第24話

『タイムアーップ!両者そこまでぇ!』


 カンカンカン!とコングが大きく鳴り響く。爆発音が常に鳴っていたのだがよく響いたのは何故だろうか?


『流石に両者決着つかず!全ての攻撃を受け切ったナツメ・ユキジ!されど一切の反撃を受けなかったカリアノ・ホシノ!時間いっぱいまで美しき女の華を咲かせた2人に盛大な拍手を!』


 パチパチパチと少なくない拍手が上がってくる。会場の席も空席はあるが目立つほどでもなく割と人気になる試合だったんだろう。


 実際、思ったよりも素晴らしい内容だった。ただ戦うのではなく自分の『異能』をしっかりとした魅力にするのが素晴らしかった。


 俺がかつて持っていた『異能』よりはるかにいい。目立つ事ができる『異能』ならではの健全な使い方だ。


 一歩間違えたら命を落としかねないという危険性は孕んでいるが、それはスタントアクションみたいに何処でもある興奮要素として成立している。


 だからそう言う職業として成り立ち、人気が出たら定期的に出演があるため安定した金銭も確保できるのだろう。前から思っていたがプロレスに近い職業なんだな。


 流石にそれなりの時間を叩きぬいていたからナツメさんもカリノアもへとへとになっている。本人たちは隠しているが、僅かな動作がおぼつかなくなっている。


 ならばここで労うのは当然だろう。小遣いは医者から貰っているので何か頼もう。そうだ、ここは豪勢に肉でも頼もう。重くならない様にしっかりと油を落として、だけど赤身多めにしてがっつりと。


 最近分かった肉の上手い食べ方だ。脂っこいのは元々苦手だったが、これなら割と多く食べることが出来た。昔はろくに味がしなかったがこんなにうまかったんだな肉。また食べたい。


 VIP専用の注文カタログを開く。たっっっっか!思ってた料金と一桁違う!一つの料理に一万するってマジかよ!


 これでナツメさんが大食いだったら破産待ったなしだぞ。VIPでも容赦はないんだな…………


 もうアポはとっているからナツメさんが来るのも時間の問題だろう。迷っている間があるなら注文するべきだ。


 注文カタログから良さそうなものを選び、備え付けの古臭いが高そうな黒電話を操作して注文を受け付けへと頼む。あとついでにさっき戦っていた闘技者がいつここに来るかも聞いた。


 あと20分は必要らしい。料理ができるのにもそれなりに時間がかかるから他愛のない会話でもして時間を潰すか。その間に来るだろう。


 それまでソファにもたれて待っておこう。なに、すぐ飛んで来るさ。


「やあ君!私を呼んでくれたのは光栄だね!」


「チェンジで」


「なんで!?」


 やってきたのはカリノア・ホシノでした。帰れ。


「今日の午前で最も活躍したのは私だっただろう!?あの輝きを見ただろう、私が今まで作った華の中でも最高峰の出来だったんだよ!」


「いや、何がどうなってそう伝わったんだよ」


 今日の午前最後で活躍したナツメさんを呼んでとは言った。汗だくになって光りながらやってくるカリノアは知らない。


 一直なのに伝言ゲームでもしたのか?二択でも外すのはどうかと思う、クレーム入れよう。


「これでも私は業界で人気者なんだよ?伝だってあるし、大体の所には融通を利かせられるよ!」


「チェンジで」


「何故です!」


 一個一個のモーションも早すぎる。瞬きしてる間で立ち姿から地面に両手をつけてるの何なんだよ、コマ送りか何かか?


 光ながら床をへしへしと、ぺちぺちではなくへしへしと言う音が似合う叩き方をして悔しがっている。


「何やっとるんやお前ぇ!」


「あ、本命来たから帰っていいよ」


「本当にチェンジだった!?」


 汗だくで息を切らしたナツメさんが来たのでチェンジ成功です。まだ残りたそうに床にへばりついているカリアノだが、ナツメさんが無理矢理引っ剥がしてVIP部屋から放り出された。


 流石に身長と筋力に差があるため暴れてなおナツメさんに敵わなかったらしい。どちらも『異能』を使っていなかった、やはり『異能』の差はかなり大きい。


「はぁー、全くあの変態ときたら。人の男に手を出したから謹慎くらっとったって話やのに」


「寝取りの名手か?」


「そうそう…………って何ゆうとるんや!?もう少し純粋でおってくれ!」


「それこそ今更な話だろ。前に濃厚な時間を一緒に過ごしたじゃないか」


「あれは命がかかった場やって、濡れ場的な意味じゃないんやああああああ!」


 俺の言葉遊びに引っかかって叫ぶナツメさん。ドアがバンバン叩かれてるのは今は無視して、これはこれで楽しい。


 今更ながら言語が通じているとはいえ、訛りのせいかツッコミ役が似合う。


「はあ、はあ、とりあえず一緒に飯食おうって話やな?」


「ああ、もう注文してある」


「…………あんまり高いもん頼んでへんやろな?」


「俺の奢りだ、安心しろ」


「男に出させるのがアウトなんやって!」


 遠慮を知るナツメさんは絶叫した。

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