第25話六年前~ウジェーヌ王妃side~
「王妃殿下、お花はこちらで宜しいでしょうか?」
「ええ、それで大丈夫よ。茶器の準備はできていて?」
「はい。帝国産の薔薇の絵柄模様の磁器を準備致しました」
「宜しい。レオノール様は特に薔薇がお好みだわ。おだしする菓子は甘すぎないようにね、お茶は必ずストレートでお出しして頂戴」
「畏まりました」
侍女達が頭を下げて明日の茶会の部屋から退室していく。部屋の中に残っているのは王妃である私と侍女頭、それと護衛兵の二人だけになった。私は椅子に座りなおすと小さく息をつく。
「王妃殿下、何かお飲み物でもお持ちいたしましょうか?紅茶などいかがでしょう」
「いいえ、結構よ。ここは明日、大切なお客人をお招きする場所ですもの。何かあってはいけないわ」
専属として仕えている侍女頭の言葉に首を横に振って答えた。この場には帝国皇女に当たる公爵夫人とその御令嬢がお見えになる予定。気を引き締めなければならないわ。
「それでは、お部屋に戻られますか?」
「そうね……いえ、もう少しここで外の様子を眺めていようかしら。ここの窓からなら庭園の花も一望できるでしょう?」
私の言葉に侍女頭が少し困ったように微笑む。この侍女頭は心配性なのできっと私の体を案じているのでしょう。
「ですが、王妃殿下のお身体をお冷やしになっては……」
「大丈夫よ。ありがとう。貴方はもう下がって構わないわ」
「王妃殿下」
「心配ないわ、すぐに戻るから先に自室に帰っておいでなさい」
「……はい、承知いたしました。それでは失礼致します」
納得していない表情を浮かべながら侍女頭が静かに頭を下げると扉に向かって歩いていく。部屋の外へ出ていく彼女の背中を見送った後、窓の方へ近寄っていくと眼下に広がる美しい庭園の風景は張り詰めていた緊張感を解きほぐすかのようだった。
明日はいよいよシャイン公爵家の方々がいらっしゃる。
まったく、陛下も無茶な事を仰るものです。
ですが気持ちは分からなくもありません。
恐らく、ユリウス王子とブリリアント嬢の仲が上手くいっていない事が原因でこのような行動にでられたのでしょう。確かにあの二人が結ばれれば国力は大幅に上昇するでしょう。王家としてもこれ以上の良縁は望めません。けれど何故でしょう。胸騒ぎがするのです。このまま事が進んでしまえば良くないことが起きるような……。
漠然とした不安感を抱えながら私はしばらくの間、美しい庭園の風景を見つめ続けていました。
陛下は憂慮されているのでしょう。
それは分かります。国を想うが故の行動だということもよく理解しております。しかしこれは些かやり過ぎではないでしょうか。「婚約者の親だからシュゼット側妃に後見人になれ」と言うのは幾ら何でもありえません。私でも拒否する案件です。側妃の後見人を王命で命じられたコリンズ伯爵には申し訳ありませんが、これ以上シャイン公爵家や貴族派の反感を買うわけにもいかないのですから仕方ありません。
まさかユリウス王子とブリリアント嬢の仲が良くないのは予想外でした。こう言っては何ですが、ユリウス王子は幼いながら目を見張る美しさがあり聡明な少年です。身分の低い側妃の王子ということで今まであまり表に出る事はありませんでした。
あれは何時だったかしら?
陛下の気まぐれでパーティーに参加するように促された時でした。小規模なパーティー。それでも参加したパーティーでは注目を一身に集めたユリウス王子。奢な金髪に碧眼をした華やかな美貌は同年代の令嬢達の心を鷲掴みにしていました。だからこそ王子の美貌にブリリアント嬢も夢中になるのではないかと期待していた部分がなかったとは言いません。陛下はそうなるであろうと目論んでいたのも事実ですが、どうやら陛下の目論見は外れてしまったようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます