第二章 怠惰亭
第10話 窓
「メテットの“窓”って中は筒状になってるのね。穴の先が目的地みたいなものだと最初思ってたけど」
釘の島から、メテットの力で抜け出すことができたシズルとラナ。二人は今もメテットが作り出した空間の中を流れるように進んでいた。メテットの作った空間は筒状になっており、そこまで広くはない。
その中は、入口から出口へ進む力が流れている。ラナ達はその流れに乗って空間の出口へと進んでいる状態である。
「セイカンイドウのトキもジカンがかかるといったはず。そんなザヒョウをごまかすようなイドウができるソンザイはメッタにいない」
「へぇ。……あれ? ラナがあの島に来た時とかいつの間にかいたって感じだったけど……もしかして」
シズルは体を後ろに向けてメテットの方に振り向く。
メテットは少し微妙な表情を浮かべながら
「……コウテイ。ラナのオトウサマがそんなソンザイ」
「ワタシのおと……父が!?」
ラナが驚いた声をあげる。
「そう。トウキがわざわざあのシマまでカクニンしにキたリユウ、スコしはリカイできた?」
「へぇ。ラナ、貴方のお父さんすごいじゃない。あれがなかったらメテットが遠路はるばるここまで来ることなかったんだから」
「でも、父は……じゃあ父は何でその力をもっと早く……」
ラナがそう思いたくなるのも無理はない。そんな力が最初から使えていたのなら、このようなことにはなっていないのだから。
「それはそのシュンカンになるまでチカラをツカえなかったから」
ラナの疑問に対してメテットが答えを示す。
「えっ? 使えなかった?」
ラナはますます自分の父が何者だったのかわからなくなる。
(一瞬で海を越えての大移動を行える力なんて、そんなぽっと得られるはずがない。しかもあの瞬間に都合よく……)
父のことについて考えているラナを見たメテットはふいに、
「シンパイしなくとも、アナタのオトウサマはアナタをタスけるのにそのチカラをダしシブったなんてことはない」
「メテットさん?」
「……アイゆえだ。ラナ。ウソみたいなハナシだろうけど、アナタのオトウサマはダイジなアナタをタスけたいがために、そのチカラをアナタをスクうトキにハジめてアツカえるようになったのだ」
「いいこというわね。ラナ。娘が父の愛疑っちゃダメだってさ。まぁ、私も貴方のお父さんが愛してなかったはないと思うわ。貴方とても礼儀正しくて、優しいし。しっかりと育てられた証拠よ」
「……フフッ。ありがとうございます」
そんな会話をしていたら、出口が近づいてきたらしい。先の方で光が見えてきた。
「あら、もう出口? 最初はああいったけどこうしてみるとやっぱり早いわね」
「そうですね。あっという間って感じでした」
「ハヤくなければイミがない」
「……そういえば」
シズルはまた後ろを振り向く。
「なんで私が先頭なの? こういうのってメテットが先頭に出るとかじゃなくて?」
「確かにそうですね。ワタシも魔法を使っている人が先頭に立つものだと思ってましたが、メテットさん一番後ろですよね」
現在、シズル→ラナ→メテットという順番で、シズルが先頭、ラナが真ん中、メテットが最後尾という順番で筒状の空間の中を流れている。
二人の疑問に対してメテットが説明する。
「リユウはフタつ。このクウカンのソトからナカのヨウスはミられないがこちらもソトのヨウスはミえない。トウキはブッシツやマリョクをカンチするキノウがソナわっているので、イドウのトチュウでセッショクジコがオこらないようにチョウセイする。だがゼッタイはない」
「途中でぶつかってしまう可能性があるってことですか?」
「そう。だから、イチバンセントウリョクのタカいシズルにマエにいってもらった」
「へぇ。まぁ戦闘なら自信あるし、納得したわ」
「ぶつかるといっても、タイテイのバアイはチョクゼンでキづける。だからタタカってもらうトキはおシらせする」
「わかったわ。任せときなさい」
「……シズルさんが前にでるのはわかりました。では、メテットさんが後ろなのはどうしてですか? それが二つ目の理由ですか?」
ラナもメテットに聞くために後ろを振り向いた。
「コウテイ。このクウカンのトクチョウとして、ナカにハイったものはナガれにノってカソクしツヅける」
メテットが話している間にも段々と出口の光は近づいてくる。
「え? それって」
ラナはある一つの問題が考えつく。ここで加速した物は出口に減速もせずに辿り着いた時、どのような挙動をするのだろうか。
「そして、カソクしたブッタイはキュウにはトまれない」
「……ちょっと待って、まさか」
「ダイジョウブ、シュウイにテキエイはない」
一番にシズルが、次にラナがメテットの窓を出る。
ポーンッとシャンパンのコルクが飛ぶように。
「ぎゃあああああっ!?」
「ひゃあああああああ!!」
ズテン。ゴロゴロゴロ
二人は転がる。メテットの言うとおり、加速した二人は急には止まれず、窓から飛び出してしまった。
そして、最後尾にいたメテットはというと
「まぁ、ハジめてのカタはこうなる」
空中で一回転し華麗な着地をしていた。
「あんた……しばいてやる……」
(メテットさん……意外といたずら好きなのかな……?)
二人はようやく止まったが、全身土まみれとなっていた。
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