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「あなたの父親、アリトラ・ジルコニアのこともよく知っています。アリトラはシェフ見習いで採用されましたが、自由奔放な性格でたびたび問題行動を起こし解雇されました」
「父が問題を起こした? そんなはずはない。父はサファイア公爵に不当解雇されたんだ。不当解雇された父に近付いたのが元マフィア、ゲイト・サンドラだった。父はゲイトに利用されただけなのに、メイサ妃は父を射殺したんだ。私は父の無実と怨みを晴らすためにここに来た。メイサ妃に罪を認めさせ、射殺したことを謝罪させる!」
ローザは興奮しているポールに事件のことを説明する。
「それは誤解ですよ。アリトラが誠実な男性なら、なぜ妊娠したモーリスと結婚しなかったのか、考えたことはありますか? モーリスはあなたを犯罪者の子にしたくなかった。だから真実を語らなかっただけです。あなたには真っ直ぐ生きて欲しかった。それがモーリスの願いなのに、あなたは王宮の侍女トリビアを利用して、王宮内に侵入して鶏を殺害した。そのあげくルリアンを連れ去り、この邸宅まで案内させた。これ以上の罪を犯すことはモーリスを悲しませるだけです。バカな真似はおやめなさい」
「煩い! お前に何がわかる!」
「あなたの気持ちはわかりませんが、モーリスの悲しい気持ちはわかります」
「それ以上減らず口を叩くと、お前もメイサ妃も射殺するぞ」
ポールはエルザにメイサ妃を連れて来るように命じた。エルザはキッチンの後ろに座らされて監禁されていたメイサ妃の傍に行き、キッチンの抽斗にあった果物ナイフで後ろ手に縛られていたロープを斬り、まだ縛られているように後ろ手にしたままメイサ妃に立ち上がるように目で合図した。そして果物ナイフはレイモンドの手に渡した。レイモンドは後ろ手に縛られたロープを自力でゆっくりと斬る。
メイサ妃の口にはタオルが縛りつけられている。敢えてそれは外さず、後ろ手が見えないように寄り添った。
ローザもすでにロープを解いていた。
エルザはポールの死角になる位置に立ち、メイド服のエプロンのポケットにローザが解いたロープを忍ばせた。
ポールはエルザにメイサ妃の口を塞いだタオルを解くように命じた。口を解かれたメイサ妃はゆっくりと深呼吸をした。
「話は全て聞きました。あなたがモーリスとアリトラの息子だったとは。あなたは誤解しています。アリトラを射殺したのは私ではなくゲイトです。トーマス王子誘拐を持ちかけたのはアリトラですが、ゲイトは最初から金塊を独り占めし、私をも誘拐することを目論んでいた。アリトラを最初から殺害するつもりで利用したのかもしれませんが、アリトラも欲に目が眩みトーマス王子を誘拐したことに間違いありません」
「そんなことには騙されないぞ!」
ポールがメイサ妃に銃口を向けたその時だった。ローザは大きく右足を振り上げ、拳銃を持っていたポールの手首を蹴り上げた。拳銃はポールの手を離れ床に転がる。ローザはガーターベルトに隠していた拳銃を直ぐさま抜き取り、ポールに向けて両手で構えた。
床に落ちた拳銃はメイサ妃が拾いあげ、ポールに向けて両手で構えた。
「いつの間にロープを……」
「もう諦めなさい。私はあなたを殺人犯にしたくない。モーリスは素晴らしいシェフだったから、悲しませたくないのよ。両手をあげて床に伏せなさい。エルザ、ガーディアン警部のロープを解いて」
「はい」
エルザはガーディアン警部のロープを解いた。キッチンの裏に監禁されていたコーディとレイモンドも姿を現す。ポールはもうどこにも逃げ場はない。観念したのか両手を挙げて床に伏せた。ガーディアン警部はポールを後ろ手にし、手錠をかけた。
「もう遅いよ。こんなこともあろうかと、私はルリアンの腕時計に時限爆弾を仕掛けた。残り時間はあと二分。二人の子供諸共この邸宅を爆破する」
「ルリアンの腕時計に? ガーディアン警部! コーディ、ご主人様、ここは大丈夫です。早く二階へ」
「コーディ! 急げ!」
ガーディアン警部とコーディ、レイモンドが階段を駆け上がると、二階の子供部屋にはいつ潜入したのか、トルマリンとトーマス王太子殿下がいた。
エルザの合図で玄関ドアからドカドカと警察官が踏み込んだ。一階にいるメイサ妃やローザ、エルザの安全を確保したガーディアン警部は二人の子供とトーマス王太子殿下、コーディ、トルマリンに邸宅の外に逃げるように促す。コーディとレイモンドはそれぞれの子供を両手に抱き、階段を駆け下りた。
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