第24話七年前~モントール元伯爵side~


 ねえ……さん。

 姉さん姉さん姉さん。

 綺麗で、優しくて、そしてバカな姉さん。

 自分の美しさを理解していなかった。

 姉さんほどの美少女なら幾らでもいい男が群がってくるっていうのに、貧乏騎士と将来を誓い合ってた。騎士爵家なんて平民と大差ない。それは姉さんが一番よく分かってたじゃないか!!

 僕は知ってるんだ。

 姉さんの美貌に目を付けて大店の商家から嫁にって話がきていた事を。

 貴族からも妾にどうかって話が幾つもあった事を。


 姉さんだけじゃない!

 父さんもどうかしてるんだ!

 あんな貧乏男の肩をもって!!


 姉さんの美貌なら国王にだって見初められるはずだ!

 なのに「分相応の暮らしが一番だ」とかなんとか言い訳を作って!!

 馬鹿みたいに義理堅くて貧乏な男と一緒になってところで苦労は目に見えているだろ!?


 王家の狩り場が家の近くにあったのが幸いした。


 だから国王の目に留まるように姉さんに色んな衣装を着せたんだ。姉さんは小さい弟のワガママを聞いているだけ、と思っていたみたいだけどそうじゃない。


 僕の予想は当たった。


 国王に見初められ後宮入りした。


 当然、貧乏男との縁は切れた。

 それはそうだろう。今や、姉さんは国王陛下の所有物だ。下手な事を言えば首が飛ぶ。


 父さんは姉さんの幸運を喜ばなかった。


『陛下は気まぐれな方だ。寵愛も長くは続かないだろう。飽きられた時になんとか家に戻してもらえるように働きかけよう』


 なんて馬鹿げた事を言い始めた。


『シュゼットが戻ってきたら改めてプロポーズを申し込みます』 


 父さんの言葉を貧乏男が真に受けてしまったじゃないか。

 あの時は焦った。

 万が一にも姉さんが戻ってこれて貧乏男と結婚なんかしてみろ、元の木阿弥だ。


 後宮は危険?

 権謀術数渦巻く戦い?


 それがどうした。

 貧乏男に嫁がすよりとっぽどマシってもんだ。

 だいたい、父さんは悲観的過ぎるんだ。寵愛されなくなっても子供さえ出来ればこっちのもんじゃないか。庶子でも十分な金がうちに転がり込んでくる。まさに金の生る木だ。どうしてそこに目を付けないのか分からない。


 僕は賭けに勝った。姉さんは無事、子を産んだ。国王の子供だ。それも王子を産んだ。

 金髪碧眼の姉さんによく似た子だった。喜ぶ僕とは反対に父さんと姉さんの顔色が優れない。


『許されない事だ』


 父さんが呟く。


『罪深い』


 姉さんが嘆く。


 まったくバカバカしい。

 誰の子かなんて関係ない。僕にとって重要なのは「姉が後宮で王子を産んだ」その一点だったからだ。目論見通り、姉さんは妃の一人になり、僕は伯爵になった。


 なのに……。

 どうして今こんな目にあっているんだ。


 ユリウスが国王に即位すれば公爵位だって夢じゃなかった。


 こんな……はずじゃあ……無かったんだ。……そうだ。きっとこれは悪い夢なんだ。そうに決まっている。









「大丈夫か?」


 ふと気が付くと見知らぬ男が目の前に立っていた。どうやら気絶していたようだ。ははっ、随分手荒く抱かれたからかな?


「これを飲め」


 男に水の入ったコップを差し出される。

 喉もカラカラだったので受け取って一気に飲み干した。すると意識していなかっただけで、かなり渇いていたようですぐに空っぽになってしまった。そんな様子に気づいて男はおかわりを持ってくるといってくれた。ありがたい……けど……。おかしいぞ……この男は……誰なんだ?


 なんだか体が熱くなってきた。


 戻ってきた男の手が体に触れると、触れた手から伝わる体温に思わず声をあげてしまった。

 熱い!

 なんなんだ一体!?

 この体の火照り方は異常だ。


「大丈夫かい」


 優しい声にぞくぞくする。


 疼く体に堪えきれず男に抱きつく。もっと、ちゃんと触れて欲しい。全身くまなく撫でまわして欲しい!ああ!熱い……早く触ってくれ!もう我慢できない!

 

「良い子だ」

 

 耳元で囁かれる言葉にも反応してしまう。

 はやく、はやくしてくれ……!

 もうこれ以上は待てない!……熱い……熱いよ……!


 ああ……そう、そこ……いいよ……どんどん気持ちよくなっていく。



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