第37話 目覚めておさらば

「おはよウ。ラナ、無事でよかっタ。君に万が一があると思うと気が気ではなかったヨ」


「……あなたなんですね……起きて一番最初に見るの……」


 魔女はラナが寝ている間ずっとラナの顔を見つめていたらしい。


(目覚めてこれは……また逃げ出したくなってきた……逃げませんけど)


「まぁすでに夜だガ。もう一度寝るカ?」


「せっかく起きたのに!?」


「……ううん……」


「おや、こちらもお目覚めカ。おはよウ。親友」


「…………ラナ!」


「おぐぅ!」


 起きるな否やシズルは魔女をを押しのけてラナに駆け寄る。


「ラナ大丈夫!? なんか黒いの湧き出したりしてない!?」


「だ、大丈夫でひゅ! 顔! ひはらふよいでひゅ!」


「よ、良かった……ラナ、頑張ってくれたのね」


「……エヘヘ……ご迷惑おかけしました」


 シズルに吹っ飛ばされた魔女はラナとシズルを微笑ましく見る。 


「フフフ……友との再会。これぞ友情だナ……!」


「あっあんた! 戻った時に言おうと思ってたのよ! ラナ助けれたのには感謝するけど無断で魔法薬混ぜるのやめてくれる!?」


 シズルは注射器の中に対象を心の鍵に変える魔法薬を混ぜていたことに対して怒っていた。


「試したい魔法薬だったし、おあつらえ向きの状況だったのでナ。……興奮したぞ?」


「こっちは気が気でなかったわ! 『これ戻れるのかな』って思いながらラナの心の中探索してたのよ!?」


 シズルが魔女に猛抗議している中、メテットも目が覚める。


「う~ん。」


「! メテット!気が付いたんですね——」


「ラナ! ゲンキだな! ヨかった!」


「「!?」」


 ラナとシズルはメテットの顔を見てぎょっとする。


「メメッメテット!? 眉間に穴が開いてますよ!!?」


「まさか刺されたの!? そこを!?」


「ん? ああ、すぐシュウリする」


 シズルは魔女に怒りの矛先を向ける。


「~あんたァァァアアアア!!」


「怒るナ! 友は腕と胴がくっついてないから腕に打つと腕だけが鍵になるかもと思ったんダ!」


「だからって眉間に打つ奴がいるかあ!!」


「いル! 私ダ!」


「やかましいわ!!」


 魔女はシズルに投げ飛ばされる。


「ラナさん目覚めたかっておわぁ!?」


「魔女!? 飛んできた~!?」


 ちょうどそれが『実験室6』からやってきた人型眷属達に飛んでいった。



————

 魔女がシズルにしばかれ、シズルもまた体の少しを魔法薬としてとられた後、


「――すまなかった」


 タフラはラナに謝罪した。


「余はもう少しやり方を考えるべきであった。自分の怒りに任せて、このようなやり方でラナを苦しめてしまった」


「タフラ……謝らないでください。あなたは——」


「詫びねばならん。余自身が許してはならないと思っているのだ」


「……分かりました。その謝罪受け入れます」


「……ありがとう」


 タフラはラナに頭を下げる。

 それを見たキャスは安心した様子で


「うーんタフラとラナ様の関係もこれで落ち着いたかな~?」


「とはいえ、余は未だ命令権の件に関してはどうにかせねばならんと考えている。無論ラナを害さぬ方法でやらねば」


 タフラは真剣に悩む。


 そこに魔女がぬっと入ってきた。


「命令権? というかタフラとラナ仲悪かったのカ? となると私も謝るべきだナ。ラナ、タフラ、すまン」


「…………」


 魔女の謝罪はとてつもなく軽い。

 タフラは全身から『魔女に関わりたくない』というオーラを発していたが、魔女が気が付くはずもなく。


「それにしても命令権ネ……眷属であるからそれには服従せねばならんというものかナ? なら、変わっちゃえばいいんじゃないカ?」


「……変わる?」


「今タフラ達は眷属だからラナには逆らえないわけだロ? なら眷属を辞めて別の何かに変わればもうラナの眷属ではなイ。命令なんて聞かなくてよくなるんじゃないカ?」


 タフラは魔女の言ったことが信じられなかった。


「……出来るのか? そんなことが?」


「この千変万化する世界でこれしきの事出来ないわけがないサ。探していけば見つかル」


 魔女はきっぱりと答える。


「特にここはそんな可能性の宝物庫。意外とすぐに見つかるかもナ?」


 それを聞いた眷属達は皆タフラの肩を叩く。


「やったじゃねぇか! タフラの望みも叶いそうだ!」


「手伝うよ~タフラ! あたしたち別に眷属辞めなくてもいいけど! 眷属のよしみってやつ~!」


「ええ! もしかしたら更に強くなれたりするかもしれないですし!」



(こんな所に答えがあるなんて、余はなぜ今まで……そうか。余は魔物に怒りを向けていた。魔物に協力してもらうなんて……考えもしなかったのか)


「ともあれ……ともあれだ……! ハハ! ハーハッハ! ここからだ! ここからまた始めてやるぞ!」


 一筋の光明が眷属達に降り注ぐ。

 ラナ、シズル、メテットはその一部始終を眺めていた。


「……なんか元に戻ったわね」


「モトモトあんなカンじなんだな」


「でも、良かったです。ワタシもそれができるのならそれが一番だと思います」


「……その、イマサラなんだがメイレイケンとかのハナシはどういうハナシだったんだ? メテットクワしくシらない」


「そうでしたね。シズルには軽く話しましたけど——」


 ラナはメテットとシズルに改めて話をした。


「…………そうか……」


(ラナとアったトキからワかってはいたが、やはり……)


「メテット? 何かありましたか?」


 メテットの重い表情を見てラナが心配そうに見つめる。


「ああ。ラナあのオトコがイったことをオボえているか? アクマってやつ」


「悪魔……はい。覚えています。」


「そういえばあれどういう意味だったのかしら。悪魔ってどう考えてもあいつの方じゃない」


「メテットもよくシらない。ただアクマになるとそのマモノはまるでベツジンのようにフルマうようになる。そして、イッパンテキにアクといえるようなコトをやるようになるというハナシがある」


「また、ホントウにナカミがカわっていて、コントンをもたらすためにアクをなすともイわれている」


 ラナは目を見開いた。


「え……それって!」


「ラナのお父さんはあの爛れ野郎の襲撃のせいで悪魔になって、星の掃除屋ってやつに襲われた。それでそこから逃げるためにタフラ達を生贄にしたってこと!?」


「オソらく」


「じゃあもしかして……お父さんの意思じゃなかった……?」


「カノウセイはタカめ」


 シズルは怒りに震える。


「……結局、あいつのせいじゃない。あの爛れ野郎、何から何まで……!!」


「……しかし、ジッサイどうする? こちらはラナをヒトジチにとられているようなもの。うかつにテはダせない」


 ラナはうつむく。


「……」


「ラナが近くにいなければあいつはラナを燃やしたりしない。燃え尽きたら困るからね。だからラナの状態が分かる場面でしかラナを燃やさないはず」


「だからラナにはメテットの窓とかに隠れてもらって私があの男ぶっ倒してやるってのは?」


「いや……シズル、あの男とはかなり相性が悪いですよね? シズルだけ任せるのは危ないです」


「それにキシがいる。ミつけられたら、それこそホントウのヒトジチとなってしまう」


「……どうするか」


 悩むラナ達だったが——


「オッホッホ。今迄絶好調な私が知恵を貸してやろうカ?」


 クルクルと回りながら魔女が近づいてくる。


「「「……」」」


 ラナ達は少し嫌な顔をするが、実際あてもないので頼ることにした。


「と言ってもタフラに言ったことと同じことだガ。ラナ、君が変わればよイ。具体的には、体を強くするのダ」


「……耐性を上げるということでしょうか? それだと時間がかかりすぎます。あの男がその間に攻めてこないはずがない」


 魔女は両手を広げる。


「あるのサ。一時的だが強度をぐんと上げる方法ガ。私の知り合いにそういう魔法ことができるやつがいル。なんなら復讐に手を貸してくれるだろウ」


「「「……!!」」」


 ラナ達にとってはまさに渡りに船な情報である。


「強いゾ。なんたって私と同期、 “夜明け”で魔物になったやつダ。それでお人よしダ。ホホホ……」


「 “夜明け”から!? シズルと同じ!」


「ツヨさはキタイしていいな……!」


「ふぅん。で、そいつはどこにいるの?」


「ラナは知っているだろウ。『百鬼魔盗団』の本拠地に奴はいル」


 ラナは百鬼魔盗団の名前を聞き、顔を青ざめる。


「えっあの……しかも“夜明け”の魔物だとすると……」


「その親分だナ。あいつハ」


「……」


「……ラナダマらないで? ナニ? またヤバいとこ?」


「やばいというか……」


「まぁ今日はもう遅イ。明日になったら行くがよイ。今日はここで寝ていいかラ。ほラ。眷属達も早ク! ほらほらほラ!」


 そう言って魔女は無理矢理にラナ達を寝かせようとする。

 あきらかに寝たところを襲われる。その確信があった。

 魔女も眷属達もいなくなり、『実験室3』にはラナ、シズル、メテットが残っていた。


「……メテット」


「クチがアいてるからタブンいける。カイフクもしてる。ラナはダイジョウブか?」


「はい。たっぷり寝ましたから。大丈夫です。でも一応助けてもらいましたし……」


 ラナは魔女に書置きを残した。それを見たシズルは


「相変わらず親切ね。ラナ」


 と、やれやれといった風に言うのだった。


 メテットは宙に手をかざす。


「〝ヒラけ〟」


————

 大きな注射器を携えて戻ってきた魔女は膝をついていた。


「馬鹿な……いなイ!?」


「そりゃあんな強引なら誰だって怪しいと思うにきまっておろう」


「読まれていたというのか! 寝込みを狙う作戦ガ! ……面白イ!」


「無敵か? こやつ」


 呆れるタフラを尻目に魔女はベットの上にある書置きに気付く。


「ん……?」


『助けていただきありがとうございます。お礼はまたいつか、今はおさらばさせていただきます』


「ほォ……」


 魔女はにやりと笑う。


「ホッホッホ……いいだろウ。今はただ駆け抜けロ。またあった時に、このミステリカに新たな可能性を見せてくレ!」


 ラナ達は夜を駆ける。

 ひたすら前へ、前へ、進んでいく。

 果ての景色はいかなるものか。

 それは後のお楽しみ。


  復讐の旅はまだ半ば。











「百鬼魔盗団。。。安直だな。まぁいい。戻ってこい蝋人形」


 男は指示を出す。


「さて。。。行こうか。今度はきっちり準備してな」

  

 

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