【12】片想いの彼女と偽りの婚約者
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―王宮・応接室―
ルリアンに振られたトーマス王太子殿下は、翌日、国王陛下とマリリン王妃とピンクダイヤモンド公爵令嬢のダリアと三人で昼食をするはめになった。事前に知らされていたのは国王陛下とマリリン王妃との昼食だったはずなのに、何故かダリアも同席していて、マリリン王妃の強い意図を感じた。
上品ではあるが明るく朗らかなダリアとは対象的に、トーマス王太子殿下はずっと無言でナイフとフォークを動かす。
マリリン王妃はきっと侍女や警備員から、トーマス王太子殿下がルリアンに木っ端微塵に振られたことを知り、その隙にダリアとの仲を取り持ち婚約の話を勧めるつもりなのだろうが、トーマス王太子殿下はとてもそんな気にはならない。
「トーマスどうした? 今日は元気がないようだが?」
「いや、別に……。ダリアさんは正装されているのに、私は家族水入らずと思っておりましたので、こんな格好で申し訳ありません」
(これがマリリン王妃に対する精一杯の嫌味だ。)
「そんなことを気にしていたのか? マリリン、トーマスにダリアさんが同席されることを伝えなかったのか?」
「メイドに申し伝えるように言いましたが、どうやらメイドが伝えなかったようです。トーマス王太子、服装など気にしなくてもよいですよ。ダリアさんは家族も同然、お客様ではなく特別なお相手なのですから」
(メイドが伝えなかった? そんなの嘘に決まっている。ダリアさんがいると知っていたら、私はここにはいないからだ。)
「そうそう、メイサ妃の侍女のローザさんがトーマス王太子にわざわざ鶏を持ってこられたようですね」
「まあ鶏ですか? 今日の昼食のチキンはまさか……」
ダリアが口元を押さえ、切り分けられたチキンの丸焼きに視線を向けた。
「あのチキンは違いますよ。ですが……。まあ食事中なのでその話はやめておきましょう」
話を濁したマリリン王妃に、トーマス王太子殿下は違和感を抱いた。
「トーマス王太子殿下は王立ハイスクールですよね。私もパトリシアハイスクールから転入しようかしら」
「まあパトリシアハイスクールは由緒ある名門校です。王立ハイスクールでなくとも婚約に支障はありません」
「マリリン王妃ありがとうございます。少しでもトーマス王太子殿下のお傍にいられたらと思っただけです」
「なんと奥ゆかしい。トーマス王太子もお幸せですね」
(どこがだよ。ルリアンは私のことなんて何とも思ってはいない。もう婚約でも何でも勝手に整えればいいだろう。でも王立ハイスクールへの転入は断る。ハイスクールでは婚約者に見張られることなく自由に学生生活を過ごしたいからだ。)
応接室のドアがノックされ、メイドがドアを開けると青ざめた顔のスポロンが立っていた。
「国王陛下、マリリン王妃、会食中のご無礼をお許し下さい。トーマス王太子殿下、一大事でございます」
「……えっ?」
「スポロン、場所と立場をわきまえなさい。ピンクダイヤモンド公爵令嬢とトーマス王太子が会食されているのですよ」
「マリリン王妃、重々わかっておりますが、どうしてもトーマス王太子殿下にお伝えしたいことが……」
「無礼な。スポロンさがりなさい」
マリリン王妃の怒りの矛先はスポロンに向いたが、国王陛下の一言でその場の空気は一変した。
「よいではないか。スポロンはトーマスの執事だ。何かあったのか?」
「深夜、何者かが王宮の敷地内に侵入し、裏庭の鶏小屋が荒らされ、トーマス王太子殿下の鶏が三羽全て殺害されておりました。先ほど世話係が発見した次第でございます。これは王族に危害を加える前兆やも知れぬと、現在王室警察も動きだし、犯人捜しに躍起になっております」
「あの鶏が殺された!」
トーマス王太子殿下は思わず椅子から立ち上がる。ダリアが恐怖に顔を歪め悲鳴をあげた。
トーマス王太子殿下は先ほどの不自然な会話を思い出していた。
――『まあ鶏ですか? 今日の昼食のチキンはまさか……』
ダリアが口元を押さえ、切り分けられたチキンの丸焼きに視線を向けた。
――『あのチキンは違いますよ。ですが……。まあ食事中なのでその話はやめておきましょう』
(明らかにマリリン王妃は知っていた。あの三羽の鶏が殺されたことを……。まさか、マリリン王妃が命じた何者かが殺めたのか。)
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