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その時、裏庭に出てきたメイドがスポロンに声をかけた。スポロンは深く頷く。
「ローザさん、国王陛下が先ほど公務からお戻りになられたそうです。謁見の間に参りましょう」
「はい。お目通り感謝致します」
―王宮・謁見の間―
国王陛下とマリリン王妃がメイサ妃の侍女を謁見の間に通すことは異例だったが、トーマス王子誘拐事件の際にもローザはトーマス王子を救出し、事件解決に導いた英雄であるため、国王陛下は特別のはからいをした。
「国王陛下、マリリン王妃、ご無沙汰しております。このたびは謁見して下さり、感謝申し上げます。これはメイサ妃より、国王陛下へのお手紙でございます」
ローザは跪き、メイサ妃からの手紙を国王陛下に差し出す。スポロンはそれを代わりに受け取り国王陛下に直接渡した。
国王陛下は直ぐさま手紙を開封し、閲覧した。
「ローザ、久しぶりであるな。先日はわざわざトーマスに鶏を届けてくれたようだが、あのような結果となり大変申し訳なく思う。本日はわざわざメイサ妃の手紙を届けてくれてありがとう。私はメイサ妃からトーマスを引き取り、面会の権利も奪った。さぞメイサ妃もブラックオパール氏も私を恨んでいることだろう。それにも拘わらず今回の事件で、ローザを王宮に派遣してくれたことに深く感謝する。鶏を殺害した犯人が捕まるまでトーマス王太子殿下の傍に仕えてくれるか」
「はい。私はメイサ妃とご主人様の命令を受け王宮に参りました。小動物はこの王宮ではたくさん飼われております。兎やオウム、犬や猫。それなのになぜあの三羽の鶏だけを犯人が殺めたのか。それはトーマス王太子殿下、もしくはその御生母様であるメイサ妃に怨みをもつ者の仕業とお見受けします。この広い王宮の敷地内で、あの狭い裏庭に鶏小屋があることは少数の人物しか知りますまい。危険をおかしてまで王宮に侵入し、わざわざ鶏を殺害した意図を考えると、犯人の狙いは国王陛下ではなくトーマス王太子殿下だと思われます」
「なんと、犯人はトーマス王太子殿下の命を狙っていると申すのか」
「命を狙っているのならば、鶏を殺害したあとトーマス王太子殿下の寝室に侵入し、殺めることも可能だったはず。トーマス王太子殿下の命を奪うことが真の目的ではなく強い恐怖心を与えるつもりだったのでは? だとするならば、犯人はプロの殺し屋ではないように思われます」
「なるほど。さすがローザだ。その洞察力や推理は王室警察よりも優れている。メイサ妃の息子を想う気持ちにも感銘した。犯人逮捕に至るまで、ローザ・キャッツアイをトーマス王太子殿下の侍女に命ずる。スポロンと協力してくれ。もちろん外出時には厳重な警護もつけるつもりだ。トーマス王太子殿下はこの国の王位継承者だからね」
「ありがたきお言葉。本日より全身全霊を捧げトーマス王太子殿下にお仕えする所存です」
それまで黙っていたマリリン王妃が口を開く。
「国王陛下、ローザは私の元上司でございましたが、このような年齢なのにトーマス王太子殿下の侍女に命じて大丈夫ですか? トーマス王太子殿下の侍女ならば、私の侍女であるトリビアに任せても宜しいのでは?」
「トリビアはまだ経験も浅い。ローザでなければ務まらない役目だ。これは私が決めたことだ」
「国王陛下はまだ私よりもメイサ妃の言葉を信じるのですね」
「マリリン王妃、どうしたのだ。マリリン王妃らしくないな。ローザ、もう下がってよい。トーマス王太子殿下の隣室にあるゲストルームを使用するといい。その部屋がトーマス王太子殿下の部屋に一番近いからな」
「侍女の私にゲストルームとは。有難き待遇をお与え下さり感謝申し上げます。それでは国王陛下、マリリン王妃、失礼致します」
スポロンに連れられ、ローザは謁見の間を出る。メイサ妃がお妃だった頃、ローザは王宮で働いていたため、王宮の図面もどこに隠し部屋や抜け道があるのかもすべてわかっていた。
「スポロンさん、ありがとうございました。スポロンさんが事前に国王陛下に口添えして下さったのでしょう」
「おわかりでしたか。ローザさんはすべてお見通しですね。メイサ妃の侍女を王宮に入れることは、マリリン王妃が反対されるとわかっておりましたので、国王陛下には事前にお知らせしておきました。メイサ妃のお手紙も感銘を受けられたようです。私も実はローザさんが来てくれて安心しております。マリリン王妃の侍女トリビアでは心許ないので」
「この王宮内に魔物が潜んでいるとは思いたくはありません。それならば、もっと早くにトーマス王太子殿下に危害を加えていたはずです。マリリン王妃の侍女トリビアはいつから王宮に?」
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