第9話
お見合いもどきに一週間、お見合いもどきから一週間、ようやく外に出歩く許可をもらった。
許可とはいっても一人で出歩くことはできないため行きたい場所を指定してそこに送ってくれるという措置をとっている。
ここで、一番に行こうと思ったのが闘技場だった。
テレビではよく見たものの直接では見ていないため本当に異能が蔓延っているのかを知りたくて頼み込んだのだ。
とりあえず、付き添いはいつもの医師であっという間に闘技場に到着、本日も戦いが行われているという。
対戦カードは期待の新人『
いつとったかは分からないカードのようなものを医師が入場口で提出し、高いところから全体を見渡せる特等席についた。
「驚いたな。いつこんな場所をとったんだ?」
「ナツメさんがくれたんだよ。最初に来た時によかったらってね。……………一番安全なものがこれだっただけだけど」
「何か言ったか?」
「いや、何も」
何か言ったような気もするが、ここはあえて何も言わなかった。
会場を見下ろしてみると満員とはいかないがそれなりの人数が観客として集まっており、それが全員女性だということだけは分かった。
あと髪の色がバラバラすぎて髪染めが流行っているのかと俺は思った。
幼稚な感想はさておき、注目するべきは闘技場本体というべきフィールドだ。
『さあさあメス共今日も戦いを見に来たか!今日の戦いはデビュー一年も経ってない奴らだぜ!』
司会の派手な水着姿の女がフィールドの天井からぶら下がっているゴンドラから叫んでいる。なぜ水着姿なんだ。
『煙か炎か、はたまた両方か!一息吸ったら即終了!アヤメ・チナツゥゥゥ!』
突如、二つある入場口の一つから煙が上がる。いや、煙ではない、煙というにはあまりにも紅く、そして燃え上がっていた。
燃える煙の中から現れるのは目元の部分だけを隠す仮面をつけた踊り子のような衣装の白髪の女、あれがアヤメ・チナツなのだろう。
『究極の防御!究極のカウンター!実力はあるのに何故か勝てない!だが今度こそ勝つ、賭けてるんだから勝ってくださいお願いします!ナツメ・ユキジィィィ!』
入場口が爆発、黒煙から現れたのはスポーツブラみたいなものともはやパンツみたいなズボン?をつけたナツメ・ユキジだった。
テレビでも何回かは見たが、最初に直接であった時の服は普通に清楚で体系を隠すようなものだったが、こうして直接戦いに臨む姿をみると筋肉はかなりついているし、何よりも着やせするタイプだったということが分かった。
妙なところに目を向けてしまうのは、心の余裕が少しだけできたからなのかもしれない。
『さあさあ、今日も戦いのゴングが鳴り響く!試合開始ぃ!』
カァァン!
ゴングの音が鳴り響くのと同時にナツメが駆け出しアヤメ・チナツに突撃する。
それを読んでいたアヤメ・チナツは炎を放ち、それらが勢いよく流れる濁流のように煙のような炎となりナツメに殺到する。
一瞬でナツメの姿は炎に飲まれた、かに思われたが数秒後に炎の中を無傷の状態で突破、そのままアヤメ・チナツを殴るのと同時に爆発が起き、アヤメ・チナツは大きく吹き飛んだ。
これが『
「……………あれ死んでないほうがおかしいんじゃないか?」
「そうかな、闘技者だったらあれくらい受けるのは普通と思うけど」
「いや、よく見ろ。殴られた側が口から血を吐いてるぞ。間違いなく内臓をやられてるが」
「口が切れただけだよ」
「腹を思いっきり殴られてたよな?」
「まあ、細胞が死んでなかったら何とかなるから」
不死身なのかこの世界の住人。
似たような状況に陥ったことはあったが、あの時はまともに動けたもんじゃなかったぞ。
いや、ファンタジーの話では死んでさえいなければさらっと戦前復帰してる場合もあるし、異能が常識ならば不思議ではない…………?
『最初から決まったー!やはり鉄壁の守りは簡単には倒れない!本当になんで毎回負けてるのか分からないんだよね……………おっと?』
吹っ飛んで転がったときに巻き上がった土煙が妙に赤くなっていくのを見た。
明らかにおかしい煙の色にけ減の表情を浮かべていたが、突如ナツメ・ユキジの周りの土ぼこりが炎と化してあたりを包み込む。
「あれは…………」
「やっぱり、というべきか」
「なあ、あの現象知ってるのか?」
「正式な名前はないけど、覚醒と呼ばれてるよ」
『土煙』が炎に変わっていく様を万人が驚き、やはりというべき顔で見ていた。
もうこの時点で分かってしまった、理解してしまった。
『ああ、ナツメ・ユキジは負ける』のだと。
『こ、これはぁ!今まで水蒸気を生成し、炎に変換していた「
立ち上がった『
もはや、ナツメは自分の位置すら把握できないだろう。
数分間フィールドが炎の海と化していたが、異能を解除したらしく全貌が明らかになっていく。
ナツメは倒れていた、無傷ではあったが意識は完全になかった。
原因はおそらく酸欠、空気を吸えなければ窒息するのは当然で、息を吸えば肺を焼かれ、なおかつ空気が燃えてるため酸素も少ない。
完全に時間の問題だったのだ。
『決着ぅー!最後は塩だけど驚異の範囲攻撃と持続力!勝者、アヤメ・チナツゥゥゥ!』
……………………いくらなんでも不自然と思わないか?
「終わったようだね。どう、彼女たちの戦いは?」
「…………分からん」
どう見ても優勢だったはずだ。相手は明らかに体を動かさない戦闘スタイルに対して全力で殴りかかり瀕死近くまで追い詰めたはずだ。
追い詰めたからこそ逆転勝利できた?そんな簡単な話であるはずがない。
なぜ『逆転負け』するのか分からなかった。
まるで、まるで…………
「『世界』に負けろと言われてるようなものじゃないか」
「何か言ったかい?」
「…………いや。控室って行ける?」
「アポイントとらないと無理だね」
会いに行けないのかと肩を落とし、何故かテンションが下がってるなという目を向けられながら『病院』へ帰るのだった。
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