第39話 やったもん勝ち
蜂蜜地帯を抜けて、百鬼魔盗団の本拠地に向かうラナ達。
本拠地に近づくにつれて、辺りの雰囲気も変わっていった。
「明らかに装飾が増えましたね。近づいているってことでしょうか? ……それにしてもこの装飾……」
「……ホネ? このセカイで?」
魔物はその命が尽きると消滅する。骨など、この世界に残るはずがない。
シズルは近くにあった
「……これ、木でできてるわ。……すっごい、本物の頭蓋骨かと思ったわ」
そのの完成度の高さにシズルは思わず触ろうとする。
すると、
「触れるなよ嬢ちゃん♪ 火傷しちまうぜ♪」
「!?」
急に
「火傷されたら♪ 燃えちまう♪ それは困るよ♪ 木だからな♪」
「ここは我らが主♪ ダイコク様のお膝元♪」
「鬼の居ぬ間に何をする♪ 盗みか騙しか恐喝か♪」
「なんだこいつら……! 生きてんの!?」
「それよりまずい方向に話が進んでいませんか……!?」
「そんなことはどうでもよし♪ 大事なとこはそこじゃない♪」
「そう。大事なところはこのダイコク様の領域に無断で入ったことでゴニャル。侵入者方」
「っ!? 上!」
シズルは飛んできた手裏剣を大釘ではじく。
「……危ないわね。ずいぶんなご挨拶じゃない」
「? 今のは挨拶じゃなくて攻撃でゴニャルよ?」
「……冗談通じないわね」
ラナは手裏剣が飛んできた方向を見て驚きと興奮の声を上げた。
「尻尾で木にぶら下がって……! 手裏剣ってことは忍者!? 忍者ですか!?」
手裏剣を投げた人物は飾り付けされている木の枝に細長い尻尾を使ってぶら下がって逆さまになっていた。その衣装はラナの言う通り忍者を彷彿とさせるものであった。
薄紅色の忍装束を見に纏った頭から黒い猫耳の生えた少女。ただその衣装は本物の忍者というより、忍者のことを一切知らない人が伝聞だけでこしらえた忍者っぽい衣装という感じだった。
白く細長いネコ科の尻尾を木にかけてぶら下がっている。彼女の両頬には猫のヒゲが生えている。
一言で表すと薄紅色忍者な猫少女という、なかなか珍しい姿である。
(……本物の忍者じゃなくてなりきりでしょうけど、ラナのためにも黙っておこうかしら)
「……可愛い侵入者のくせによく知ってるゴザルね。拙者、忍者でゴニャル」
「わーやっぱり! 忍者の話父から聞いたことがあるんです! 父も誰かから聞いた話らしいので又聞きの又聞きですが!」
ラナが駆け寄ろうとした瞬間、ラナの足元に手裏剣が飛んでくる。
「キュッ!?」
「忍者だとわかってくれるのはうれしいでゴニャルが、まぁ侵入者なので散るでゴニャル」
ラナ目掛けて幾つもの手裏剣が飛んでくる。
「くっ!」
シズルはラナを引っ張り自分の後ろに強引に引かせ、
ガギキィィン!
飛んできた手裏剣をすべて叩き落した。
「……やるでゴニャルね。今までの侵入者とは一味違うようでゴニャル」
「ったく侵入者って……私達普通に来ただけなんだけど!? どっかに『ここは百鬼魔盗団の領地です』って看板でもあったわけ!?」
「あるでゴニャル。それを素通りしたから侵入者なんでゴニャルよ?」
「「「え?」」」
「看板には鈴がついてて近くに誰もいない時は鳴らしてほしいと書いてあるでゴニャル」
「……あっ」
メテットが何かを思い出したらしい。
「……メテット?」
「いや、あの……マドでトオってるときにですね、ヘンなモノがオいてあるなというのがありまして……でもフれたらシぬやつかもってオモって、そのまま……」
メテットの窓は中を通っている間は外からは見えないが、中からも外の様子見えない。ゆえに外の様子は感知能力のあるメテットにしかわからないのだが、メテットは看板を変なオブジェだと認識してしまい、そのまま通り過ぎて行ってしまったらしい。
「あんた何してんのよ!?」
「メテットさーん!?」
「ごめんなさい!! あれがカンバンだなんてオモわなかった!」
猫忍者は地面に軽やかに着地し立ち上がる。
「じゃあ、始末するでゴニャル」
「ちょっと待って下さい!? 確かに勝手に入ってしまった形になってしまいましたけどわざとってわけじゃ……!」
「侵入者は始末でゴニャル。シャー!!」
ラナの言葉に聞く耳を持たず、猫忍者は忍者刀を持って襲い掛かる。
それをシズルが迎え撃つ。
「この……! メテット! 急いでその変なのがあったところまでの窓を構築しなさい! 正規の手段で入り直せば、こいつが私達を襲う理由はなくなるはず!」
「その時はお客様として歓迎させてもらうでゴニャル!」
「ほらこいつもこう言ってる! 急いで!」
「リョ、リョウカイ!」
————
「途中から追ってこなくなりましたね。多分撒けたわけじゃなくて領地から出たからだと思いますが……」
「途中でぴたっと手裏剣飛んでこなくなったしね。変なところ真面目だわあいつ。でこれが看板だと思われる変なモノか……確かにこれは……」
シズルは両手を広げて筋肉を誇示している筋肉質な男性の像を見ていた。片手には鈴、もう片手には板を持っており、板には
『ここより先、百鬼魔盗団の私有地です。何かございましたら鈴にてご連絡ください。』
と書かれていた。
「これは確かに看板とは言いづらいわ……一瞬だけだとムキムキのおじさんの像としか見えない」
「な!? そうだよな!? こんなモジがカかれてたとは……というかトウゾクダンなんだよな? トウゾクダンってトチモつのか……?」
「この像の魔物が親分さんでしょうか? とても強そうです。髪の毛もなんだかとげとげしていて……」
「ツノもハえてるな。すごいガンコウ」
「まぁ“夜明け”で魔物化したやつらしいし、強いのでしょうね。まぁそれは置いておいて」
「……とりあえず、鈴鳴らしてみましょうか。これでたぶんあの忍者が来るのよね?」
そう言ってシズルが鈴をつかんだ瞬間だった。
「「「いらっしゃいませ! お客様! 百鬼魔盗団へようこそ!」」」
「おわっ!?」
空から腕に白い鳥の翼を生やした魔物、地上から先程襲ってきた猫忍者の魔物、地下から鋭く大きな爪を持った人狼の魔物が、それぞれ挨拶をしながら現れた。
「いやまだ鳴らしてないわよ!?」
「誤差よ! 細かいことは気にしない。まずは自己紹介よ! あたしは『三怪』
アイナは先端が黒、それ以外が白の翼の腕をしており、手となる部分は猛禽類の鉤爪と似た形をしている。
目は猛禽類の目をしており、黒髪である。
そして、全体的に白いが様々な赤い花の刺繍が施された振袖を着ている魔物だった。
三体の魔物の中で落ち着いた雰囲気を放っている。
「『三怪』
「『三怪』
ローザは元気いっぱいな狼少女で、灰色の髪、灰色の狼耳、腰から狼のフサフサした尻尾を生やしている。動きやすい服装で胴鎧を身につけており、勇ましさが感じられる。
特筆すべきは手で、刃のように鋭い爪がある。そして不思議なことに先程その爪は大きかったはずであるのに、今はその爪は縮んでいるということだ。
「「「ここに見参!!!」」」
アイナ達は各々ポーズをとり、爆薬を仕込んでいたのか、何故か背後から煙が吹き上がる。
「……。また、濃いわね」
(……さっき言ってた担当のやつって……)
「さぁ! 次は貴方達よ! かっこいい自己紹介を期待してるわよ!」
オウロがラナ達に指を差す。
「ワタシ達もやるんですか!? えと、ワタシはラナ! じょ、情報担当です!」
三怪の魔物達はラナの自己紹介に拍手をした。
その時にラナは両手を前に突き出してピースをする。
「元気がいいしかわいいわよ! では次は黒髪の別嬪さん! 名前と担当は!?」
「……シズル。戦闘担当よ」
いきなり別嬪さんと言われて少し耳が赤くなりながらも、シズルは答える。
ちなみにポーズは取らなかった。
「なんで!? どうして!? ポーズとってくださいよシズル!! かわいいの見たいです!」
「ちょっと恥ずかしすぎるのよ勘弁して!」
「シズルでゴニャルね! では、次、材質が違うお方」
(ザイシツ……?)
メテットは自分の呼ばれ方に少し思うところがあったが、すぐに気を取り直した。
そして目をキリッとさせて真っ直ぐ立つと、メテットは自己紹介を始めた。
「トウキタイメイはメテット。『シンテンチケイカク』のため、ツクられたムジンタンサキ、それがマモノとなったもの。ゲンザイはラナとシズルにキョウリョクチュウのミであり、イドウシュダンをタントウしている」
そういうとメテットは素早く敬礼をし、
「——カノウセイのタメならどこまでも。メテットはケッしてアキラめません。どうかよろしくおネガいイタします」
数秒の沈黙が起こったあと、
「〜なんかすごいかっこいい!!」
ローザはピョンピョンと跳ね、
「これは……! いいわね。ギュンギュン来たわよ!」
アイナは頷いて唾を飲む。
「覚悟を感じたニャル。拙者のなりきり忍者と同種の覚悟……! 拍手を送らせて頂くでゴニャル」
コルネは認めるように拍手をした。
「最後の……敬礼しながらはちょっとかっこいいです……」
「ラナ? ……え何? この敗北感は」
今この空間の注目はメテットが支配していた。
何故か取り残された気分になるシズル。メテットは三怪に囲まれながらシズルを見て、
——ドヤ顔でピースした。
「こいつ……!」
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