第23話

 

『流れ星』ことカリノア・ホシノ。『異能』は『偽光速アンフラッシュ』、光のように閃光を放ちながら目にも留まらぬ速さで動けるというものである。


 これがナツメさんじゃなかったら一発でKOされていただろう。俺の眼では光ったと思ったらナツメさんの『異能』が反応して爆発していた。つまり、一瞬で攻撃して反撃を受けたということだ。


 カリノアは爆発に巻き込まれていない。爆発した瞬間に離脱して大きく距離をとり回避している。


 これが鍛え上げられた『異能』なのか、そう戦慄するしかなかった。


 瞬く間に人を殴りつけることが出来る、しかし例え目で捕らえられぬ攻撃を受けてもしっかりと自動で反撃している『異能』も存在している。俺がカリノアを相手にするとあっという間にのされるだろうし、ナツメさんを相手にするといくら攻撃しようと反撃されるだけだ。


 普通の人間では勝てないということがよく分かる。俺がかつて持っていた予知の『異能』では太刀打ちできないだろう。予知できたところで避けられなければ、有効な攻撃が出来なければ意味がない。


 彼女たちが居る世界で苦労しなくてよかった。


 もし、そうなら犠牲は多大なことになっただろう。


「はっはー!そんくらいのへなちょこパンチでうちを倒せへんで?」


「全く、それ硬すぎじゃない?一物受け入れないわよ?」


「それ関係あらへん!いまする話しちゃうやろ!?」


 何で下ネタの話をしてるんだあいつ。いや、この世界の女らしさと言ったら愛嬌よりも度胸だ。こんなやり取りが当然なんだろう。


「そうゆうおばちゃんこそ早すぎて相手に呆れられとるんやろ!知っとるで!」


「まあ!私の早さは最高峰よ、その分何回でもイけるんだから殿方の負担は少ないのよ」


「自分だけ楽しんどるって事やないか!」


 テレビでも他の闘技者の大会を見てるが舌戦もまあ酷い。下ネタお色気何でもござれ。服が破れて乳首が露わになってもモザイクしなかったのは吹いたね。


 流石に股間部分の服が破れたら、その闘技者の顔をモザイク代わりにして隠していた。


 なお、ナツメさんの対戦を上げている動画を見ると大抵の女性が服を剥がされていた。爆破が相手だと服は吹っ飛ばされるのが常らしい。


 だが、相手のカリアノは傷一つ付いていない。昭和スターのようなヒラヒラ紐を腕につけているが焦げた様子も見られない。


「そぉいっ!ちぃっ、ウロチョロしよって!」


「そんなノロマなパンチ、当たるとでも?」


 お互いが単純に相性が悪い。ナツメさんが走ってカリアノを殴ろうとしたが閃光を出しながら紙一重で避けられている。


 爆破のパワーは強くても通常のスピードは一般人、いや、鍛えているからそこそこある程度。だが相手は速度を極めたような存在、並大抵の速度では追いつかない。


 動体視力も強化されているのか、ナツメさんの拳は全て空振りで終わる。先ほど紙一重と言っていたが、だんだんと調子を上げるように回避行動が踊りのようになっていく。光を魅せながら攻撃をかわすその姿は芸術の一種なのかと思えるほどだ。


 つまり、これは最初からそういうもの?ナツメさんも攻撃を当てようとしてはいるが、どこかやる気がないというか、最初から避けられることを予見している?


 どう見てもお互いが千日手でどうしようもない状況だからこそ、敢えてパフォーマンスを重視している?


 確かに闘技場は殺し合いの見世物ではあったが、年代を重ねるごとに競技の場として変化していった。


 今、まさに殺し合いでなく己の美しさを魅せる競技と化している!


「ほらほらほら!こっちばかり攻撃で来てるわよ!」


「しゃらくさい!その程度でうちに怪我させられると思っとんのか!」


 ガンガンとナツメさんを殴る蹴るで目に留まらぬ攻撃をするカリノア。それと同時に起こる反撃は閃光を線のように引き伸ばしながら大回りで回避している。


 中心で起こるナツメさんの爆発は花の中央のように、カリノアが引く閃光は大きく弧のように描かれ花弁のように。


 そこに咲き誇るは光の華。少々眩しいが美しい。素人目でもわかるほどの作品を、必ず壊れる美術品が今ここに顕現している。


『美しい!結局どっちの勝敗になるか分からないけどな「流れ星」名物「光の華」!カッチカチのあてに見せる芸術品は全盛期から全く衰えていない!』


 どうやら千日手になった時の十八番のようだ。よく考えたら『異能』を戦いという中で見せつけることがメインであるから倒せないが余裕があるなら遊ぶのも納得だ。


『ナツメ・ユキジの爆破も相まってさらに光る!これ歴代で最高峰じゃない?』


 めしべの鮮やかさを示すように爆発をし続けて、花弁は常に新たなものへと作り変えられる。


 いつまで続くのか?一応だが闘技場にも制限時間はある。このように千日手になった時に時間調整するためだ。


 とはいえ時間調整と言ってもカリノアは超高速で動き続けている。体力の消耗だって並大抵ではないはずだ。


 それでも一向にスピードが落ちない。気づけば既に10分以上たっているはずなのにナツメさんはともかく、カリノアは止まらない。体力が一切衰える気配がない、化け物か?


 だが俺は知らないうちに興奮していた。性的なものではないからな?


 これが『異能』を用いた本当の演舞。テレビ越しではなく実物を見て美しいと感じた事に興奮しっぱなしだった。

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