71
「公立ハイスクールと王立ハイスクールではカリキュラムも違うし、大体学年だって違うし。一歳年下だってバレてるんですからね」
ルリアンは王立図書館の新聞でトーマス王太子殿下の生年月日はちゃんとチェックしていたが、今まで敢えて黙っていたのだ。
「ルリアンその言葉遣いは注意したはずだよ。トーマス王太子殿下に失礼極まりない。トーマス王太子殿下が王立図書館を見学したいと仰られているんだ。ご案内しなさい。交際の話は仕事から帰ってからだ」
「義父さんは何もわかってないから言えるんだよ」
ルリアンは思わずタルマンに口答えをした。トーマス王太子殿下はそんなルリアンに注意をする。
「ルリアン、お義父さんに失礼だよ。父親は敬わなければ」
(よく言うよ。自分だって実父のレイモンドさんに反抗したくせに。)
「それではトーマス王太子殿下、私は仕事がありますので。ふつつかな娘ですが宜しくお願いします」
「はい。では、ルリアン出かけよう」
ルリアンはタルマンが公用車の車庫に向かうのを見届けると、強い口調で詰め寄る。
「卑怯だわ。義父さんの前であんなことを言うなんて。あれは婚約を解消するための恋人の振りだって言ったくせに。嘘だったの? スポロンさんにも口止めされていたのに、義父さんが本気にするじゃない」
「別に構わないさ。お義父さんは本当に記憶をなくしているみたいだね。『おじちゃん、ちゃんと約束を守ってくれたんだね。待ち詫びたよ』ってわざと言って試したが、無反応だった。あのゲジゲジ眉毛はあの時の『おじちゃん』なんだけどなあ」
「違います。それはそっくりさん。義父は『タルマン・トルマリン』で『タダシ・キダニ』ではありませんから」
「タダシ・キダニって言うのか? そう言えばパープル王国では聞かない珍しい名前だった。キダニか……。そんな気もしてきた」
「違います! 義父はタルマン・トルマリンです!」
「わかった。わかった。それより早く行こう。マリリン王妃に見つかったら大変だ」
「ちょっと、まさかその高級ブランドのスーツで街を歩くつもり? 私は安物の花柄のワンピースなのに。そんな格好では『私はトーマス王太子殿下です』って言いながら歩いているようなものよ。一緒に王立図書館に行くなら、庶民の服装してよ。ポロシャツとスラックスとか、ジーンズとか、短パンとか」
「そんな服持ってないよ。全部スーツだ。あるとしたら、王立ハイスクールの制服くらいだ」
「だったらそれでいいから。着替えてきて。しょうがないから待ってる」
「ルリアン、逃げるなよ」
「だから待ってるってば。眼鏡外して変装してきてよ」
(年下のくせに生意気な。どうして私がトーマス王太子殿下と王立図書館に行かないといけないのよ。鶏を届けただけでしょう。それに……一緒に行くならもっとお洒落すればよかった。こんな色褪せたワンピースではなく、もう少しマシなワンピース。いや、制服の方がマシだよ。制服……、そうだ。公立パープルワンハイスクールのセーラー服にしよう。)
ルリアンは猛ダッシュで宿舎に戻り、義父が購入してくれた公立ハイスクールの制服に着替えた。まだ真新しい匂いのする制服だ。これなら、王立ハイスクールの制服を着たトーマス王太子殿下と一緒に歩いても違和感はない。
急いで制服に着替えたルリアンは、息を切らして階段を駆け下りる。宿舎の下にはふて腐れた顔をしたトーマス王太子殿下がいた。
「逃げたかと思った。私を待たせるとは上等だな。それ……公立ハイスクールの制服? 赤いリボンで、濃い紫色のセーラー服なんだ。可愛い……」
「えっ? 今なんて?」
「何でもない」
トーマス王太子殿下は薄紫色のポロシャツ。胸ポケットには王立ハイスクールの校章。校章は金色の王冠だ。スラックスは髪色と同じ黒だが、明らかに高貴な人物にしか見えない。やはり育ちが違うと学生なのに威風堂々としてみえる。眼鏡を外すとかなりの美男子だ。
数メートル後ろには、茶色いハットを目深に被りサングラスをして、真夏なのに茶色のトレンチコートを着ている怪しい人物。明らかにスポロンだ。変装の仕方もわからないのか、真夏にトレンチコートはないだろうと、ルリアンはため息を吐いた。
「さあ案内してくれ」
「わかりました。着いてきて下さい」
「手繋ぐ?」
「まさか、お断りします。私達はお付き合いなんてしてませんから」
「はいはい」
ルリアンはトーマス王太子殿下とスポロンを引き連れ王立図書館に向かった。王宮内にも王族専用の図書室はあるため、珍しい本なんて何ひとつないのに、トーマス王太子殿下は瞳を輝かせて図書館の中を歩き回っている。
(まるで子供だな。)
ルリアンはパープル王国とレッドローズ王国の歴史本を手に取りテーブルに置いた。トーマス王太子殿下はまだ一人で本棚を眺めている。
ルリアンは一人で歴史本のページを捲る。先ずはパープル王国の歴史からだ。前回はスキャンダルも交えた新聞記事を中心に読みあさっていたが、今回は真面目にパープル王国の歴史について学ぶつもりだった。
その時、肩をポンポンと叩かれた。
「何ですかトー……。ポールさん!?」
そこにいたのはトーマス王太子殿下ではなく、ポール・キャンデラだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます