第6話
「遊びに特化したお家の資料を持ってきたよ」
「ダメ人間の家系の間違いでは?」
「あ、いや、そういう意味じゃなくてね。テーマパークやカジノ、あとはおもちゃの開発に携わってるみたいなところは特権があってね。そこから婿のいない家を選んできたんだ」
いきなり謎の資料を持ってきたと思いきや意味不明な発言をして正気を疑った俺は悪くないと信じている。
どうも、俺が嫁ぐべき場所をわざわざ探してくれていたらしい。少し応募を引っかけてみたら今ここにある紙の束より大量にそれぞれのプレゼンが送られてきたらしく精査するのは大変だったと医師は言う。
なんだか少しやつれて見えるのはそのせいか。そこまでして真摯に向き合ってくれているため俺も真面目に資料は見るだけ見よう。
「うわ、ゲーム会社の御息女が多いな。だいぶ金を積んできたようなものばかりだ」
「そこはご愛嬌ということさ。フリーの成人男性がいたらできる限り金をつぎ込んでも手に入れたいものだからね」
「愛玩としてか?」
「お家存続のためだよ。なんでそう妙にひねくれた考えをしてるんだい?」
「色々あったのさ、覚えてないけれど」
しかし、やはりというかなんというか、異能者しかいないな。女性の99%が異能を持っているのが常識だからな。
意外なことに残り1%は異能を持っていないため迫害されているわけではないようだ。逆に異能を持っていたら世界征服できるんじゃないかというくらいの才能をもって生まれてくるらしい。
大体が企業の会長や社長となっているため、男には困っていないんだろうとこの時は思った。
「……………なあ、やっぱりこの闘技者とかいうの多くないか?」
「そりゃあ、女性が憧れる職業の一つだからね。候補の中にはトップ陣も割と多いね。有望な新人も中にあるけど」
「ふーん……………あ、こいつは」
テレビで見た例の闘技者、『奇跡の逆転負けファイター』の書類があった。
実力は折り紙付きなのになんやかんやで逆転負けし続けているのが彼女である。
彼女のことを知れば知るほど……………妙に親近感がわく。
常に敗者であるということが勝者になることを許されなかった俺の心の琴線に触れる。決して勝者になれないと敗者になり続けるというのは意味合いが違うが、どうしてもそう思ってしまう。
よく分からないが負け続けているのに収入はよかったりするし、一般家庭を築くとするなら十分な素質はあるだろう。
……………いや、俺ごときが彼女に親近感や同情をするなんておこがましいだろう。彼女は戦士、俺は言われるがままに殺し続けた人形もどき、進んで戦う彼女のほうが遥かに高潔であろう。
「どうしたんだい?もしかして、その子が気になるのかい?」
「あ。いや、まあ……………そうかもしれない」
「それはよかった。じゃあさっそくせってじゃあさっそくセッティングしようか」
「あ、ああ……………あ?」
待て、これはもしかしてもしかしなくてもお見合いというやつでは?どこかの庇護下に入らなければならないと言っていたが結婚しろということなのか!?
「……………うん、そういうことで。はい、はいそうです。分かりました。一時間後に来るって」
「いくら何でも早くない?」
「向こうも必至だからね、婚期を逃さないためにも」
なぜなんだろうか、医師に妙な気迫の籠った声に内心だけ少し怖気づいてしまった。
待ち時間の間はほかにどのような候補がいるのかと資料を見て興味がある人物をできる限り絞りこんでいった。
企業の役員、テーマパークの社長などなど、何かしらの権力を持った者とその下にある女性が多いが収入は今後良き生活を送るためには必要だ。
断じてヒモとか無職にはならない、そういうのは負けな気がする……………あれ、元々無理矢理働かされていたようなモノだから別にいいんじゃね?
最近になって固くなってた口調とかが俺の覚えている限り若返ってる気がする。そういえばまだ二十代だし当たり前と言えば当たり前か。ついでを言うと今までが大人びすぎていたということだ、悲しくなる。
「あ、もう来たみたいだよ。それじゃ、行こうか」
「どこに行くんだ?人が集まるスペースは知らんぞ」
「あー、一応監視付きだけど女性と接触するための部屋はあるんだよ。お見合いスペースっていうんだけど」
「………………なんで病院にお見合いスペースがあるんだ?」
「………………あまり知らないほうがいいと思うよ。この病院は基本的に病んだ男性が使うからね」
そこから医師は何も言わなくなった。なにそれ想像できない方面での怖さがあるんだけど。
殺しをしていれば知らずのうちに人の闇を知ってしまう。しかし、俺は深くまでは堕ちなかった、と思う。少なくとも無意味な殺しはしなかったし殺した後は吐くこともしばしばあったし強盗した時は足のつかない金を狙ったし……………悪いことばっかりしてるな俺。
いつ襲い来るか分からない過去のことを考えつつ、医師の引率の元に用意されてあった服(費用は謎の保険が出しているらしい)に着替えて
何故だろうか、一気に五人を別々の場所で同時に殺さなければいけなかったときと同じくらいの緊張がある。
……………単にヘタレとかじゃないよ?まさか、あの大悪党と呼ばれた大馬鹿者がヘタレなんてそんなそんな、人間関係すらまともに築く暇もなかったから仕方ないよな、うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます