第5話
「扱い……………君の扱い……………そうだなぁ……………」
カウンセリングの時に聞いてみた。全く触れてさえいなかったため現状すら知らないのが現実だ。
「はっきり言って決めかねている、と言ったほうがいいかな。君が発見された時があまりにも強烈すぎて上も困っているんだ」
「重症で古傷だらけで浜辺に打ち上げられていたことか」
「そう、それだよ。ほとんど覚えていないだろうけど……………酷く虐待されていたのは間違いない。今見ると君の自我は強いし反骨精神みたいなのはあるから誘拐されてもかなり抵抗したんだろうね」
違うんです、これは戦場で怪我しまくった上に割と自業自得な傷なんです。顔とかにも傷はあるけど単純に顔を爆風で火傷した跡とか銃弾やナイフが掠った跡なんです。
「最近幅を利かせていた人攫い組織は摘発されたけど闇は深い、というのは分かってると思うよ」
いやでもその体に刻まれているんだからね、と言わんばかりの悲しみが籠った眼を向けられたけど違うんです、普通に戦場で負傷した跡なんです悲しまないで心が割と痛い。
「まあ、何かされたんだろうけど記憶に大きく抜けがある。そして国籍データも何一つない、完全な闇に葬られているから対応に困ってるんだよ、いやほんとにね?」
「……………重ね重ね申し訳ないな」
「いやいや、これも仕事だからね。思っているよりも心の傷もないけれど、覚えていないとはいえいつトラウマがフラッシュバックするか分からないのが問題なんだよ。下手に刺激しないお家の候補もあんまり……………」
「せめて働けて独立さえできたらいいんだけどな」
「とんでもない!どんな目にあったのかその体が証明しているだろう!いい年した男が独り身なんて言語道断だ。最低でもどこかに嫁がせるくらいじゃないと。でもなぁ……………」
「俺のことをよく知らない、か」
「それもある。それよりも相手が見つからない。気を悪くしたらすまないが明らかな事故物件を受け取とるか上も珍しく二の足を踏んでいてね」
事故物件て。いや、間違ってないしふつうはこんな核爆弾を抱えたい奴とかいるのだろうか。
「そこでなんだけど、君はどうしたい?君の過去は私たちは知らない、だからこそ君の意見を聞いたほうがいいんじゃないかって。できるなら女性の好みとかさえ教えてくれたら相手だけは見つけるけど」
「それなら独りt「独り立ち以外でね?」うううむ……………」
ものすごく太い釘を刺された気分だ。ううむ、一人でいるなら………………そもそも何がしたいんだ?
いままで未来予知の通りに人を殺して、休んでは未来予知がきてまた殺して、休む時間は眠っている間だけだった。それも、悪夢を見続けていたから十分に休んだともいえない。
趣味も何もない俺にやりたいこと?そもそも何をしたいんだ?俺に何ができるんだ?
「やりたいことがあるんだったら、こっちで君の趣味に合う人を探してみるよ。まあ、向こうが無理にでも合わせてくると思うけどね」
「男性不足か。いったいどれだけ女性が男に飢えてるんだか」
「そこら辺も忘れているのは分かっていたけれど重症だね。いいかい?女は肉食獣、油断したら一瞬で食われる、いいね?」
「あっ、はい」
普段はものすごく穏やかな医師が顔を怖そうにして(脅しのつもりだろうがあまり怖くない)言ってくる。しかしちょっとだけ体が震えていたことを俺は見逃さなかった。いったいこの人の身に何があったんだ。
元から色沙汰なんて全くもって縁のない話であったが、どうしても受け入れられないというのが今の心情だ。
今は未来予知能力を失っているとはいえ、それがいつ復活するかは分からない。
何せ相手は世界の悪意だ。この世に『正しい正義』を保つためにほぼランダムで選び、殺しをしなければ世界が滅びるかもしれないという鞭しか与えない厄災そのものだ。
タチが悪いのは本当に世界のためにしか考えていないということだ。勝手に世界を滅ぼす要因を作るくせして俺に悪を強要して正義に討たせるという世界にとって少々の犠牲で英雄を作り出す最悪な機構。
わざわざ俺を労わるという名目でホログラムのように現れ、悪意のない純粋な笑顔を見せてきたときは本当に腹が立った。殺したくても実体がないため銃やナイフの物理的手段しか攻撃方法がない俺には殺すこともできないからこそわざわざ様子を見に直接現れたのだ。
本当に反吐が出る。俺がいなくなった後に新たな犠牲者が出てないといいが……………
俺も俺だ。あれほど全てに憎まれ折れずに殺し続けたよな。今振り返ると使命感おかしいだろ、とっとと自害すれば楽になったはずなのに。
……………わかってるさ、それができたら苦労しない。遊ぶ余裕も何もかも捨てて十代から二十代後半になるまで殺し続けた、世界を守るため?いや、単純に生きるためだ。
何がしたいかと聞かれても、今までを取り戻すかのように、友達と馬鹿やって遊んで……………
友達と……………遊んで……………
「友達が欲しいな……………」
「……………え?」
ふとこぼれてしまった言葉が予想外だったのか、医師は目を丸くした。
ありふれたことすらろくにできていなかったことを再認識し、俺はほろりと涙が出るのを止められなかった。
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