【15】もう離れない
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―翌週・日曜日―
木谷は約束通り、妻と義理の娘を連れて修と美梨の自宅を訪れた。タワーマンションに驚いたのか、木谷はソワソワと落ち着かない。木谷を出迎えた田中を見て、さらに木谷は腰を抜かしそうになった。
「ローザさん! どうしてローザさんがここに!?」
「ようこそいらっしゃいました。奥様も旦那様もリビングでお待ちです。私は奥様の秘書兼家事や御子様の教育係を務めている田中ローザですが、木谷様とは初対面でございますよね? どうして名前をご存じで?」
「え? 田中さん? 初対面? そ、そうですよね。初対面ですよね。すみません、昏睡状態が長かったせいか、まだ記憶が混濁しているんです」
「さようですか。リビングにご案内します。こちらにどうぞ」
「こ、これは浅草の人形焼きです」
木谷は修も都内在住なのに、浅草土産を差し出し田中はクスリと笑った。
リビングにいた修は待ちきれず、リビングから飛び出し木谷に抱き着いた。木谷も修に抱き着いた。大人の男が抱き合いながらピョンピョン飛び跳ねながら、歓喜の雄叫びをあげ、義理の娘は恥ずかしそうに顔をしかめた。
「木谷さんの奥さん、ご無沙汰してます。木谷さんの娘さん、はじめまして。秋山修です。美梨、昂幸、優も出ておいで」
「昂幸?」
義理の娘は小さな声で呟く。
リビングに早く通せばいいものを、テンションの上がっている修と木谷は廊下で盛り上がっている。
リビングから出て来た美梨は木谷と妻の
「木谷さん奥様ご無沙汰してます。お土産ありがとうございます」
「おおこれは美梨さん、相変わらずお美しい。もしやタカ坊ですか!? あの赤ちゃんだった優くん!? これは驚いたな。あのタカ坊が秋山さんの身長を超しているとは!? 紹介します。義理の娘の
木谷が紹介するまでもなく、昂幸と亜子は見つめ合ったまま固まっていた。
「……三田昂幸じゃないの? どうして秋山昂幸なの?」
「……亜子、まさか、亜子が木谷さんの義理の娘だったなんて。滝川だから、気付かなかったよ」
木谷と修は顔を見合わせた。木谷の妻は二人のことを何となく察しているようだった。
「義父さん、母さんごめんなさい。私、帰ります」
亜子はそのまま玄関を飛び出した。
「待って、亜子! 亜子!」
昂幸は亜子を追いかけ、玄関を飛び出す。
状況が理解できない美梨と木谷に、修だけは「やっぱりな」と小さな声で呟いた。
「亜也子、お前が炊事係として働いていたのはもしかして三田家なのか? 亜子は昂幸君と知り合いだったのか!?」
「秋山さん、奥様、申し訳ございません。私は夫が目覚めるまで三田家の使用人の社宅に住み込みで働いていました。亜子は昂幸さんと親密になり、『身分違い』であると自ら身を引きました。昂幸さんには菊川ホールディングスのご令嬢との婚約話があったからです。三田家の社宅を出て、亜子もやっと気持ちを切り替えたのに、まさか……秋山さんのご子息だったとは……。本当に申し訳ありません」
「奥さん謝らないで下さい。昂幸から好きな人がいることは聞いていました。昂幸はその人を守るために、秋山の家に戻ったとも話しました。まだ若い二人です。見守ってやりましょう。さあ、リビングへどうぞ。積もる話もあります。食事をしながら話しましょう」
「秋山さん、奥様、ありがとうございます。私達のような者にそのような温かい言葉をかけて下さり、感謝しかありません」
「感謝しているのは私の方です。木谷さんがいなければ私はこの世界に戻ってこれなかった。木谷さんは私の命の恩人です。それに私だってサラリーマンですからね。七年のブランクもあり、また一から出直しです。そうそう今日の料理は全部田中さんが作りました。美梨ではないので、安心して召し上がって下さい」
「やだ。修、それどういう意味よ」
向きになる美梨に優が笑いながら答えた。
「お母さんの料理は五十点だからだよ。タコさんのバラバラ事件聞いたよ。お兄ちゃんが言ってた」
「もう、優ったら余計なことを。今はバラバラ事件じゃないんだからね」
「それは田中さんがお弁当を作ってくれてるからだよ。ねえ、田中さん」
優の言葉に思わず修と木谷夫妻にも笑顔が戻る。
「そのうち二人とも戻ってきますよ。先に食事をしましょう。木谷さん、私達の不思議な体験を美梨や奥さんに詳細に話したいと思いますが、どうですか? 非現実的なので夢かもしれないし、妄想かもしれませんが、二度あることは三度あるといいますからね。妻に心配させないためにも、話しておきたいんです」
「そうですね。夢なのか現実なのか、妻にも知ってもらいましょう」
昂幸と亜子のことを気にしながらも、四人は優を交え談笑しながら昏睡状態に陥っていた時に自分達は何処に行って何をしていたのか語りながら、会食をした。
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