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「……えっと。私はその」
ルリアンが返事に困っていると、トーマス王太子殿下がポールを見て快諾した。
「いいですね。三人で公園を散歩しましょう」
「トニーさんも? そうですね。王立ハイスクールの学生さんと話ができることはなかなかありませんから。三人で散歩しましょう」
ポールの提案に一番困惑していたのは、離れた席から三人を見守っていたスポロンだった。
ポールが貸し出し窓口に並んでいた時、先に図書館の外に出たトーマス王太子殿下がルリアンに話し掛けた。
「あいつがポール・キャンデラか。もう交際しているのか? まさか王立図書館で密会とは気付かなかったな」
一度嘘をついた手前、ルリアンは嘘に嘘を重ねる。
「バレましたか。実はポールは転入先のハイスクールで王室研究部の部長なんです。王室についてとても詳しい。あの偽名とその制服ではバレバレです。眼鏡を外していても、きっと新聞や書物でトーマス王太子殿下の顔も知ってるはず。スポロンさんと王宮に戻られてはいかがですか?」
「そうかもな。ルリアンはあいつとそんなに二人きりになりたいのか?」
「あいつ、あいつって。ポールはトーマス王太子殿下より年上です。年上にあいつだなんて、失礼ですよ」
「この私に『公爵家のご子息は随分偉そうなんですね』なんて、上から目線で話すのは失礼ではないのか? 私は仮にもこの国の王太子だ」
「それは知らないからです。だから、早くお戻り下さい。護衛なしで公園だなんて危険過ぎます」
ちょうどその時だった。
王立図書館の前に公用車が停まった。運転手はタルマンだった。
「義父さんどうしたの?」
「マリリン王妃を公務先の美術館にお送りしたあと、一旦王宮に戻るように言われたんだ。あとでお迎えに行くんだよ。ルリアン図書館は終わったのか? トーマス王太子殿下、王宮までお送りします。そこにいらっしゃるスポロンさんも」
(スポロンさんの変装は鈍感な義父にもバレバレだ。)
「ポールさんが来るまでにそうして下さい。お願いします」
「わかったよ。ただし、三十分だ。散歩したらすぐに宿舎に戻るように。私はルリアンの恋人だから、本来ならば他の男とデートだなんて許すまじき行為だ」
「ルリアンが他の男とデート!? トーマス王太子殿下と真剣交際しているのに!?」
「義父さん、違います。ポールさんは友人ですから」
(あっちにもこっちにも嘘をついていると、訳がわからなくなってくる。)
「スポロン、帰るぞ」
「はい」
トーマス王太子殿下とスポロンは公用車に乗り込み、そのまま王宮へと帰宅した。ルリアンはホッと胸をなで下ろす。トーマス王太子殿下の前でポール・キャンデラを好きな振りを続けるには限界があるからだ。
公用車が走り去ったあと、ちょうどポールが図書館から出てきた。本当なら義父と一緒に帰りたかったが、ポールとデートしないとトーマス王太子殿下に話した内容と辻褄が合わなくなる。
「ごめん。貸し出し窓口が混んでいてさ。あれ? トニーさんは?」
「急用ができたみたいで帰宅されました」
「そう。ルリアンさんは待っててくれたんだ。ありがとう。公園に行こうか」
ポールの言っていた公園は王立図書館から歩いて五~六分の場所にあった。
「はい。でも……私も三十分しか時間がないの」
「三十分? そうなんだ。三十分でもいいよ。ルリアンさんと二人きりで過ごせるなら。ルリアンさんはまだ王室のことを調べてる?」
「もう調べていません。私はホワイト王国出身だから、この国の歴史に興味があって、今日は歴史本を閲覧してました。ポールさんはハイスクールを卒業したら、ロースクールに進学ですか?」
「法律家を目指しているわけではないが、法律には興味があるんだ。母子家庭だしカレッジスクールに進学するなら奨学金しかないしね。母を早く楽にさせてあげたいし、ハイスクールを卒業したら働かないといけないかも」
「私の家もそうです。生活が苦しいから、カレッジスクールに行くには奨学金しかありません。そんな余裕なんてないです」
「さっき一緒だった公爵家の子息と私達では生活環境が違い過ぎますね。てっきりお付き合いされている方かと思って焦りました」
「焦り……?」
「まだわかりませんか? 私はルリアンさんに一目惚れしました。お付き合いしてくれませんか?」
「えっ……?」
(ここに義父がいたらきっと『嘘から出たまこと』意味/初めは嘘のつもりで言ったことが偶然事実となること。と、熱弁するだろう。私の知らない意味不明の言葉を連発するから、自然に覚えてしまった。)
芝生の広がる公園の中央に設置された噴水では小さな子供達が水遊びをしている。
「返事は新学期が始まってからでいいよ。子供達は無邪気でいいね。私達も水遊びしたいくらいだ」
(ニッコリ笑った爽やかな笑顔。私には身分不相応のトーマス王太子殿下よりもポールの方が釣り合っているのかもしれない。)
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