第18話 さらば怠惰亭
危機的状況にあったメテットとラナは、シズルの登場によりあっさりと解決した。
ラナ達は、最初ラナとメテットが怠惰亭に潜入したシズルを見ていた隠れる岩があるところで回復することにした。
地上でラナはシズルに吸血を行い、体の炎をまた体の内側に戻していた。
「……ありがとうございます。もう大丈夫です」
「本当? 火は消えたけど、体にまだ傷が残っているわよ? 私の魔力でそれも治さない?」
「ありがとうございます。でもお気持ちだけで……シズルさんの方こそワタシに触れた部分が火傷になっています。シズルさんは自分の傷を直してください。」
「……そう。ならそうするわ。」
シズルとラナは自分の体を修復した。
メテットはその様子を見て
「……ホントウ、キカクガイ、トウキはそんなにハヤくナオせない。トクにシズル。あんなにハデにウゴいてまだまだゲンキそう」
ラナはメテットを心配そうな目で見つめる。
「メテットさんは大丈夫ですか? 私のせいで……」
メテットの傷に対してラナは責任感を感じており、申し訳なさそうにしていた。
「ヘイキ。キカイのカラダならこうはいかないが、イマのメテットはマモノ、ジコシュウフクがカノウ」
そんなラナにメテットは微笑む。
「だからそんなカオをしないで。メテットはワラってほしい。それにラナ、あまりオちコむとまたモえる」
「……そうですか。分かりました」
悲しそうに笑うラナ。メテットはああ言ったが、やはり責任を感じてしまう。
メテットの方も微妙な顔つきになっていた。ラナを助けるためとはいえ、放り投げたことに対する罪悪感が押し寄せてきていたのだ。
そんなラナ達を見てシズルは少し慌てて
「ちょ、ちょっと落ち込みすぎよ!貴方達すっごい頑張ったじゃない!!力を合わせてあいつやっつけたんだから。本来戦闘とかは私の役割なのに……」
話していくうちにだんだんとシズルも落ち込み始める。
「……そうなのよね。あいつらを倒して、ラナ達の身を守るのが私の役割なのよね。なのに肝心な時にいなくて全然守れていない私が一番ダメなのよね……」
どんどん心が闇に吞まれていくシズルを見て今度はラナとメテットが慌てる。
「いや、そもそもシズルさんが別行動してたのはワタシが情報収集のためにで送り出したかで……! それにシズルさん。動けないワタシとメテットさんを担いで天井に釘で大きい穴を開けて脱出してくれたじゃないですか。紛れもない命の恩人ですよ!」
「そうだ。それにシズルはもうイッタイのロウソクキシとタタカい、ショウリしている。イマ、トウキタチがオちツいていられるのはシズルのおかげ。」
「……そうかしら。そう言われちゃ、私も落ち込んでられないわね……」
シズルは励まされ、元気を取り戻す。
(元気づけようとしたはずが、逆に元気づけられてしまったわ。)
「……そういえばシズルはトウキタチをどうやってハッケンしたのだ?」
メテットはシズルにずっと気になっていたことを尋ねる。
「え? ああ、あのロウソク頭を倒した後ラナとメテットがいないことに気が付いて、辺りを探してたらすごい地響きがしてね。地下にいると思ったのよ」
地響きは騎士が地下で爆発した時に生じたものこれによりシズルは地下の酒蔵に気づくことが出来た。
「それで怠惰亭の近くで爆発の煙は散ったはずなのに、未だ黒い煙をあげてる穴があってね。ここだと思って全力で走ったわけよ」
「なるほどそれでサカグラにタドりツいて、トウキタチをミつけたと」
「いや? 違うわ。あの時酒蔵崩れてたし燃えてたでしょ? だからどこにいるのか分からなくて」
「……フカカイ。ならどのようにしてミつけたのか」
メテットの疑問にシズルは正直に答える。
「ラナよ。探してたらラナが宙を舞っててね。だから見つけることが出来たのよ」
「…!!」
メテットは衝撃を受けた。自分の考えなしの行為がシズルに居場所を伝えることに繋がっていたことに。
ラナはメテットを見て、
「すごいですよ! これってつまり貴方があの瓦礫から助けてくれたことがワタシたちを助けることにつながっていたんです! ……本当にありがとうございます。今ワタシが生きているのはシズルさんとあなたのおかげです。メテットさん」
「……トウキは……メテットはただ……」
(こんなのたまたまだ。メテットは後先考えずに動いて…)
しかし、ラナの笑顔を見てメテットは考え直す。
(……いや、たまたまだったとしても……このエガオがメテットによるものもハイっているのなら……ウゴけてヨかった)
「……シズルさんもありがとうございます。ワタシたちを助けてくれたこと以外にも」
「それ以外? あのロウソク頭やっつけたことを言ってるのなら別に気にしなくても――」
「もちろんそれも感謝しています。今感謝しているのは、怠惰亭であの魔物達と戦ってくれたことです。あの魔物達、昔ワタシをお酒にしようとした奴らですよね。」
「……! あー……」
シズルはあの二人組を思い出す。昔ラナを酒にした自分勝手なあの魔物達を。
メテットはラナの話を聞き納得する。
「あれはそういうことだったのか。キュウにサしたとオモったら……」
「ワタシの為に怒ってくれたんですよね?」
「……別に気に食わなかっただけよ。」
〈仕返しって言ってたがよ。そいつからそんなこと頼まれたかぁ? てめぇが勝手にやってるだけだろぉ? 自分が楽しくなりてぇからさ〉
「……ごめんなさい。私は自分勝手に行動したわ。貴方に頼まれてもいないのに」
「何を言うんですか!! シズルさんはワタシが行くことが出来ないから、代わりに殴ってくれたのでしょう?だったらそれに感謝こそすれ、貶すことなど出来ません」
ラナはシズルの目の前に立って、丁寧にお辞儀をする。
「本当にありがとうございます。今回のことだけでなく、ワタシと共に復讐すると決めてくれたことも。あの炎からワタシを初めて助けてくれたことも」
そして最後にシズルに顔を向けてにっこりと微笑み。
「ワタシ、飛ばされたところで最初に出会ったのがシズルさんという優しい人で良かったです」
「——ぁ」
それはあまりにも、復讐鬼にとってはまぶしすぎた。
「シズルさん……? どうして後ろを向くんですか?」
「……目にゴミが入ったのよ」
ひと段落着いたところで、メテットが話を切り出した。
「それで……ジョウホウはエられたのか?」
「あ、忘れてたわ。ちゃんとあいつらの情報は手に入れたわよ」
「……ワスれるな。モトモトそれがモクテキだった」
「あはは……あんなことがあった後じゃ仕方ありませんよ」
「今話してもいいけど、できればどこかでゆっくりしたいわね。こんなとこじゃ気が休まらないでしょ?」
シズルの提案にラナとメテットは頷いた。
「サンセイ。しかし、このホシにそのようなバショがあるのか?」
「流石にあるでしょ。あんたこの星のことなんだと思っているのよ」
「ヒトがスめないカコクなカンキョウ」
「……否定できないわね。魔物はともかく人だとね……」
思わずシズルは頷いてしまう。
「いや、流石にありますよ⁉ ……いや、ありますよね……?」
ラナもなんだか自信がなくなってきてしまった。
宝石の花畑のような綺麗なところは確かにあるが、見てはならない虹が住む大樹のような危険な場所もいっぱいあるのがこの世界なのである。
「……と、とにかく! 腰を落ち着けられる場所なら知っています」
ラナは無理矢理話の流れを戻した。
「その場所はここからそう遠くありません。今から早速案内します。ついてきてください!」
「ここから近いの? まぁ早くつけるのならいいわね」
「リョウカイ。コウドウをカイシする」
こうして三人は怠惰亭から歩き出した。
三人の旅の果てにはどのような結末が待ち受けているのか。
復讐の旅は続く。
「……へへへっあっちにも、こっちにも釘がたくさん……」
酒樽の中からひょっこりと店主が出てくる。
店主は乱闘が起きた瞬間からずっと酒樽の中に籠り、全てが終わるのを待っていたのだ。
店主はシズルが残した、無数の小さな釘を拾い集めていた。
「へへへへ! こんなに、こんなにありゃあしばらく酒には困らねぇ。酒サケサケ……!」
店主は嬉々として釘を集めている。
その時、ぐさりと、店主の喉を蠟の剣が貫いた。
「……ぐげぇ!? てめえ地下から……」
店主の背後にいたのは、ほぼほぼ液化しかけていたロウソクの騎士であった。
店主は集めていた釘をばらまきながら、倒れ伏す。
「……」
騎士は空を見上げ、ただ一言。
「吸血鬼、発見」
そう言い残し、消滅していった。
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