第16話

 

 ヘルメット無しで爆走するバイクに乗る男女が2人。


「レイさん待ってくれへんか!?何がどういう経緯で誘拐犯(仮)の車追うことになったんや!?」


「襲ってきた奴の小指折って自白させた」


「何で危ない橋渡っとるんや!?」


 状況を聞いてもまるで意味が分からない。本来なら蝶よ華よと育てられる筈の男がこんなアクティブ過ぎることをする筈がない。


 何なら、下手したらナツメはレイにバイクを窃盗されてかけて、現在進行形で後ろにしがみついでいるため辛うじてレイが犯罪者にならない程度になっている。


 問題は、それよりもヤバい連中の一つである誘拐犯を追いかけているという更に訳のわからない事態が起こっている。


「なんでこんな危ないことしとるんや!他のやつに任せたらええやろ!」


「俺を追っかけたらもっと追跡されるだろ。俺が見失わない限り、俺を追う奴もいるだろ?」


「そら追うやろなぁ、こんな危ない事しとる奴ほって置ける訳ないやろうが!」


 そりゃあそうである。彼等は知らないが、既にアンデルセンが警察組織に要請して追いかけている。


 誘拐犯の車との距離は徐々に縮まっている。どちらも高速道路を爆走しており、何やら誘導が入っているのか周りの車が見当たらない。


 だからこそ爆走できるし事故も余程のことが起こらない限り発生しないだろう。


「車に乗り込みさえできればいいんだが、どう乗り込むか」


「ノープランかいな!?」


「いや、釘はあるからドアの窓を割って中から鍵を開けて襲撃する。バイクは乗り捨てるから犠牲になるけど」


「盗っといて捨てるのあり得へんか!?」


「後で保険で払うから」


「せめて身体で払って!?」


 つい本音が出たがレイは全く気にしてないらしい。


 そもそも車に乗り込んだ時点で暴力沙汰になる筈なのに勝てるつもりでいるレイに疑問を抱える。捕まればナニされるか分からないのに。


 まさか本気で誘拐犯で勝つつもりなのだろうか?


「よし、横につけた!」


 そんな考えをナツメがしているといつの間にか誘拐犯の車の真横までバイクを走らせていた。


「ち、ちょい待ちぃや!乗ってる奴の『異能』も知らんで戦う気かいな!?」


「狭い車内での戦い方なんて限られてる」


「何で戦い慣れとるんや?」


 顔や服の隙間から見える傷が本当に戦いで出来た傷で出来たのではないのか、むしろそうだろうという確信が出来た。


 記憶喪失を装っているが、本当は全て覚えているのでは?


「よし、いくぞ!」


 なんでこんなに暴力的になってるんや。


「まっ。待って!うちが壊すから!」


 釘を握ってガラスに叩きつけようとしているレイをぎゅっとしがみついて止める。ぐえっ、という声と運転がやや不安定に揺れたのは彼女にとって些細なことである。


「壊すって、今何も持ってないじゃないか」


「忘れたんか、うちの『異能』。とにかく車の前に出るんや」


 冷静に、ルーキーながら歴戦の戦士の風貌。伊達に彼女は体も『異能』も鍛えこんでいる。


「分かった。飛ばすぞ!」


 更にスピードを上げたバイクを運転し、ナツメの言った通りに車の前までバイクをつける。車の方もスピードを上げているはずなのに何故追いつかれてるのか?


 ナツメのバイクは特別性である。闘技場では黒星しかついていないため、事情をほとんど知らないファンから馬鹿にされることは多い。だからこそせめて見た目だけでもと購入したバイクを案外気に入ったらしく、こっそり改造してはSNSで公開してその道では有名になっていたりする。


 たまに一人旅のように各地をバイクで回って写真を撮ったりしてSNSで公開している方が『活動している』だの『本職カメラマン』だの揶揄された。下手したらそういう方面の人気が闘技者としての人気より上回っている可能性がある事におびえていたりする。


「よぉし、レイさん、しっかり運転しときやぁ!」


 大型バイクだからこそナツメは二人乗りしながら立つという芸当を魅せる。後ろで人が立っていても運転がブレないレイの技術も合わさってまさに映画のワンシーンと化す。


「うちの『炸裂装甲リアクティブ・カウンター』を舐めたらあかんで!」


 そう言ってナツメはバイクから飛び降りた。


 そのまま車に轢かれると思いきや、車に衝突した瞬間に爆発。されど爆炎に包まれた彼女は無傷。ボンネットにへばりつき地面に足をつけた瞬間にも爆発。その勢いで車のスピードは少し下がる。


 それだけなら多少の驚きはあっても轢き潰せば良かった。だがアクセルを踏んでいるはずなのに車のスピードが徐々に落ちていく。


「そぉれ、ダメ押しや!」


 ナツメは車に拳を振り下ろす。着弾と同時に爆発し、車のエンジン部分から煙が上がる。


 そう、彼女が行ったのはエンジンの破壊である。


炸裂装甲リアクティブ・カウンター』は最高の『異能』だとナツメは信じている。攻撃してきた相手に爆発という反撃できるだけではない、銃弾、砲弾、ダイナマイト程度では突破できない防御力を持つ薄い皮膜を『異能』で生成して纏っている。


 その硬さは先ほど述べた物を真正面から受けてもびくともせず受け止めることができるほどである。


 そんな状態で車に衝突しても無傷。むしろ足がアスファルトに食い込みガリガリと地面を削りながら車のスピードを落とすことに貢献している。


「マジかよ…………スゲェ」


 それをサイドミラー越しに見ていたレイも思わず感嘆の声を上げる。


「へへ、どうや?もう逃げられへんで?」


 既に車は止まる寸前、フロントガラスでドン引きしている女をニヤリとヒールレスラーのような笑みを浮かべてナツメは嗤った。


 その後ろでレイもバイクを翻して戻ってくる。


 事件の決着は近い…………?

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