第15話

 

「なんでうちがあんたと一緒に遊園地に来なきゃならないねん」


「うっさいわね、ペアチケットがあって暇なのがアンタしかいなかったからよ」


 バイクが二台、女性も二人。ただし大して仲は良くは無さそうであった。


 ナツメ・ユキジとその知り合いである女性。その隣に水色の髪で半分しか目を開いていない少女、リンウッド・カタナである。


 同じ闘技者であり同期でもある彼女たちの交流は少なくはない。ナツメは出場を制限されているが情報収集のため闘技場には通い詰めており、エンターテインメントとして身を出すことはしばしばあるためファンは一定数いる。


 リンウッドも『洪水』という異名で知られており強者の『異能』ということもあり大規模に水を繰り出しては操り、大迫力な戦いを魅せつける気体のルーキーである。


 それなりに有名になった二人はファンからの贈り物をもらったりする。そのうちの一つが遊園地のペアチケットである。


 ちなみにリンウッドも伴侶になる男性は居ないので、思いっきり煽りになっている。リンウッドはこれを届けられたときに思いっきりチケットを地面に叩きつけた。


 しかし、貰ったものは使わなければもったいない。なので暇をしていたナツメをたまたま見つけて一緒に来たという訳である。


 暇をしていたナツメは誘いに乗って二人ともバイクで遊園地までやってきた。


「まあ、久しぶりの休みやし?ここの遊園地は馴染みがあるからなぁ」


「あら?アンタがメルヘンチックな遊園地に縁があるのかしら?その巨体で?」


「昔オカンと一緒に来たってだけや!まだ子供の頃の話や!」


「でもアンタ昔から身長高かったって言ってなかったかしら?」


「それは、まあそうやけど!」


 ナツメは子供のころから高身長。同年代で彼女の身長を抜く人間は滅多にいなかったため間違ってはいない。


「できれば男と来たかったわ」


「うちもや。あーあ、レイさんと一緒に行けたらなー」


「なによ、いい男でも引っかけた?」


「結構いい感じまでいったんや」


「…………噓でしょ。デカ女で変な方言使ってるくせに?」


「喧嘩売っとんのか?」


「その体格で威圧してないのがおかしいのよ。普通、アンタのような女は男に警戒されるのよ」


「それは、そうやけど…………」


 ナツメはレイに出会ったことを思い出す。あの時は一目見て気絶してしまった自分が居たが、レイは自分を見ても特に驚かず普通の人と接するような人当たりのいい人だった。


 顔についている傷跡が気になったが、それ以外は普通に『いい人』だった。


 いや、普通どころではない。ナツメの身長と体格に威圧されて小さくなったり悲鳴を上げられたりすることはしばしば、一目見ただけで逃げられたこともあった。


 故にナツメは処女のままである。リンウッドも処女ではあるが男性との交流はナツメより上手くいっている。むしろ将来有望ということで金銭面での支援が期待できるということで交流の機会はとても多い。


 ナツメとリンウッドの差はそれくらいである。もし、闘技者として二人が戦えば『覚醒』でも起きない限りナツメが勝つだろう。リンウッドの水の質量攻撃は大抵の相手には効果的であるが、単純にナツメの炸裂装甲リアクティブ・カウンターを突破することはできない。


 そしてナツメは泳ぎが得意。決着である。


「ま、まあ休日に遊ぶのはいいでしょう?最近限定スイーツ出たらしいので先にそれを食べさせてください」


「ええで。うちも興味あったんや」


「あなた、そう言って前にファーストフード店に行ったときにハンバーガー10個とその他もろもろ食べて食べたりないとか言ってましたよね?足りるんですか?」


「5個くらい頼むつもりやけど」


「大喰らい…………」


 あきれるほどの食欲にリンウッドはあきれた。大食娘のくせに体型を維持していることがムカつく、リンウッドは食べた分運動しないと太るタイプである。


「っと、ヘルメット仕舞わんと…………ん?」


 荷物を片付けている時だった。遊園地の方向からけたたましいサイレンが鳴り響く。何事かと多くの人はその音に驚き、または疑問を感じて足を止める。一部は遊園地から離れていった。


「何かしら?事故でも起こった?」


「不吉なこと言うなや。でも、こんなの初めて聞くで」


 未だになり続けるサイレンに彼女たちも疑問を感じていた。だが、それを覆すほどの者が二人の、この場でとどまっている人間の目に飛び込んでくる。


 男、それも顔に傷跡が多くついているこの場で一人を除いて見たことがないタイプの男性だった。


「レイさん!?なんで、あんな鬼気迫る顔を!?」


 その男を知っていたナツメは驚愕する、元々顔が怖いというのは知っているし、その中身は割と気安いことも知っているため周りの人間よりは驚きと硬直が少ない。


 そんな彼が先ほど言った通り鬼気迫る顔で走ってくる。その遥か後ろで黒服とシルクハットを被った紳士の男装をした女性…………アンデルセンがサイレン音を全身から発しながら追ってくる。アンデルセンだけ死にそうな顔でバテていたが。


「どこ行った…………そこの人!ここから出ていった怪しい奴が居なかったか!」


 周りの女性に声をかけて誰かを探していた。だが、息を切らして鬼気迫る顔、そして顔の傷により引いていく。


「な、なに?あの女知り合い?」


「レイさんは男や!見た目はあんなんやけど、ええ人や」


「本当に!?え、なんですごい怒った表情をしてるの?」


 それは確かに疑問である。サービスが一般人目線からでも充実しており、男をもてなすとなればもっと優遇されるのは間違いない遊園地であるのに怒る理由が分からない。


 誰かが粗相したのか?そう思った時だった。


「あの車…………ナンバー…………あれか!」


 困惑する彼女達をよそに彼は動く車を見つけた。それを追いかけようと一瞬駆けだそうとしていたが、突然方向を転換させナツメの方へ向かってくるではないか。


「え、ちょっ、こっちに走ってきたわよ!?」


「な、なにぃっ!?」


 いきなりの出来事に二人は混乱する。鬼気迫るような表情で迫られることは闘技場内ではよくあるが、こんな場所で男に迫られるようなことはない。


「あれ、ナツメさん?悪いがこれ借りるぞ!」


 レイはそう言ってナツメが持っていたバイクの鍵をパシッと奪い取り、バイクに刺す。


「あ、ハイタッチ…………じゃなくて!?」


 あっという間にバイクに乗ってエンジンをかけたレイを止めようとした。だが、それよりも早くエンジンをかけたレイがアクセルを全開、されどウイリーのような暴走はせず慣れたように大型のバイクを発進させる。


「ちょっ、この!」


 大型バイクであるため馬力も桁違いである。それを調節もせずエンジン全開にしたら自分の身も危ないと仕方なしに二人乗りのように乗り込む。猛スピードで発進したため振り落とされない様に彼女は運転しているレイにしがみつく。


「ちょちょちょ、どないなっとるんや!なんでいきなり!?」


「説明してる暇はない!誘拐が起きた!」


「説明しとるやんか!?って男の誘拐やってぇ!?」


 今日は何度驚かされるのだろうか?目の前で難なくバイクを運転する男に振り回されるであろうナツメはそう思った。


「(あれ?うち、今けっこうドスケベイベント起きてるんちゃう?)」


 役得に気づくのはそれから数秒後のことだった。

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