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 玄関のチャイムが鳴り、三田家の執事、白石一しらいしはじめが昂幸を迎えに来た。


「父さん、母さん、三田家に帰ります。やはり田中さんは最強だね」


「それはお褒めのお言葉と承ります。昂幸様、また当家にお帰り下さいませ。田中は何度でも天狗の鼻をへし折り説教して差し上げます」


 昂幸は苦笑いしながら、白石と三田家に帰って行った。修は寂しい想いで胸が締め付けられたが、この状況も予測できたいたことだった。


 あの乙女ゲームの世界と同じ展開なら、昂幸には三田正史の決めたセレブな婚約者候補がいて、他に好きな女性もいるはずだ。


 まだ十六歳の昂幸、多感な時期に修は傍にいてやれなかったことを悔いた。


「さあ、優坊ゆうぼっちゃん、入浴のお時間です。それがすんだら、田中が本を読んで差し上げます。お父様とお母様は大切なお話があるので、明日ゆっくりお父様と遊んでいただきましょうね」


「はい。お父さん、お母さん、おやすみなさい。田中さん、今日は魔法使いの本がいいな。色んな世界にびゅんびゅん行ける本」


「畏まりました。さあ、参りましょう」


 修は現世での生活環境ががらりと変わってしまったことに驚いているものの、秘書の田中ローザが、異世界のローザ・キャッツアイと重なり頼もしく思えた。


 ◇


 ―美梨の部屋―


 室内は広くベッドルームと書斎兼応接室があった。寝室にはキングサイズのベッドが置かれていた。美梨は修に応接室の赤いソファーに座るように促し、棚からワインとグラスを取り出した。


「一人でキングサイズのベッドに?」


「必ず修が目覚めると信じていたから。子供達が小さい頃は三人で川の字で寝ていたわ。今は昂幸も三田家に行ったきりで、優も小学生になり個室を与えたから、一人で寝ているけど」


「そうだったのか。美梨、ごめんな」


「もう謝らないで。何度謝れば気が済むの? 修が謝っても時間は戻らないわ」


「美梨、少し聞いてもいいか。昂幸は俺が事故をした直後に三田に引き取られたのか?」


「そうよ。私は事故当初修に付き添っていたし、優は実家に預けていた。仕事も辞めることになり、経済力がないことを理由に昂幸を三田が育てることになった。そんな時、両親まで持病で倒れてしまい。修も長い闘病をしていたから、私は昂幸を取り戻すために桃華学園の理事長に就任したのよ。でも、遅かったわ。三田の再婚相手が昂幸に真実を話したのよ。その再婚相手は昂幸に早々とセレブなお嬢様を紹介したけど、昂幸には片想いの女子がいて、ある少年がその女子を誘拐して私に復讐しようとしたの」


「美梨に復讐? まさか昂幸誘拐事件の犯人の息子……」


「よくわかったわね。私、前回の事故のあとも修の体にダメージがなかったから、今回も必ず目覚めると信じてたわ。でも七年はあまりにも長過ぎた。それでふと思い出したの。修と結婚したあと、乙女ゲームの話をしたことを。あのゲームのレイモンドが修の容姿にそっくりに描かれていたし、ミリという名前があったことを」


 ◇◇


 ―過去の記憶―


『今、このマリリンって原作者は乙女ゲームの世界では超有名人よ。どのゲームもバズりまくってるから。そういえば……、ほら、初めてデートしたカフェで再会したよね。彼女、別人みたいに華やかだったわ』


『そうだったね。彼女が今幸せならそれでよかった』


『修、彼女が恋しいの?』


『ばーか、俺はずっと美梨のことだけを考えていたよ。乙女ゲームの中でもね』


『乙女ゲームの中? 何それ? レイモンドにでもなったつもり? 面白いジョークね』


 ◇◇


「私、その言葉が妙に気になって、すぐにあの乙女ゲームのアプリを開いた。そしたら私達が事故を起こした同じ日に、続編のアプリが発表されていたことを知ったの。アプリはこの七年シリーズ化されていたわ。ねえ、修。ずっと昏睡状態だったあなたが脳も体も異常なしだなんて、おかしいわよね。これは私の仮定なんだけど、SFみたいにあなたはこの乙女ゲームの中に転移したんじゃない?」


「……美梨」


「そしてこのアプリは現実世界の私達の生活をモデルに描かれている。もしくは、描かれたことが現実になっている。私にはどうしてもそうとしか思えなくて。早く修が現実世界に戻れるようにしたかったのに、ゲームではタルマンの記憶喪失の部分は選択肢がなくて、最初から記憶喪失に設定されいた。だから、修がなかなか現実世界に戻ることができないのではないかと思ったのよ。だから、私はゲーム会社に連絡して、原作者に直接逢わせて欲しいと頼んだの」


「原作者……。美波に逢えたのか?」


 美梨は首を左右に振る。

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