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(王室研究部? 王室マニアなのかな? ヤバい、王室のことはペラペラ口外してはいけないんだった。まだセーフかな。内情は話してないし。)
「ルリアンさんは王室の使用人宿舎に住んでるなら、色々情報教えてよ。王室研究部に入らない?」
「ごめんなさい。色々ありがとうございました。でも王室の決まりで、王室のことは口外禁止なの。本当にごめんなさい」
「そうなんだ。国民の税金で贅沢三昧している王族の真の姿が暴けると思ったのに残念だな。また気が変わったら知らせて」
(真の姿を暴くなんて、ちょっと怖いな。トーマス王太子殿下に日替わりメイドがいて、私が日曜日担当なんて口が裂けても言えないよ。)
「私、もうそろそろ帰らないと」
「宿舎近くまで送るよ。ちょうど帰り道なんだ。王宮を外から見てみたいしね」
「……ありがとう」
ポールはよほど王室に興味があるのか、瞳を輝かせた。
王立図書館からの帰り道、ポールはルリアンに転入先のハイスクールのことを色々教えてくれた。生徒会長だけあって爽やかで誠実なポールは、我が儘なトーマス王太子殿下とは真逆な感じがして好感度は爆上がりだった。
王宮の横にある脇道、使用人宿舎の出入り口の通用門にも警備員が常駐していた。
ポールは王宮を見上げ、ルリアンに視線を移した。
「トーマス王太子殿下と逢ったことある?」
ルリアンはブルブルと首を左右に振る。
「まさか、私のような身分の者が逢えるようなお方ではありません」
「そうか。だよね。王宮に入ることなんてないだろうしね」
「はい。王宮だなんてとんでもない。ポールさんありがとうございました。失礼します」
「うん。連絡先教えてくれない? 使用人宿舎にも電話くらいあるよね?」
「共用の電話はありますが、個室に電話はありません」
「だったら、これは私の家の電話番号なんだ。何か困ったらいつでも電話して。じゃあ、またね」
ポールは電話番号が書かれたメモ用紙をそっとルリアンに渡した。ルリアンは頬を赤く染めてそれを受け取る。
パープル王国に来て初めてできた友達は、トーマス王太子殿下よりも紳士的で好印象だったからだ。
使用人宿舎の通用口で使用人宿舎に住んでいる証のパスポートを見せて中に入る。ルリアンの掌の中には、ポールからもらった電話番号が書かれたメモ用紙。捨てる気持ちにはなれずそっとポケットにしまった。
「セブン、ニヤニヤしてどうしたんだよ? あの男は誰?」
「……っ、トーマス王太子殿下? どうして使用人宿舎の前に? 今日は日曜日ではありません。それにトーマス王太子殿下がこんなところに一人でいらっしゃるなんて、スポロンさんにまた叱られますよ」
「ここは宮殿内の一部だよ。そこら中に警備員がいる。王宮には王室警察も常駐している。何が危険なんだよ。それよりホワイト王国の田舎者が王宮の外に出て、男に簡単にナンパされる方がよほど危険じゃないのか? それともセブンが自分から誘ったのか?」
「……どこから見てたの?」
「庭を散歩してたら、男とイチャイチャしてるセブンがたまたま見えただけだ。林檎みたいに真っ赤な顔をして、なに舞い上がってるんだよ」
「舞い上がってません。彼は転入先のパープルワンハイスクールの同級生です。偶然転入手続きに行った私を覚えていてくれて、道で出会ってここまで送ってくれただけです」
「ふーん。セブンは軽いな。もし相手が嘘をついて車に連れ込まれてもしらないよ」
「ポールさんはそんな人ではありません。ハイスクールの生徒会長だし、トーマス王太子殿下よりも紳士なんだから」
トーマス王太子殿下はムッとした顔をした。庭で摘んだと思われる紫色の薔薇をルリアンの鼻先に突きつけた。
「……な、なんですか?」
「昨日、遅くまで付き合わせたお詫びだ。でも必要なかったようだな。セブンにはもう男がいるんだから」
「トーマス王太子殿下、男、男と言わないで下さい。まるで私が尻軽女みたいでしょう」
「仔豚のくせに」
「仔、仔豚!? それ女性蔑視ですよ。だから三十点王子なんです。その薔薇は月曜日のメイドに差し上げたらいかがですか? きっとセクシーな下着なんでしょう。では失礼します」
ルリアンはムッとしたまま、トーマス王太子殿下に背を向けて三階に駆け上がる。
(せっかくいい気分だったのに、 トーマス王太子殿下のせいでぶち壊しだ。トーマス王太子殿下の無礼をポールにぶちまけたいが、両親がクビになっても困るし、本当にイライラする。)
宿舎のドアノブに手をかけた時、階下からトーマス王太子殿下の声がした。
「セブン、今日は黒猫なんだね。日曜日午前九時、遅刻するなよ。時間厳守だからな」
(今日は黒猫!? このド変態!? 階下から見たの!? フン、何が時間厳守よ。毎日毎日メイドとイチャついてるくせに、まだ私をからかって遊ぶつもりなんだ。悪趣味にもほどがある。)
ルリアンは振り向くこともなく、ドアを開けて室内に入った。そっとベランダに面した窓から宿舎の前の道を一人で歩くトーマス王太子殿下に視線を落とした。なぜか寂しそうな背中に、ルリアンは自分の身分もわきまえず言い過ぎたと、少しだけ後悔していた。
自分の机の抽斗を開けて、トーマス王太子殿下から貸して貰った御生母様の腕時計の横に、ポールから貰った電話番号が書かれたメモ用紙を一緒に収めた。
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