第三章 魔女の腹
第19話 父の眷属
「それでラナ、落ち付ける場所って具体的にどの様な場所なの?」
怠惰亭を離れたラナ、シズル、メテット。
今はラナの案内の元、何日か進み、さまざまな植物が自生するアカカラスの森にまで来ていた。
アカカラスとは赤い烏の足に似た形状のキノコのことであり、鎮痛の効果がある。
この森にしか生えていないため『アカカラスの森』と呼ばれている。
「言っていませんでしたね。この世界で落ち着ける場所。それは父が作った隠れ家です」
「カクれガ! それはまさかラナがハナしていたキョテンのことか!」
「はい。メテットさんが探している“夜明け”の情報もそこにあります」
「ハヤくそこにイドウする。メテットのマドツカおう。ザヒョウオシえて」
メテットは目を輝かせてラナを引っ張る。
「いや、座標? とかわかんないですって! それにそこに行くのに必要なものもあるんです。それをここで見つけます」
「ここで? 事前に探すから窓でなく徒歩で移動してたの?」
シズルの言葉に頷くラナ。
「ええ。できれば道中で捕まえたかったんですけど……ここからは三人で森の中を探しましょう」
「ツカまえる? ラナのイうヒツヨウなものってなんだ?」
「蝶々です!」
「え?」
「チョ……?」
ラナのあまりにもメルヘンチックな答えに二人は耳を疑った。
「……つまり、ラナのオトウサマはカみついたものをケンゾクにカえるマホウをツカってチョウチョをケンゾクにカえ、そのチョウチョがカクれガへのミチアンナイとカクれガのカギのキノウをユウしていると」
「はい。なのでみんなで昆虫採集の時間というわけです」
「いや、昆虫採集って……その仕組みちょっと頭悪くない? 食べられたり、どっか行ったりして紛失とかするでしょ普通に。今だってそのチョウチョ生き残っているかどうか……」
怪訝そうな顔をするシズル。
しかし、ラナは胸を張って、
「大丈夫です。父は世界中に蝶々の眷属を放っていて、どの蝶々でも世界各地に存在する拠点の全ての鍵の役割を果たすんです。また蝶々の眷属も卵を産んで増えますし。眷属にされた影響か少し頭も良くなっているようなので絶滅とかはしていないと思います!」
それを聞いたメテットは別の問題をあげる。
「……それそんなにいるんだったらキョテンのカギカッテにアいてしまうのでは……」
「鍵の機能を果たしてくれるのはワタシか父がすごい近くにいる場合のみでしかも声で反応する仕組みなので勝手に開きませんし、他の誰かに開けられたりしません!」
「ニンショウキノウをトウサイしている……!? コウセイノウすぎない?」
あまりの多機能っぷりに思わず舌を巻く。
「へぇ。眷属にするだけでそんなに便利な生物ができるなんて。魔法って便利ね」
シズルも素直に感心する。
「……いえ、最初からそこまで便利だというわけではありません。学習させる必要があるんです」
「学習?」
「眷属にしても相手が命令を聞かないと意味がないので、命令を理解させるように教え込むんです」
「……虫相手に? 眷属化で知能上がっているとはいえ……」
途方もない話にシズルは気が遠くなる。
その蝶がそれほどの機能を有することが出来たのはラナの父の絶え間ない努力による賜物だった。
「……すごいのね。貴方のお父さん」
「はい。自慢のお父さんです」
「じゃあ、まぁ探してみましょうかそのチョウチョ。なんか特徴とかある?」
「はい。その蝶々は眷属化の影響で前羽が
ラナはふと思い出したように付け加える。
「この森だと、他にも
「えっもう一回言って?」
ラナが挙げた眷属のラインナップにシズルは思わず聞き直す。
「え?
「その前よ! トカゲ? カマキリぃ? イナゴ!? ラナのお父さんって嚙みついて眷属にするのよね!?」
「えぇ……はい」
(……嚙んだのか。それらを。よくよく考えたらチョウチョも相当だわ)
シズルは絶句した。
「本当に、すっごいわね貴方のお父さん……」
「さっきと意味合いが変わっていませんか……!?」
「ラナのオトウサマはゲテモノがスきなのか? まぁスキキライせずタべるのはコノましい」
「あんたまさかの肯定派!?」
探すまでに色々あったが、とりあえず、
「……蝶々さ~ん。どこにいますか~?」
「よくよく考えたらなんで
「それは、ミワけがつかないからじゃないかとスイソクする。あとコウモリはフエイセイだし、タンジュンにカみつきたくなかったのかも」
「ふーん。にしてもこの森でチョウチョ見つけるのなかなか難しいわね……あそうだ。メテットあんたの感知能力使えないの? それならあっという間に見つかるんじゃない?」
「確かに! メテットさん。どうですか!?」
「イチオウイマもしているが、イマだハンノウはない」
「そうですか……」
各自捜索するも何故か蝶は見つからない。まるで蝶が避けているかのように。
「ん? チョウチョじゃないけどなんか赤い植物見つけたわ。鳥の足みたいな」
「シズル。シゼンカイでアカはアキらかにドクだからサワらないホウがいい」
「それはここにしかないアカカラスですね。痛み止めになります。使いすぎると、ふぁ〜ってなって混沌と踊るような心地になるようです」
「ほら。シズルそんなのスておけ」
「そうね」
他愛無い話をしていたその時、メテットは蝶らしき生物を探知する。
「むっカンあり! ウエだ!」
パタパタと上空を蝶がまう。その前羽は
「いたぁ!」
シズルは跳躍し、蝶を捕まえようとする。しかし、素手ではさすがに無理があり、すり抜けるように蝶はシズルの手から逃れる。
シズルは重力には逆らえず、仕方なく着地した。
「くそっおとなしく捕まんなさいよ!」
「追いかけましょう!」
鍵となる蝶を追いかけ、森の中を駆ける。
追いかけてる最中にメテットは妙案を思いつく
「そうだ。ラナ。ケンゾクにメイレイしてチカづかせられないか? それならトウキタチもハシるヒツヨウがなくなる!」
メテットの提案にラナは青ざめながら首を横に振る。
「ムム無理です! ワタシだと命令の仕方が悪いのかこの森中の眷属が集まって来るんですっ! 今大量の虫にまとわりつかれたらワタシ狂乱しながら発火します!!!」
「それは、コマるな……やめとこう。」
(タブン、ケイケンズみだな。このハンノウは)
メテットはラナの体を虫が這いまわる図を想像して、少女の精神の為にもやめることにした。
上空を飛んでいた蝶々だったが、飛び続けて疲れたのか、次第に下降し始める。
蝶々を捕まえる絶好の機会がやってきた。
「しめたっ今よ!」
シズルは加速し蝶に近づく。
そして捕まえるまであと一歩というところで、シズルは何かを踏んだ。
次の瞬間、踏んだ方の足に嚙みつかれたような激痛が走る。
「――いったああああ!?」
予想外の痛みに絶叫するシズル。
そしてラナ、メテットはシズルの大声に驚き立ち止まる。
「シズルさん!? どうしたんですか!?」
「あれは……ワナ!? ラナ、ウゴくな!」
シズルに駆け寄ろうとしたラナを止め、メテットは周囲を自身の感知能力を持って走査する。
「ケイカイ。シュウイにワナタスウ」
「なっ……!」
「罠!? こんなとこで!?」
そういいながら、シズルはトラバサミを自力で剝がす。
シズルの右足はほとんどちぎれかけていた。傷口から血の代わりにバラバラと釘が落ちる。
「くっ…! 誰よ!」
シズルは気配を感じた方向に睨む。
罠を仕掛けた犯人が木々の間からゆっくりと姿を現す。
「えっ……!?」
その姿を見てラナ達は目を丸くした。
それは、人型であるが頭が蝶のそれであり、背中に前羽が
まさしく蝶の眷属が擬人化したような姿だった。
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