第五章 百鬼魔盗団
第38話 本拠地に行こう
百鬼魔盗団の本拠地に向かうため、旅をするラナ、シズル、メテット。
地図を覚えているラナが先行してメテットとシズルが周囲の警戒をする形で進んでいた。
「マドをあまりトオいキョリまでヒラくのはやめとこう。マドのナカはソトからミえないとはいえイリグチとかミつけられたらコワされるかも。チカいキョリのマドをちょくちょくツカってスバヤくいこう」
「そうね。あのでかい図体だもの。騎士達に追跡されているでしょうし、隠れながら行きましょうか」
そういうわけで、基本は徒歩で、たまにメテットの窓で目的地を目指す。
「あら、虹? 綺麗ね」
「……あの虹。なんで太陽と同じ方向にあるんでしょう?……しかもうねって……なんだか、頭が」
「……ガ!? ギャガガガ、ガガ!」
「えっメテット!? どうしたの!?」
「うわぁ! 見ちゃいけない虹だった! シズル見ないで! メテット、しっかりして下さい!」
「あ、アタマ……ヒバナ……!」
旅の途中で見たものの精神を変える虹と出会い危うくメテットの精神が変えられそうになったり、
「こんなところでキレイなバラのハナびら……フれたらシぬ?」
「これは死にません! 運を変える薔薇の花びらです! 浴びたらいいことが起こりますよ!」
「そうなの? 普通の薔薇にしか見えないけれど……」
「あの魔物さんが撒いていますからね。間違いなしです」
「あの魔物? ……あの草刈り用の鎌持ってるなんか黒いやつ?」
見ると黒い麦わら帽子を被り黒い庭園師の衣装を来たカカシのような魔物がいた。顔は目と口のところを黒い絵の具で塗った白い布で覆われており、素顔はわからない。左手から薔薇の花びらを巻いて、右手には草刈りの小さな鎌を持っていた。
「……シニガミのハナびらじゃないこれ?」
綺麗な薔薇の花びらを浴びてちょっと幸運になりながらもラナ達は進んでいく。
途中、蜂蜜の雨がゆっくりと空から降ってきたので偶々近くにあった横穴の中で雨宿りすることになった。
「近くに穴があってよかったです。しばらく雨宿りしていきましょう」
「アメ……ヒトツブがメテットよりハルかにオオきいな。ソラにいるあのハチ? がフらせているのか」
メテットが上空に目をやると蜂蜜は大量の肉食性の働きバチに運ばれている巨大な女王蜂のようなものの体から滴り落ちていた。
「あんな魔物初めて見ます……蜂蜜にどんな魔法があるかもわかりませんし、しばらくここで休息ですね」
「そうかぁ。ちなみにメテット、窓でぴゃーっといけない?」
「こんなにフってるとマドのナカをトオってるアイダにかかりそう。フりオわってからなら」
「まぁだいぶ歩いたし今は休憩の方がいいか。そういえばメテット。今行こうとしてる百鬼魔盗団ってどんな感じなの?」
「あー……ワタシも噂でしか知らないんですけど、簡単に言うと常識が通じない盗賊団らしいです」
メテットは心底不思議そうな目をラナに向ける。
「……ジョウシキなんてモトからこのホシにナいだろ。さらにヒジョウシキってどういうこと?」
「何が起こるかが本当にわからないんですよ」
ラナは百鬼魔盗団が引き起こしたことを挙げていく。
「黄金洞窟の黄金をひとつ残らず奪いに行ったと思ったら中で宴会やって洞窟の主と友達になるし」
「怪しい団体の傘下に入ったと思ったら、団体の魔物軒並み逆さづりになって百鬼魔盗団に忠誠誓うし」
「何故か百鬼魔盗団の本拠地周辺で地盤沈下が起こるしで無茶苦茶なんです」
「……確かにおかしいわね。特に最後」
「その中でもおかしいのが親分さんで、一体であっちこっちに出没するんです。密林とか、雪山とか……」
メテットはラナの話に目を丸くする。
「オヤブンが? ナカマもツれずに? アブないじゃないか」
「はい。何度も襲われた話があります。有名なのが三怪と呼ばれる荒くれ魔物に命を狙われた話です。その三怪は今では元気に従者をしているのだとか」
「ちょっと待って。話飛んでない? もう一回言って?」
シズルは途中でラナの話を聞きそびれたのかもしれないと思い聞き返した。
しかし、シズルはラナの話を聞き逃したわけではない。
「飛んでないです。一応地形が少し変わるくらい争ったらしいのですが、どういう経緯で三怪が忠誠を誓ったのかは謎です。ちなみに他の襲われた話も、大抵襲った側の魔物が親分の仲間か友達になっているそうですよ」
「……いや、お人好しって聞いてたけど……」
(命狙った奴大体友達は懐広いわね)
「……ダイタイのやつナカマになるハナシばかりだな。タシかにそのトウリョウならキョウリョクしてくれるかも」
「だといいんですけど……やるときはやるって話もたくさんあるんです。空の君主と呼ばれた魔物が親分馬鹿にして領地丸ごと潰されたって話とか」
「まぁ盗賊団名乗っている以上、良い組織ってわけでもないでしょうしね」
「……コワい」
「まぁでも、いかないという選択肢はありません。体を強くしてもらわないと、あの男の前にも立てませんから」
ラナの左目の穴からチリチリと音がする。
「そうね……あら?」
百鬼魔盗団について話しているうちに、蜂達は何処かに行ってしまったらしい。
蜂蜜の雨はもう降っておらず、地面に大量の蜂蜜がへばりついていた。
「これはトオれそうにナいな。マドをツカおう」
「ありがとうございます。メテット、ワタシあの流れる感じが好きなんですよ」
「マエにもイってたな。キにイってくれてウレしい」
「〝ヒラけ〟」
メテットの正面に窓が展開される。
「じゃあ、先行かせてもらうわ」
シズルは先に窓に入り、蜂蜜のない所まで通って行った。
「じゃあ、ワタシも——」
メテットの窓にラナが入ろうとした時、背後から熱と視線が感じられた。
自分と同じくらいの少女が後ろに立っている気がして、思わずラナは振り向いた。
「……?」
「ラナ、どうした?」
背後にはメテットしかおらず、視線も熱ももう感じられない。
「いえ……なんでもありません。行かせていただきますね。メテットさん」
ラナはすぐに気のせいだと思い、メテットの窓へ入っていった。
メテットもすぐにラナ達の後を追って窓に入る。
じきに窓も消え穴は今まで通り何もないただの暗闇の空間となったのだった。
ラナ達は蜂蜜地帯を超え、さらに先へと進んでいった。
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