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「母さん。再婚した時になぜ全て話してくれなかったんだよ。そうすれば私は王宮に行くことはなかったし、王位継承も放棄したのに」
「トーマスはまだ幼かったから、成人したら話すつもりだったわ。本当よ、トーマス。私達はあなたを愛している」
メイサ妃はぽろぽろと涙を溢しした。
「私にはわからない。そんな汚れた愛なんてわからない!」
「トーマス!」
「私はずっと国王陛下を実の父だと信じてきた。それが全部嘘だったなんて。義父だと思っていた義父さんが本当の父だったなんて……。どうすればいいんだよ」
トーマスの目から涙が溢れた。
レイモンドはたまらなくなり、閉ざしていた口を開く。
「私とメイサが国王陛下と話をする。国王陛下に謁見させて欲しい」
「まだ国王陛下を苦しめたいの? 今までずっと苦しめてきたのに! 国王陛下やマリリン王妃に、父さんは合わせる顔があるのか!」
「……誠心誠意、国王陛下に話をしてトーマスを返してもらうつもりだ」
肩を震わせて泣いているトーマス王太子殿下をメイサ妃が抱きしめようとした。トーマス王太子殿下は思わずメイサ妃の手を振り払った。
「話はわかりました。マリリン王妃の話したことが真実だったようですね。国王陛下とマリリン王妃への謁見はご遠慮下さい。私の人生は自分で決めます。国王陛下が実子でもない私を王太子として育て王位継承者に任命して下さったことに、私は報いる責任があります。母さんと父さんのついた嘘を償えるのはこの私だけなのですから」
トーマス王太子殿下はソファーから立ち上がった。
「トーマス、待って。全部母さんが悪いのよ。父さんは何も悪くないわ」
トーマス王太子殿下を呼び止めようとしたメイサ妃の腕をレイモンドが掴んだ。トーマス王太子殿下はそのまま応接室を出る。廊下にいたスポロンに視線を向けた。
「スポロン、もう話はすんだ。王宮に戻る」
「畏まりました」
二階から階段を駆け下りる音がした。
「お兄様! もうお帰りですか? 私と遊んでくれる約束でしょう。お兄様の鶏ならまだ生きてるんだよ。私がお世話してるから。お兄様の鶏を見てよ」
「ユートピア、ごめん。私はパープル王国の王太子なのだ。ユートピアと遊ぶ時間はなくなった。鶏を世話してくれてありがとう。鶏はユートピアにあげるよ。離れて暮らしてもユートピアは私のたった一人の弟だからね」
「お兄様、また来てくれる?」
トーマス王太子殿下はユートピアの質問には答えず、ローザやコーディ、エルザに見送られ玄関に向かう。応接室からメイサ妃か飛び出した。レイモンドもそのあとに続く。
「待って! トーマス! あなたは私達の大切な息子です。愛しているのよ……。一緒に暮らしたいの」
トーマス王太子殿下はメイサ妃の言葉に振り向きもしなかった。
――その時だった。
こともあろうに、トーマス王太子殿下のお尻をバチンと掌で叩く音がした。
「……っ、無礼者!」
トーマス王太子殿下が振り返ると、ローザが物凄い形相で立っていた。
「はい、私は無礼者です。パープル王国のトーマス王太子殿下のお尻を叩いたのですからね。ご不満なら王宮に連行なさいませ。いかなる処罰も受けましょう。トーマス王太子殿下、いえ、トーマス王子はこの私が幼少期に教育係を務めました。お母様であるメイサ妃への無礼は、元教育係として許しまじき行為。スポロンさん、あなたが甘やかされたから、あんなに素直だったトーマス王子がこんなに捻くれたのですか?」
「ローザさん、全て私の責任だと?」
スポロンはローザに責められ憤慨している。
「そうです。あなたの責任です。トーマス王子、マリリン王妃から何を吹き込まれたか存じませぬが、義母の言葉と実母の言葉とどちらを信じるのです? マリリン王妃もメイドのご身分から王妃にまで成り上がるにはそれなりの策略もございましょう。大人の世界には色々あるのですよ。地位と名誉を手に入れるために、たとえどんな手段を使ってもお妃を蹴落とすような者がいるのです。私は処罰されても構いませんが、メイサ妃とご主人様のことを侮辱するのはたとえトーマス王子でもこの私が許しません。さあ、どうなさいますか」
トーマス王太子殿下に詰め寄るローザに、スポロンはもとより、コーディもエルザも若干引いている。
「ローザ、もういいよ。父である私が一番いけないんだ。トーマスを責めないでくれ」
「ご主人様も甘過ぎますよ」
ローザの言葉に、トーマス王太子殿下は罰が悪そうに振り向いた。涙を溢しているメイサ妃に白いハンカチを差し出す。
「逢えて……よかったです。お母様に生意気なことを言って申し訳ありませんでした。私もお母様を愛しています。ですが……この家に戻るつもりはありません。ブラックオパール家の跡継ぎはユートピアです。ユートピア、お母様とお父様を頼んだからな」
「はい、お兄様」
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