島にはもう生き残りがいないって……」


「群島になっているのよ。私の故郷。あの島の近くにもいくつか島があって、それらをひっくるめて一つの国なの。多分彼は私のとことは別の島からここまできたんでしょうね」


(生き残りがいない? ……シズルちゃんも大変だったんだな……)


 ラナとシズルの話が聞こえたダイコクはシズルが重い過去を持っていて、聞くと辛い過去を思い出させてしまうと考え、あまり詮索しないようにした。


「まぁこんな奇跡もなかなか無い! 同郷ならばこの食い方は知ってるはずだ。おーい塩漬けリンギ―持ってきてくれ!」


「シオヅけ……リンギー? チカくにウミもないのにシオがヨウイできるのか」


「そこは魔法使いまくったり他所と交渉して確保するのよ。せっかく世界にたくさん魔物いるんだしなぁ。……言っておくが、どこぞの酒場みたいに魔物を塩に変えた物とかじゃないからな? 魔物塩で食いたいとかはここでは論外だから諦めてくれ」


「言わないわよ。ラナもメテットもそんなつもりない……あれ? そういえばメテットって食べ物いける? 隠れ家いた時とか特に何も食べていなかったけど」


「マモノになってからタべられるようになった。あとマモノシオはムリ。あったとしてもキョヒする」


「なら良し。……おっ、持って来てくれたようだ」

「塩漬けリンギーお持ちしたでゴニャル! お頭、どうぞニャル!」


 丁寧に輪切りにされた塩漬けキュウリを皿にのせてコルネがやってきた。


「おう。再登場早いなコルネ」


「持っていく役目を変わってもらったでゴニャル。ラナ達も食べるでゴニャル」


「いただきます!」


 ラナは一つつまんで口に放り込む。程よい塩味が口の中に広がりラナの頬が思わず緩む。


「疲れた体に塩分が染みます……」


 続けて、メテット、シズル、ダイコクも塩漬けリンギーを食べる。


「……懐かしい。さっぱりしていて美味しいわ」


「だろう? つまみに最適なんだ」


「サケもあるのか……テビロくやっているんだな」


「考えついた事は大体やってる。どんなものでも時間がかければ形になるもんだ」


 ラナ達はあっという間にキュウリを食べ終えた。ラナは手についた塩をペロリと舐める。


「美味しかったです。ありがとうございます」


「なら良かった。コルネもありがとうな。ここの連中にも『美味かった』と伝えてくれ」


「御意! ……また像が増えてしまうでゴニャルな」


「ここのマモノタチはゾウでウレしさをヒョウゲンするんだな」


「奥深すぎるよなダイコク芸術」


「いやあんた、それでいいの?」


 他人事なダイコクに思わずツッコミを入れるシズル。


「ガッハハハッ! まぁ仲間が笑うなら良し。そら、次へ行くぞ」


 ダイコクが他の場所に行こうとしたとき、


「お待ち下さいお頭。そろそろ来る筈でゴニャル」


「来る? アイナとローザか?」


ゴロゴロゴロゴロ


 すると車輪の音が聞こえてくる。


「車輪?」


「みんなぁ! またあったねー!! 乗ってみる!?」


「いらっしゃいませお頭。耳かきのご奉仕させていただきますよ?」


「怒涛の勢いだなお前ら」


 ローザが馬車を引いてやってくる。

 精巧な薔薇の細工が施された馬車だった。

 その馬車の屋形のドアが開き中にはアイナが乗っていた。アイナは梵天付き耳かきを携えている

 


「お前それ馬型の魔物用の……特に重そうでもねぇしいいか。ローザ、アイナも含めて5人だが行けるか?」


「行けるよー! グイグイ行っちゃうよ! ラナもシズルもメテットも乗って乗って!」


「おう、それじゃ乗らせてもらおうか」


「お願いしますローザさん」


「頼むわ」


「タスかる」


 ダイコク、ラナ、シズル、メテットは馬車に入る。


「ではダイコク様。横になってもらいますわよ!」


「ああ、耳かきはいい。耳垢とかねぇし」


「そんな!」


「ゼンインノったぞ」


「じゃあ、行くよー!」


「お願いするわ」


 ローザは勢い良く走り出した。


 ゴロゴロと薔薇の馬車は走っている。

 その中でダイコクはラナ達に目的を聞く。


「そういえば、お前ら何の目的があってここにきたんだ? 入団希望か?」


「いえ、入団希望ではないんです。ワタシは貴方に体を強くしてほしいのです」


「ほう……嬉しいね。最近じゃそういう奴も少なくなった。にしてもラナちゃんがひたすらに強さを求める熱い子だとは思わなかったぜ」


(……ん? 何か話が食い違っているような……)


「俺様のしごきは厳しいぜ? ついてこれるかい?」


 ダイコクはにやりと笑う。


「違いますよ! そういう意味じゃないんですよダイコク様!」


「えっ違うの?」


「すいません。貴方の魔法でワタシの体を強化してほしいという意味なのです。ワタシの中の炎に焼かれない為にも」


「……?」


 ラナは事情を説明する。


————

「なんだその野郎。許せんな」


「そうね」


 ダイコクは怒りを露わにし、シズルはそれに同調する。


「ともあれ事情は分かった。俺の強度を変える魔法で燃えないようにしたいんだな? まぁおそらく可能だ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 歓喜の表情を浮かべるラナだったが、ダイコクはその後に付け加える。


「待て待て。やるとはまだ言ってねぇだろうが。条件がある」


 条件と聞きシズルは怪訝な顔をする。


「条件? ……軽く引き受けてくれると思ったのだけど」


「そりゃあな。こんな日は滅多に来ねぇんだ。逃してたまるか」


「……? どういうこと?」


「ジョウケンというのは?」



 ダイコクはシズルを見ながら条件を話す。


「簡単なことだ。——俺様と戦って勝つ。それが条件さ」

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