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 王立図書館の過去の新聞を読めば、必ず掲載されているに違いない。


 王立図書館に入り、国王陛下がまだ王太子殿下だった時に御成婚された新聞を取り出し、次々閲覧した。王室の歴史本にはスキャンダラスな出来事は掲載されていないと思ったからだ。


「『トム王太子殿下は隣国レッドローズ王国のサファイア公爵家の一人娘である御令嬢、メイサ・サファイア様を見初められ熱烈に求婚。当時、トム王太子殿下は三十二歳、メイサ様は二十四歳、当時からすれば十代で御婚約をし、御成婚される王族の方々もいらっしゃるため、どちらかと言えば年齢的には晩婚だったが、御成婚時にはもうメイサ様は御懐妊されていた』若き日の国王陛下もトーマス王太子殿下同様に手が早いということか……。しかもメイドに手を出すのも血筋だな。それに一歳年下じゃない」


 背後からポンポンと肩を叩かれ、ルリアンは思わず「ヒイッ……」と奇妙な声を出した。誰かの唇が右耳に近付き小声で囁く。


「君は確か……。公立パープルワンハイスクールに転入手続きに来ていた女子だよね?」


「えっ、あ、はい。あなたは……?」


「私はパープルワンハイスクールの生徒会長、ポール・キャンデラです。王立図書館で独り言だなんて、ここは私語禁止だよ。何を調べてるの? 王室に興味があるの? 私はパープル王国出身だ。王室の秘密で知りたいことがあるなら教えてあげるよ。中庭に出ない?」


 王室の秘密……。一般人の学生でも知ってること? パープル王国出身と言ってるが、ポールの髪色はシルバーだけどよく見ると髪の根元は黒髪だった。


「……はい」


 ルリアンはトーマス王太子殿下の誘拐事件のことが知りたくて、ポールと中庭に出た。ポールは木製のベンチに座り、ルリアンにも座るように促した。


「君は黒髪なんだね。だからつい声をかけてしまった。いつも女子に声をかけてるわけじゃないから誤解しないで」


「……はい。パープル王国出身なのにポールさんも黒髪なんでしょう。わざわざシルバーに染めてるなんて珍しいですね」


「バレた? 夏休みだからつい放置してしまった。母はパープル王国出身でシルバーの髪色なんだ。実はシングルマザーなんだよ。父は元移民だったらしいが、結婚する前に亡くなったんだ」


「……そうでしたか。辛い話をさせてごめんなさい。実は私の義父も母も王室の使用人なんです。先日ホワイト王国から引っ越して来たばかりで、王室のことを何もしらないから学びたくて新聞を読んでました」


「そう。ご両親は王室で働いているの? 住まいは王室の敷地内にある使用人の宿舎?」


「……よくご存知ですね。そうなんです。使用人宿舎に家族で住んでます。ポールさんはトーマス王太子殿下の誘拐事件をご存知ですか?」


「ああ、私はまだ幼かったから記憶はないけど、母からよく聞かされていたから知ってるよ。メイサ妃の御生家であるサファイア公爵家の元使用人を不当解雇したために、逆恨みをした使用人が、まだ四歳だったトーマス王子を誘拐したことになっているが、犯人と疑われた元使用人は主犯格の元マフィアの一匹狼と言われていたゲイト・サンドラに利用され、罪をきせられて殺害されたんだよ。そのゲイト・サンドラも金塊で後頭部を殴打し、脳挫傷で亡くなったんだ。当然の酬いだよね」


「犯人はもう亡くなったんですね。トーマス王子を救ったのは王室警察なんですか?」


「それはメイサ妃とサファイア公爵家の侍女と、執事とタクシードライバー。名前は忘れたけど、英雄となった執事とタクシードライバーは、タクシードライバーのハンドルミスで事故をして車は炎上、二人の遺体は見つからなかったが死亡とされた。それを機にトム王太子殿下とメイサ妃の仲は冷えトム王太子殿下がメイドと浮気をし、トム王太子殿下とメイサ妃は離縁された。でも不思議なことに忽然と消えたはずの二人は数年後に発見されたんだ。執事は御生家に戻っていたメイサ妃とトーマス王子を連れて駆け落ちをしたんだよ」


「駆け落ち……」


 トーマス王太子殿下の過去を知り、ルリアンは思わず息をのんだ。立場は違えど、トーマス王太子殿下も波瀾万丈の人生だと知った。


「七年前かな、駆け落ち先が判明してトーマス王子はパープル王国に戻られた。その直後にトムカ国王陛下が御逝去され、トム王太子殿下は新国王陛下になられ、トーマス王子も王太子殿下になられたってわけ。元メイドだったマリリン王妃が流産され、その後はご懐妊されなかったからね。トーマス王太子殿下は唯一無二の王位継承者だ」


「凄い。よくご存知ですね」

 

「私はハイスクールで生徒会長と王室研究部の部長もしてるから」

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