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「ルリアンさん、あなたの気持ちはポールにきっと届いてますよ。風邪を引きますから、邸宅で着替えて下さい。メイサ妃が着替えを用意しています」


「……ポールに伝わったでしょうか。私はここに来るまでポールを疑ったことはなかった。ポールは汽車の中でもずっと優しかった。ポールのやり方は間違っていますが、ただ父親が無実だと信じたかっただけだと思います」


「本当にあなたは純心で優しい。トーマス王太子殿下が夢中になるのもわかります」


「えっ!?」


 ローザは急にニヤニヤと口元を緩めた。


「若いっていいですね~」


「ロ、ローザさん、私とトーマス王太子殿下はそんな関係ではありません」


「そうですか? 小型爆弾が本当だったなら、トーマス王太子殿下もルリアンさんもトルマリンさんも亡くなっていました。命を投げ捨てても、あなたを守ろうとしたトーマス王太子殿下とトルマリンさんの愛情は本物です。そろそろ義父ではなく父親と認めてさしあげてはいかがですか? レイモンドとトルマリンさんから、皆さんに大切なお話があるそうです」


「義父さんが私に?」


 ルリアンは室内に入り、シャワールームを借りてメイサ妃が若き日に着ていた赤いドレスを身につけた。初めて着用するドレスにルリアンは緊張を隠せない。髪型はエルザがアップにしてくれた。これでガラスの靴があれば、童話の物語そのものだ。


 応接室に行くと、トーマス王太子殿下もタルマンも、ルリアンのあまりの美しさに目を見張った。


「まあ素晴らしい。メイサ妃のドレスがよく似合いますこと。さあ、こちらにお座り下さい」


 ルリアンはローザに言われた通り、ソファーに腰を落とした。メイサ妃の前でトーマス王太子殿下の隣に座るなんて、恐れ多くて震えが止まらない。トーマス王太子殿下は震えるルリアンの手を優しく握った。


 ◇


 ―一時間前―


 ルリアンがポールと話をしていた頃、レイモンド《修》とタルマン《木谷》は感動の再会を果たしていた。


「レイモンドさん! いや、秋山さん!」


「木谷さん? 木谷さんですか! どこにいたんですか! 記憶が戻ったのですか!」


「秋山さん! 逢いたかったです! 秋山さん!」


 二人は抱き合って喜んだ。トルマリンは号泣している。メイサ妃がそっとトルマリンにハンカチを差し出す。


「キダニさん、お帰りなさい。あなたに逢える日を待っていました。でも内心は……出来る限りレイモンドとは長い時を過ごしたかった。もうお別れの時なのですね」


 メイサ妃はトルマリンの出現に、レイモンドが現世に戻ってしまうことを覚悟した。泣くまいと我慢しているのに、自然と涙は溢れた。


「お母様どうしたの? どうして泣いてるの?」


 ユートピアがメイサ妃に抱き着いた。


「お父様は暫く旅に行かれます。心配はいりませんよ。ローザがきっとまた捜してくれますから」


「お父様が旅に? お父様、お土産たくさん買ってきてね」


「ユートピア、おいで」


 レイモンドはユートピアを抱きしめて涙した。


「父さん? どういう意味? 何処かに行くの?」


「トーマス、やっとトーマスに逢えたのにすまない。父さんは行かなければいけないんだ。待っている人がいるから。でも大丈夫だよ。本物の父さんは必ずこの世界にいるから」


「本物? 意味がわらからないよ」


「ルリアンさんが来たらちゃんと話す。トルマリンさん、そうだろう」


「はい。妻のナターリアに逢わずに行くのは心苦しいですが、逢うと別れが辛くなるので……」


 レイモンドとトルマリンの決意は固く、メイサ妃はこれ以上引き止めることはできなかった。


 ◇


 ルリアンが応接室に入り、レイモンドとトルマリンは自分達は異世界からこの世界に迷いこんだ日本人であると話した。


「義父さんが日本人? 日本って国はどこにあるの?」


「ルリアンからすれば異世界だよ。この世界には存在しない。義父さんとレイモンドさんは本物のタルマン・トルマリンとレイモンド・ブラックオパールの体を借りているだけで、魂は異世界から来たんだ。以前も同じようにこの世界に迷い込み、一度は現世に戻ったが、再びこの世界に来てしまった。私が記憶喪失にさえならなければ、もっと早く現世に戻れたのに、レイモンドさんには申し訳なく思う。私達がなぜ何度もこの世界を行き来できるのか、私達にもわからない」

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