第34話五年前~ユリウス王子side~


 母上が王宮の一角に幽閉されたのは、あの小娘のせいだ!

 

 ブリリアント・シャイン公爵令嬢。


 あいつが母上と交流したいと王妃に言い出さなければこんな事にはならなかった!

 侍女ともの話ではシャイン公爵夫人が提案したというが、どうせ、あの女が母親に強請ったんだろう。あの小娘が馬鹿なことを言わなければ母上が公の場に出る事はなかったんだ!



『ユリウス殿下、婚約者のシャイン公爵令嬢はシュゼット側妃様のために色々と骨を折ってくださいました。お陰で王宮に残れることに相成りようございました』


 老執事が世迷言をほざいたのを思い出した。

 後宮にある母上の離宮の老執事は、何かと小言が煩かったが、あれはない。なにが王宮に残れて良かった、だ!ちっとも良くない!本来なら母上は王妃に次ぐ地位だ。王宮に一等格式の高い部屋に住むべき女性だ。


 あのような離れに小汚い館に住まわれるとは……お労しい。


 館での母上の顔が脳裏に浮かんだ。


 いつもは優しく微笑んでいる母上の目から涙が溢れていた。「私のせいなのです」「私がいけないのです」「私が悪いのです」と、繰り返し謝り続ける母上が不憫でならない。


 最初から気に入らなかった婚約者。

 今では憎しみしか湧かない。


 婚約者にこの度の責任を取らせてやろうと抗議しに行ったら「何か御用ですか?」ときた! 用があるから僕がわざわざ公爵家にまで足を運んだんだろう。用が無ければこのような場所にはこん!察しろ!!

 その上、僕が怒っている理由が分からないと言わんばかりの態度。言わねば分からないとはアホなのか? 少し考えれば分かる事だろう! 母上を虐めただけでは飽き足らずに幽閉されたのは貴様のせいだと言えば「シュゼット側妃の行動の結果です」と言い放ったのだ! ここで、母上に謝罪の一言でもあれば僕も少しは小娘を見直したかもしれん。が、そのような素振りは一切なかった! それどころか「感謝しろ」だと……ふざけるな!! どこに感謝する要素がある? 本来なら修道院行きだと? 馬鹿な、母上は次期国王である僕の実母だ。そんなことできるものか! 


 公爵令嬢の「自分は何も悪くない」と言わんばかりの態度に憎悪が募る。

 こんな事になっているのは誰のせいだ!貴様のせいだろう!!


 思い返せば、厳しい父上がシャイン公爵家には何故か甘いことにも気に食わなかった。父上の実弟だからか?公爵夫人が元皇女だからか? 今はただの臣下ではないか!国王である父上が機嫌を取る必要など何処にもない!

 それに既に貴族令嬢としての立ち居振る舞いを身に付けていることにも苛立ちを覚えるのだ。


『ブリリアント嬢に王太子妃教育は不要です。既に完璧な作法を身に付けて御出でになられました。未来の妃殿下として実に理想的な令嬢でございます』


 公爵家に赴いた歴代の妃教育のスペシャリスト達が絶賛した。そんな筈があるか!あれほど無礼な小娘が完璧であるはずがない!絶対に嘘だと思った。確かに所作は完璧だった。優雅で美しく品があった。だが、それが逆に鼻についた。あの小娘は人を苛つかせる天才だ。


 彼らが言う「理想的な令嬢」とは表現が乏しく何を考えているのか分からない小娘の事を言うのか?

 王太子に対等に口をさすことをいうのか?

 冗談ではない!!



『ユリウス殿下はシャイン公爵令嬢の事を悪く捉えすぎでございます。公爵令嬢は王国にとってかけがえのない存在。ブリリアント嬢を大切になさることは王国の安寧に繋がるのです。殿下は生まれてこのかた、シュゼット側妃の傍を離れることなくお過ごしになられたせいで少々視野が狭まっておられます。どうぞ、広い視野で物事を見てくださいませ。そうすれば、公爵令嬢の如何に価値のある方なのかを理解される事でしょう。殿下、ご自分から歩み寄られるのも大事でございますよ』


 あの耄碌執事が~~っ!!!


 言うに事を欠いて、あの小娘と仲良くしろだと!?

 しかも「かけがえのない存在」!?

 馬鹿な!この国で「かけがえのない存在」は僕だろう!


 執事の分際で王太子に意見するとは何事か!!


 即座にクビを命じてやった。当然だろ!

 母上の執事という名誉ある地位から引きずり降ろしてやった。あの老執事はもう後宮処か王宮にも居場所はない。いい気味だ!母上ではなく小娘の味方をした罰だ!後宮からクビを言い渡された執事に碌な再就職先などないに等しい。路頭に迷うのが関の山だ。そう思うと溜飲が下がる思いがした。

 老執事が荷物をまとめている話を聞くと王宮を去る日はこれまでの多少なりとも世話になった礼として送ってやろう。さぞかし気分の良い事だろう。心配性の母上には内緒にしておかねばならない。なに、母上に相応しい執事など他に幾らでもいる。



 老執事には罰を与えられた。

 しかし、その一方で他の妃やシャイン公爵家母娘には何の咎めもない。母上をこんな目にあわせて一切罰が与えられないなどおかしいではないか!何かしらの処罰はあってしかるべきではないのか!?


 不公平だ!!!


 小娘だけだはない。

 あいつら全員、僕の敵だ!

 絶対に許さない!

 いつか必ず報いを受けさせてやる!


 今にみていろ!!!

 




 

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