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「私がここに来てはいけませんか。本日は国王陛下が公務でグリーン王国を訪問されているので、トーマス王太子とダリアさんと三人でディナーでもと思ったのです。それなのに部屋はもぬけの殻。スポロン、そなたはどこに外出していたのですか? トーマス王太子とメイドを二人きりにして、しかもそのディナーは二人分ですね。まさかトーマス王太子が使用人と御一緒にディナーですか? それを執事が認めるなんて、なんと寛大なこと」


 マリリン王妃は皮肉たっぷりにスポロンに苦言を呈した。


「マリリン王妃、実は私の母が急病になり実家に様子を見に行っておりました。王室の事務方には外出届を提出しておりましたが、国王陛下やマリリン王妃にまで御報告する案件ではなかったため、報告が遅れて申し訳ございません」


「そうですか。スポロン、お母様の具合はいかがでした?」


「風邪を拗らせたようですが、心配はないようです」


 スポロンはその場をやり過ごそうと必死だ。この場にいることが気まずくなったルリアンは意を決して口を開いた。


「あの……お話中申し訳ありません。この部屋で今日は珍しい本を拝読したり、バルコニーから見えるお庭の美しい花々の名前を教わったりしていましたが、トーマス王太子殿下にこの応接室にはテロリストや他国からの攻撃から身を守るための、隠し部屋があることを教えていただき、つい拝見したくなり中を見せていただいていました。その時に応接室の鍵が開く音がして慌てて二人で隠れ、隠し部屋から出るタイミングを失い暫くは室内で外国の音楽を聴いておりました。ですから、私はマリリン王妃が仰られるようなそんな関係ではありません」


 (よし、我ながらなかなか上手い嘘が言えた。)


「男女が二人きりで一日中過ごし、何事もなかったと? 隠し部屋にはベッドルームもあります。そこで秘め事をしていたのでしょう。トーマス王太子も殿方ですから、女性に興味があって当たり前です。お遊びなら構いません。あなたがそれでよいのなら」


 ルリアンのことを、小バカにしたように見下したマリリン王妃に、トーマス王太子殿下が黙ってはいなかった。


「マリリン王妃、あなたにルリアンのことをとやかく言われる筋合いはありません。あなたは国王陛下の正妻であり、今は国民から王妃と呼ばれていますが、もとはと言えばあなたは私の母のお付きのメイドですよね。お父様にお妃がいることを知った上で、あなたはお父様の夜のお遊びの相手に選ばれた一人なのでは? それともあなたから誘ったのですか?」


「……この私が誘った? なんと無礼な」


「お怒りになるのはごもっともです。お父様は身分に関係なく、お妃である母よりもメイドのあなたを愛されたのでしょう。だから母は離縁することを選んだ。だとするならば、この私がメイドのルリアンと交際しても何ら問題はないはず。はっきりと申し上げます。ルリアンとのことはお遊びではありません。私はルリアンが好きです。飾らない平民のルリアンが好きです。恋愛感情もないピンクダイヤモンド公爵令嬢との婚約は正式にお断りします。母のような、悲しい想いをダリアさんにして欲しくないので」


「……っ、トーマス王太子。それは私に対する侮辱ですか? もとはと言えばメイサ妃が私の恋人を奪ったのです。ふしだらな……」


「ふしだらな? だからお父様を奪ったと? いくらマリリン王妃でもその言葉は撤回していただきます。私の母を侮辱することも、私の義父を侮辱することも、お父様である国王陛下を侮辱することも、この私が許しません。私は王位継承者なのです。あなたの嘘を暴くことも可能なのですよ」


「……私の嘘? 私は嘘などついておりません。ルリアンとやら、国王陛下もこの私もトーマス王太子との交際は断じて認めません。国王陛下と私は愛し合っています。あなたは所詮、トーマス王太子とは体だけの関係だと恥じることです」


「マリリン王妃、今の言葉は取り消せ!」


「なんとはしたない。それが王妃に対するお言葉ですか? 反抗期も困ったものですね。スポロン、あなたがしっかり教育しないからですよ。この件は国王陛下にお伝えしますからね」


 マリリン王妃は怒り心頭に発す。

 そのまま応接室をあとにした。

 ルリアンはかなり困惑していた。他のメイドは何事もなかったかのように、ダイニングテーブルの上にディナーの用意を始めた。


 (とてもじゃないが、この状況で二人きりでディナーなんて喉を通らないよ。)

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