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「ローザさんがどうしてこんなところに? 今、珈琲でも……」


「いえ、お構いなく。確かルリアンさんと仰いましたよね。トーマス王太子殿下のメイドをされているのですよね。あれからトーマス王太子殿下は大丈夫ですか? 先週はかなり取り乱されていましたが、もう落ち着かれましたでしょうか?」


「はい。でもトーマス王太子殿下のメイドは本日付けで解雇されましたから」


「解雇? まあ、なかなかお似合いだと思っておりましたが。ルリアンさんは本職ではなく学生なのですよね。もうすぐ新学期ですからね。我が儘なトーマス王太子殿下のメイドは大変だったでしょう? 私もメイサ妃が公爵令嬢だった頃からお仕えしておりましたが、あの我が儘なところや気の強いところはメイサ妃にそっくりでございます」


「トーマス王太子殿下はそんなに気丈な方ではありません。確かに我が儘で自己中心的なところはありますが、繊細なところもあります」


 ローザは目を細めてルリアンの話に頷く。


「よくご理解されているようですね。トーマス王太子殿下のお気持ちを理解して下さる方がお傍にいらして安心致しました。その林檎は?」


「これはトーマス王太子殿下から義父へと。先週の御礼だそうです。何か深い意味でもあるのか、単なる気まぐれなのかわかりませんが……」


「なるほど。さすが賢い王子です。トーマス王太子殿下も薄々勘づかれたようですね」


 (薄々勘づいたとは、まさか……。トーマス王太子殿下が話していたゲジゲジ眉毛の『おじちゃん』が義父さんだと?)


「義父さん、どうしたの? 項垂れて。義父さん、お客様がいらしてるのよ。ほら、メイサ妃の侍女のローザさん。この鶏はあの美味しい玉子サンドの卵を産んでくれた鶏だよ」


 ローザがルリアンの話に口を挟む。


「トルマリンさん、あなたはトーマス王子に『朝市のお土産に鶏を三羽』頼まれませんでしたか?」


「ひいい……。に、に、鶏!? ぎゃああ、赤い林檎!? どうしたんだよ、ルリアンこれは」


「この林檎はトーマス王太子殿下が義父さんにって、さっき言ったでしょう。聞いてなかったの?」


「さっきから頭がガンガンするんだ。すみません。ローザさん、私は何も思い出せません」


「大変失礼だとは思いましたが、タルマン・トルマリンさんは偽名ではありませんか? まだ四歳だったトーマス王子がアリトラ・ジルコニアに誘拐され、メイサ妃は共犯の元マフィアのゲイト・サンドラに捕らわれました。その際、ゲイトはアリトラを射殺して逃走しました。私はトーマス王子を救出しパープル王国の王室病院に引き返す途中、一台のタクシーとすれ違ったのです。そこにはメイサ妃の御生家の元執事と大変印象深い黒髪にゲジゲジ眉毛の運転手がおりました。

彼らのおかげでメイサ妃の救出にも成功し、ゲイトは自ら転落し後頭部を殴打したことが原因でのちに亡くなりました。その後、タクシー運転手とレイモンドの乗ったタクシーは事故を起こして炎上しました。二人は忽然と消えたのです」


 タルマンはローザの話に、ブルブルと震えて首を左右に振る。


「私にそんな勇敢なことはできません。メイサ妃もレイモンドさんも知りません。お逢いしたこともありません」


「鶏や林檎を見ても記憶を取り戻すことはできませんか……。その三年後、私は偶然レイモンドとタクシー運転手をある病院で発見しました。二人は死んではいなかったのです。メイサ妃はトム王太子殿下とすでに離縁されていたので、レイモンドと再婚しました。タクシー運転手はホワイト王国の林檎農家で働いていたようですが、二年後不思議なことが起きたようです。ご主人様レイモンドとメイサ妃とトーマス王子とユートピア様を乗せた車が事故を起こし、気がついたらメイサ妃は普段着から赤いドレスに衣装が替わっていて、御子様達もみんな正装になられていたそうです。まるで狐か狸に化かされたみたいに」


「そんなヘンテコリンな話は私には関係ないです」


「いいえ、関係あるのです。トーマス王子を報奨金欲しさに軟禁した罪で捕らわれたガイ・ストーンはタダシ・キダニというタクシー運転手の元同僚でした。タルマン・トルマリンではなく、タダシ・キダニです。キダニさんはスポロンさんがメイサ妃とトーマス王子をホワイト王国の農村に迎えに行かれた時には、すでに姿はなかったそうです。ご主人様レイモンドがこの件に巻き込みたくないと林檎農家へ逃がされたのです。でも彼は林檎農家には行かなかった。私はその当時、ホワイト王国で起きた事件を調べました」


「事件……」

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