第14話

 

 ミラーハウスというものをご存じだろうか。単純な迷路に加えて壁を鏡に変えた代物である。


 アトラクションの一つとしてこの建物が端っこにぽつんと置いてあったのが見えたので興味をひかれた。ちょっと寄り道ということで入ってみた。


 中身は予想通り迷路でいろんな角度から俺の姿が見える。傷を隠すために厚着にはしているが、首の後ろまで傷跡が残ってたんだなと思ったり。


 手探りながら一人で進んでいくが、気づけば行き止まりに入っていたり同じところをグルグルと回っているような感覚になる。


 それなりに広いから案外迷ってしまう。その時は鏡の壁に手をつけながら道に沿って戻り、どこに行けばいいのか考える。


 完全に出られないと思ったら『合図』を出す。そうしたらスタッフが、この場合はアンデルセンが迎えに来てくれる。スタッフとアンデルセンはこのミラーハウスの道を知っているらしい。もしかしたら何らかの目印があるかもしれないが、今はどこにあるのか分からない。


 ただ分からない道を歩いていく。そこに俺の姿が映っている。真正面の姿だったり、横向きの姿だったり、さっきも見た後ろ姿だったり不思議な感覚になる。


 たまに顔を動かしてもないのに横向きからこちらを見ている俺が居るのは気のせいだろう。きっと、そう。


 何回か迷いながら進んでいく。体感的には出口に高くなっている気がする。


 そろそろ出口かぁ、ちょっとワクワクしたくらいで何も無かった。


「これだけ自分に見られてたら不気味ではあるな」


 確かに自分が沢山いると、1人くらい俺を責めてくる幻聴が聞こえるかもと思ったが意外な事に何も無かった。


 1人だからだろうか?誰も見かけないから何も思わない。


 自分だけだから…………


 暗いことは考えないようにしよう。


 そう考えた時だった。


 両腕を掴まれた。


 その瞬間、俺は後ろを蹴り上げた。


 ガッという音と共に掴まれた腕の拘束が緩む。それを好機に捕まれた腕を振り拘束を振りほどく。


 振り向いても誰もいない。違う、『見えない』だけでそこに誰かいる。


 ミラーハウスに入る前にアンデルセンは言っていた。


『ここはあまり人気はなくてね。今も人はいないよ。何かあったら合図を出してくれたまえ!』


 俺が入った後から誰かが入ってくるようなことはさせないはずだ。ちょっとトラウマが蘇ったことで忘れていたが、男に飢えている女はとても多い。それ故に性犯罪を犯すことはしばしば…………しばしばでもあっていいのか?男って貴重なんだぞ?


 だが、現に何かいる。気配も姿もないなら『異能』を使った侵入方法があるということ。


 恐らく誰かがいるはずの場所に前蹴りを叩き込む。確実に筋肉に足が食い込む感触、そしてガッシャンと蹴りによって誰かがミラーハウスの壁となっている鏡にぶつかり地面に砕け散る。


「がはっ!?」


 砕け散る鏡の破片が不自然に宙を浮いているのが見えた。そこに向かってさらに蹴りを叩き込むと、確かな感触と共に光学迷彩、透明になる機械が故障したように人型のノイズが露になり、徐々に人としての姿を取り戻していく。


 これが手下人、恐らく『異能』の種類は透明になる、それに加えて気配や音も消すものも含まれている。


「お、男のくせになんてキック…………ぐえっ!?」


 まだ元気そうなので胸倉をつかみ顔を間近まで近づける。


「ぴえっ、意外とイケメン…………」


「お前、単独犯じゃないだろ?」


「え、いやぁ〜」


 正体さえ見えたらこっちのもの。透明化が解けたらギャルだった。顔わ合わせたらぽっと顔を赤めたが俺の質問に顔を逸らした。


 考えてみてほしい。男を襲うとして厳重な警備をどうやって潜り抜ける?セクハラするにも『異能』ありきでは協力者は必要。脱出は1人ですると滅茶苦茶大変なのだ。


 もう後ろからめちゃくちゃ撃たれる。拳銃はマシンガンはまだ良い、ロケットランチャーとか本当に死ぬかと思った。


『世界の悪意』にターゲットを複数名見せられているため死ぬに死ねないから頑張って生き延びた。破片とか身体に食い込んだのによく生き延びたな俺。


 それはそうと目の前の女性への尋問である。


「言え、さもないと…………」


「えっちな事を…………?」


 ヒュー、ドロドロドロ…………


 お化け屋敷で脅すようなおどろおどろしいBGMが聞こえる。


「私の夫に手を出して無事で済むのかい?」


 割れた鏡越しではあるが目が据わったアンデルセンが短めの鞭を持って立っていた。こえーよ、あとまだ夫になってねーよ。


「突然鏡が割れる音が聞こえたからびっくりしたよ。まさか、こんな不埒な輩が私の遊園地に潜んでいたとはねぇ」


 据わった目で俺が掴んでいるギャルを睨みつける。でもアンデルセンの『異能』は音を出すだけで戦闘力はあまり無い。下手したら透明化で逃げられるかもしれない。


 なので今、こいつの右手の小指を折っておく。


 ぱきゃっ


「へっ?い、いだぁぁぁいっ!?」


「レイくんっ!?いきなり何してるんだい!?」


「逃げられたら厄介だからとりあえず指を」


「初手拷問は不味いんだよ!?」


 指が1本折れただけでぴーぴー泣き出したギャルと俺の行動にビビり散らかしてるアンデルセンを他所に俺は続ける。


「仲間はどこだ?次は左手の小指だ」


「わ、わがっだ!計画いゔがらぁっ!」


「ストップ!男がしちゃいけない事してるよ!?」


 尋問には成功したがアンデルセンに止められた。


「ほ、ほんどは別の男を攫う予定だっだのぉ!」


「……………………」


 ぱきゃっ


「ぎゃあああああ!」


 俺は容赦なくギャルの無事な方の小指を折った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る