第10話

「飽きた」


「飽きたじゃない、あと4人は相手しないと休めないよ」


「必要かこれ?」


「必要だとも」


 毎日のようにお見合いは続いた。独身と言うステータスを埋めるためみ俺を必要とする女はめちゃくちゃ着飾っていたことだけは覚えている。


 真面目で必死なのはいいが必死過ぎて苦笑いせざるを得なくなる。趣味で男の写真集あつめとかバードウォッチングならぬ男ウォッチングを週末にやるとか逝かれ女しかやってこない。


 稀に普通の俺の世界の常識を持った奴も来るが、いかんせんパッとしない。何だろうな、かの違和感?単純に俺の好みの問題なのかと疑ったりしている。


 …………女の好みの話なんて真面目に考えるなんて相当浮かれているな。


 数か月前だったら、前の世界だったらそんな余裕は何一つなかった。だって、俺の身す一つで危機として世界を滅ぼそうとして、俺が苦しむさまをヒーローと言って楽しむ『ヤツ』がいたから、考えることもできなかった。


 だからと言って調子に乗ってはいけない。俺が誰かを、誰かの大切な人を殺したことには変わりない。罪は決して消えないんだ。


「おーい、飽きたからと言って聞き流すのは良くないと思うよ。それともなんだ、考え事かい?」


「チッ」


「露骨に態度悪くなってきたね?」


 そりゃあ機嫌も悪くなる。だって今日の時点で既に7時間はお見合いに使っている。


 普通に疲れた、もうやりたくない。


 もういいじゃん、適当に1人と結婚したらいいじゃん。そう言いたいくらいに、と言うか昨日に言ったのに無視された。


 見た人間も多種多様、普通の人から大企業の社長まで何日も何日も合わせて会話しようとして微妙に上手くいかない。


 楽しく話せたのナツメ・ユキジくらいなものだった。妙に残念な感じと悪役にされてる感じが妙にしっくりくる。確か、話した内容はギャンブルという良くない内容だったが。


「もうナツメでいいじゃん、あの人でいいよ」


「1人じゃ足りないよ。あと4人は娶らないと」


「多くない?」


「普通だよ」


「普通かぁ〜」


 普通って何なんだろうね、俺には分からないや。


 お見合いしてない間はこっそりと色々と情報を集めてるが分かったことは少ない。


 結局、何故女性のほとんどに異能が発現するのか?何故男女比が1:100になっているのか?世界情勢はどうなっているのか?


 もはや一般人程度の権力しかない人間だ。強いていうなら全身傷だらけで動けるだけの元犯罪者だ。カルマならたくさん持ってるが無一文でもある。地雷かな?


 それでもこの世界なら男ということだけでも価値がある。地雷でも喉から手が出るほど欲しがる女がわんさかいるのだ。


「そんなに疲れたのなら遊びに行けばいいじゃないか」


「どこに遊びに行けと?もう長いことこのお見合い施設から出てないのに?」


「病院だからね?ほら、これがあるじゃないか」


 そういって医者がファイル越しに見せてきたのはとある遊園地のチケット。あとそれを送ってきた主のプロフィール。


 思いだした、あのパッパラパーか。いや、言い方が悪いと思うが第一印象が本当にパッパラパーという『音』なんだよ。


 異能が面白い音とエフェクトを出す女性がとある遊園地を運営していて、大分前に言った友達が欲しいと言った時に紹介された第4号くらいだった。


 入室時にパッパラパーというファンファーレみたいな音を出して登場。


『やあこんにちは!夢の世界へようこそ!』


 これ言われた時は本当は夢を見てるんじゃないかと思った。紳士用スーツみたいでありながらメルヘンチックな雰囲気を壊さず、ふんわりとしたカラフルな煙を出しながらの登場でぽかんとしてしまった。


 どうやら演出が派手でパフォーマンス力が高い社長と有名だったらしい。流石にそこまで把握はしていなかったが、実際に話してみると営業トークはするすると頭の中に入るものではあった。


 私と結婚したらどのような利益があるか、一緒に楽しめるか、それなりに高い地位を持って自慢できる、(一人の妄想で)鍛えたテクを披露する…………などなど情報量が多すぎて頭がパンクするかと思った。


「息抜きに行ったらいいかもしれないね」


「…………まあ、一回くらいは」


「話を通しておこう。おっと、どこに行こうというんだい?」


「いや、これで話は終わりじゃないのか?」


 遊園地に行くという話でまとまったという流れに乗じて逃げ出そうとしたのがバレた。上手くいくと思ったのに、というかこれ以上よく分らん女と付き合わらせるのはコリゴリだよ、人を殺すよりはマシだが。


 こう、甘く考えていた。


 男女比が大きく狂っていること、そして女性に『異能』という特殊な力が備わっていること。


 こんなにも犯罪が起きやすい条件が揃っているのに巻き込まれないと考えていた自分を殴りたくなる後悔をするまでに時間はかからなかった。





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