第17話 大炎上
「……ここらイッタイのチカ、いくつものツウロがあってゼンブサカグラにつながっているのか」
井戸の中に入り地下を軽くスキャンしたメテットはその広大さに驚いていた。
井戸以外にも出入り口があるのか、ラナとメテットが通っている道以外にもたくさんの道があり、巨大迷路のようになっていた。
ラナは燃える体を明かり代わりにしながら、酒蔵への道を進む。
「ワタシもここを通った時は地下がこんなになってるなんて思いませんでしたよ。間違いなく怠惰亭よりももっとずっと大きいです」
「こんなところをトオったことがあるのか?……いや、もしかしてラナ」
メテットはある結論に行き着く。ラナはその様子を見て頷いた。
「はい。ここはお酒にされかけて、助けに来てくれた父と一緒に逃げた通路です」
「……ここがか」
「この道しか酒蔵に行く道を知らなかったのでかなり走りましたが……ここまでくればあと少しです。あとは酒蔵にたどり着いて、そこであいつを迎撃します」
「……ジッサイにどうやってムカえウつつもり? サカグラのサケのマリョクをトりコんで、ジブンをツヨくするのか? それに……」
メテットは心配そうにラナを見つめる。
「そのアカりガわりにしているカラダはダイジョウブなのか?」
ラナは少し笑い、
「大丈夫です。炎もある程度は制御できています。それに体が適応してきたのか、そんなに熱くはないんです」
「……」
(ダイジョウブではない。スコしカンガえればワかるコトなのにナニをキいているんだメテットは)
ラナの体が少し震えているのをメテットは見逃さなかった。あの恐ろしい騎士を倒すためとはいえ、トラウマがある場所に自分から入るのは並大抵の覚悟ではなかっただろう。それに体の炎の制御がいつできなくなるかもわからない綱渡りの状態だった。
そんな状態で大丈夫なはずはない。メテットは気を引き締めた。
(イッコクもでもハヤくこのジョウキョウをカえる。ラナの為にも)
「では実際に迎え撃つ方法ですが――」
ラナが作戦を説明する。
それを聞いてメテットは少し心配そうな目でラナを見たが、現状を打破するためにも頷いた。
「リョウカイ。ニンムをスイコウする」
「では、先に行ってください。メテットさん!」
「〝ヒラけ〟」
メテットは窓を開き、自分だけ入って酒蔵へと急いだ。
ラナも後を急いで後を追うが、その時井戸があったところから恐ろしい気配がした。
「きましたか……!ここからが正念場です!」
————
「ツいたが……ヨソウよりハルかにヒロい……!」
酒蔵に一足先に辿り着いたメテットは予想以上の酒蔵の大きさに驚いていた。
メテットの身長の何十倍以上はある棚に無数の酒樽がずらりと並ぶ。その圧巻の光景に足を止めて眺めてしまいそうになる。
しかし、今は時間が惜しい。メテットはすぐに気持ちを切り替え、酒蔵からある物を探す。
(あれはツクられてマもない。だからイリグチのチカくにあるはず……)
メテットは周辺を探すが目的のものは見当たらなかった。
(なぜ? いやそうか、おそらくタイダテイのナカにもこのサカグラにツヅくミチがあるんだ。だったらこのサカグラでタイダテイのマシタとなるイチにそれがある!)
メテットは酒蔵の周囲を探知し、怠惰亭がある位置から一番近い入口を探し当てた。そこはこの位置から遠かったが、
「〝ヒラけ〟マド!」
しかし、メテットは窓を用いてあっという間にそこに着く。そして目的のものを探して数分。
「ミつけた! あとはそのシュンカンまで、カクれる!」
メテットはラナが来るまで棚の隅に隠れて待機することにした。
「はぁっ、はぁっ……!あと少し……」
メテットに遅れてラナも酒蔵に到達する。
「メテットさん……見つけられたかな?」
メテットのことを心配するラナ。メテットを探そうと、周りを見渡したその時、
背中ににぞくりと寒気が走る。
ラナは倒れこむように前に跳んだがよけきれず、背中に切り傷を負う。
「ぐっ……!」
切り傷から炎が噴き出す。
ラナは背中の痛みに耐えながら後ろを振り向く。見るとロウソクの騎士が足を液化させることで足音を消し、いつの間にかすぐ後ろまで来ていたのだ。
騎士は足を元に戻し、無言でラナに近づく。
ラナは地を這いながら少しでもロウソクの騎士が離れようとする。
「うぐ……」
そんなラナを騎士は逃さず無造作に首を右手で掴み持ち上げる。
少女の力では騎士の腕を振りほどけない。かと言って少女を燃やす炎では騎士を焼くほどの火力が足りない。
しかし、この絶体絶命の状況でなお、ラナの目は死んでいなかった。
「今ですメテットさん!!」
大声でラナはメテットに合図を送る。
その声に反応し騎士の左側の空間から窓を作って飛び出した。
「トウテキ」
メテットは樽を騎士に向かって思い切り投げつける。
その樽を騎士は左手に持っていた剣で真っ二つにしてしまう。
その際に樽の中に入っていた黒くてドロドロした液体が騎士の全身にかかった。
それを見てメテットはにやりと笑う。
「……メイチュウカクニン、ニンムタッセイ。」
その言葉が気になったのか、ロウソクの騎士はメテットの方を向く。
その隙をラナは見逃さなかった。
「―〝燃やせ〟!」
ラナは今自分を焼いている炎を騎士の方に向けさせた。
黒い液体はその炎に引火し、騎士の体は炎に包まれる。
その姿を見てラナは叫ぶ。
「それはシズルさんの釘酒です! “夜明け”から今日まで生きてきた規格外の魔物の魔力で作られた物です! お前を焼くのに最高の燃料ですよ!!」
蠟でできている騎士の体はドロドロと溶けていく。そして腕が溶け始めつかむ力が弱くなり、ラナは騎士から解放される。
メテットは解放されたラナを引っ張り燃え上がる騎士から離れる。
「アチチ……! ラナ、ハヤくハナれて……! ラナまでモえツきる!」
「ワタシの炎はどうですか⁉ 髄まで燃えてしまいなさい!」
「ラ、ラナ! オちツいて! コワい!」
さっきまで危機的状況にあったからかラナは自分がどうなってもいいと思うくらいにこれ以上ないほど興奮していた。
ラナの炎に若干手を焼かれながらメテットはそんなラナをシズルの酒から引き離す。
「しかし、サケがモえるだけでここまでのカリョクとなるとは……あのサケにどれだけのマリョクがこもっていたのか……」
メテットは燃え盛る騎士を見ながらそう呟いた。
騎士の体はドロドロになっており、もう何もすることはできないように思えた。
ゆえにラナもメテットもこのままロウソクの騎士が燃え尽きていくのを見ているだけだと思っていた。
二人はまだ知らない、騎士の体の中にもラナと同じ炎が宿っているということを。
燃えていた騎士の体がいきなり輝きだす。
「え?」
「ナニ⁉」
次の瞬間騎士の体が大爆発した。
————
「……ウ……グ」
メテットは何が起こったのかはわからなかった。ただ騎士の様子がおかしいことを察知して燃えてるラナを投げ飛ばし、メテット自身は窓で離脱しようとした。
しかし、そのどちらも時間が足りず二人は爆発により吹き飛ばされた。
シズルの釘酒という燃料があったこともあり、騎士の爆発はすさまじいものとなった。この衝撃により辺り一面は火の海となり酒蔵が崩れ始める。
圧死か焼死か。二人は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた。
「くっラナ……」
メテットは破損した体を無理矢理起こし、ラナの元へ向かう。
「……」
ラナは気絶してしまっている。今この状況でそれは何よりもまずいものだった。
(ヒのイキオいがチガいすぎる…! キをウシナってセイギョができていないのか…)
ラナの体は今までの比にならないくらい燃えていた。
「……ナンの‼」
メテットは燃え盛るラナを掴んで背中に背負う。メテットの背中が熱によって壊れていく。しかし、メテットは気にせず出口へと急ぐ
「ラナはミライあるイノチだ……! メテットはよりよいミライをネガうモノ、こんなトコロでオワらせない‼」
メテットは叫んだ。すると急に火の勢いが弱まる。
「……メテットさん。すいません……背中が」
メテットの声で気がついたらしい。起きたラナは炎を全力で抑えていた。だがそれでも、火は未だラナの体を焼いており、体の3分の1が黒くなっていた。
「カマうな。イマはここから――」
メテットの言葉が途中で途切れる。
天井の一部が崩れ、二人にめがけて落下してきたためだ。
(カイヒ、フカ)
落ちてきた天井は大きく、今のメテットには避けられない。ラナが燃えている為、窓も使えない。
メテットの動きに迷いはなかった。
ラナは宙を舞う。
「……メテットさん?」
ラナだけでも助けるために、メテットが投げ飛ばしたためだ。
実際のところラナは火傷により一人で脱出することはできない。
つまり、メテットの行動に意味はない。
(センタクを、アヤマった。カラダがカッテにウゴいてしまった)
すぐにそんな考えがメテットに駆け巡る。
しかし、悲痛の表情でこちらに手を伸ばすラナの火傷まみれの顔を見て
(ああでも)
(あんなヤサしいコのカオがラクセキでツブれなくてヨかった。)
「メテットさ――ああああぁああああああ!!!?」
ラナの声が響く。それは悲痛の叫びではなく、空中でわしづかみにされたことによる驚きの声だった。
ついでと言わんばかりに、メテットに落ちようとしていた天井の一部も空中で粉々になる。
「え?」
何が起こったのかわからないメテットは空を見上げる。粉々になった天井の代わりにラナを掴んだ女が落下してくる。
「……な、な……!?」
メテットは落ちてきた人物に驚愕する。
「ようやく見つけた。急いで出るわよ!!」
ラナを小脇に抱えたシズルがそこにいた。
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