第40話 ようこそ、百鬼魔盗団へ
「メテット、マナんだ。このホシはイキオいで行くんだと。ヒツヨウなのはここぞというトキのユウキだと」
「……ここぞって時の勇気ねぇ。勢い、ねぇ……」
(自己紹介以降、シズルずっとメテットに何か聞いてます……)
各々自己紹介が済んだ後、ラナ達はここに来た目的を話した。現在、三怪のローザ、コルネ、アイナに案内されて本拠地へと向かっている途中である。
「ラナちゃん達大変だったんだね。ここまでよく頑張ったよ」
と言いつつも何故か顔が曇るローザ。
「でも……お頭に会うのは無理ニャル」
「えっどうしてですか!?」
ギョッとするラナ。このままでは目的が果たせないので当然である。
「……お頭様は、今は……」
コルネは俯く。それを見たシズルは不安に駆られ
る。
「あんたらの親分に何かあったの!?」
「他所様の縄張りで自分の氷像が量産されてると苦情が来て大急ぎで止めに行ったのよ」
「は!?」
アイナの口から語られる衝撃の理由に思わず声を上げるシズル。
「お頭のこと尊敬してやまない子分はたくさんいるからね。 最近入った子達とかたまに暴走しちゃうんだ。……ごめんね?」
「じゃあムリだっていうのは……イマはデカけてるからってこと?」
(そういえばあのドクロ、『オニのイぬマに』とかイってたな……)
「そうでゴニャル。すぐに帰ってくると思うから本拠地で待っていて欲しいニャル。」
「そう! ラナ達はお客様だから! 守るよ僕たちが! なんたって」
「大梟、赤猫、穴狼だからね!」
ローザ達はビシッとポーズをとる。それを見たシズルはずっと気になっていたことを口にした。
「……ねぇ、貴方達が言ってるのってもしかして『三妖獣』に出てくる妖獣達のこと?」
「「「知っているの!? 『三妖獣』!」」」
ローザ達が驚愕している中、ラナはシズルに尋ねる。
「……シズル、『三妖獣』ってなんですか? 伝説の魔物の名前とかですか?」
「違うわ。私が人間の子供の頃によく聞かされたお話よ。すごい昔の話だったから今の今まで忘れてたわ」
(シズルがコドモのコロ!? それって300ネンイジョウマエのおハナシってことか!? ……サンカイのマモノタチはなぜシっているんだ?)
「昔のお話気になります! どんなお話なんですか?」
「まあ、歩きながらでいいなら。……昔、ある三匹の獣がいたの。体が大きくて獲物に気付かれる『大梟』、体も目も真っ赤で怖くて餌をもらえない『赤猫』、臆病で掘った穴にずっとこもってる『穴狼』。三匹が飢えて死にそうなところをある老人が助けて、三匹に知恵を授けるの。そして三匹はその方法で初めて獲物を捕まえることが出来た」
「よかったじゃないですか。このまま終わりですか?」
「いや、お礼を言うのと老人にも自分達が獲った獲物を分かち合いたくて、老人の家に向かうと老人は殺されていた。悪党が金欲しさに複数人でめった刺しよ。家の中もめちゃくちゃになっていたわ」
「ん?」
ローザが首をかしげていたがシズルは気付かず話を続ける。
「変わり果てた老人を見て三匹は復讐を誓うの。それで匂いで悪党を見つけた時、老人に教えてもらった方法で悪党たちを狩ることにした」
「赤猫が呪言をわめきながら追い立てて、逃げた悪党を穴狼の落とし穴で動けなくし、最後に大梟が動けなくなった悪党どもの心臓を引っこ抜いて目の前で笑いながらゆっくりと握りつぶした」
「大梟すごい怖い!?」
「そして最後残った悪党は三匹に生きたまま貪られました。仇を取ったと同時に悪党の味を覚えた三匹は今日も悪党を探している……要は悪いことしたら三妖獣に食べられてしまうからしたら駄目よって子供を戒めるお話ね」
シズルが話し終わるころには皆静まり返っていた。
「……怖すぎませんか? 特に大梟」
「ヒトのシンゾウをヒっこヌけるくらいってけっこうオオきいぞ……なぜオンミツでエモノをトらえようとしていたんだ?」
ラナもメテットもそのお話の凶悪さにドン引きしていたが、もっとショックを受けていたのは後ろで聞いてたアイナ達だった。
「……誰か担当変わってよ。大梟、こんな恐ろしいなんて思わなかったわよ?」
「あたい……じゃなくて拙者は笑顔で心臓ぶっこぬきの役はちょっと……はい」
「てゆーか! お頭から聞いた話と全然違う! 僕、泣きそうなんだけど!? 膝がガクガクと震えてるよさっきから!」
「話が違う? っていうか親分さんから聞いたのねこの話。どんな感じだったの?」
「少なくとも死人は出なかったよ!」
「めっっちゃ優しさで包んだのね。親分さん」
「……」
怯えるアイナ達を見てメテットは違和感を覚える。
(コワがっている。このホシの、オソらくヒトからでなくマモノからウまれたマモノが。……ラナのようにキョウイクをウけているのか? だとしたらヒャッキマトウダンにショゾクしているマモノも?)
〈最近入った子達とかたまに暴走しちゃうんだ〉
(ハイったばかりのやつでも“たまに”。ヒャッキマトウダンのオヤブンはいったいどれほどの……)
沢山の魔物を従え教育させ慕わせるだけでなく、『三怪』という強力な魔物も従わせられる百鬼魔盗団の親分、ダイコク。そのカリスマ、強さにメテットは驚いていた。
しかし、別にメテット達は戦いに来たのではない。ローザ達も協力的であるから大丈夫とメテットは自分に言い聞かせた。
本拠地を目指す一向、しかしシズルがお話をしている間にだいぶ歩いていたのか目的地は目と鼻の先というところまで来ていた。
百鬼魔盗団の本拠地は黒い木材で出来た壁で覆われ、四方に見張り台がある。そして、ラナ達は大きな門の前にまで来た。
コルネ達は門を開けて、ラナ達に自分が所属している自慢の本拠地を紹介する。
「見えたわよ! お客様方!」
「ここが我ら『三怪』も所属する——」
「——『百鬼魔盗団』その本拠地さ!」
「「「これは……!」」」
——そこは、この世界で初めて、安定しているといえる場所だった。
農業が発展していた。魔物を変えたものではない酒が造られていた。
教育するための学校があった。殺し合いの空気がなかった。
そして——小さな魔物達が集まって笑っていた。
「ここは……ここだけで自給自足が出来ているんですか……!?」
「……衝撃すぎるわ。これを貴方達が親分さんと一緒に作ったの?」
「そう。みんなで作ったのよ。すごいでしょ? でも、本当にすごいのはダイコク様よ。あの方の、非常識すらひねりつぶすあの強さがあって初めて、ここは何にも襲われない安住の地に出来ている」
「……たったイッタイのマモノが、たとえホンニンがそのバショからハナれていてもセカイジュウのマモノからこのバショをオソわせない、そんなヨクシリョクをモっていると?」
「その通りでゴニャル。ダイコク様は、お頭は世界一強い魔物ニャル」
コルネの話を聞いてシズルはぽつりと呟く。
「……世界一、ね」
「厳密にゃ、違うんだがな。あいつは滅多に動かんし、仲間の士気も上がるしでそういうことにしてる」
横から男性の声が聞こえ、ラナ達は声のする方に振り向いた。
看板の像と同じ顔の魔物がそこにいた。
髪はギザギザで長く、いかつい顔で黒白目、頭には2本の紅い角がある。肌は少し黒く、たくましい筋肉はありとあらゆるものを防ぐような頑強さがあった。
そして完全にのびた魔物を小脇に抱えていた。
シズルは目の前の魔物の正体を肌で感じ取る。
(この魔物……! 私より……なるほど、彼が……)
「お頭! おかえりなさい!」
「おお、留守番ありがとうな。それにしてもまいったぜ。まさか氷山一個丸々俺様の像に加工してたとは……雪魔人のやつがカンカンになるわけだ。こいつの情熱を甘く見てたぜ。……格好良かったしなぁ」
ラナは恐る恐る紅角の鬼に聞いてみる。
「あ、あの……もしかして貴方が……?」
「おお、見ねえ顔だな。ローザ達が案内しているのを見るにお客人かな」
そして、紅角の鬼は名を名乗る。
「ようこそ。俺様の百鬼魔盗団へ。俺様がダイコク。ここの親分さ」
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