30
暫く沈黙が続いたあと、メイサが重い口を開いた。
「トーマスは国王陛下が実父だと信じています。トーマスが誤った選択をしないように、真実を話したいと思います。その上でトーマスが国王陛下を選ぶのならば致し方ありません。ローザにお願いがあります。あなたはスポロンとも懇意にしているはず。トーマスを王宮から連れだし、ここに連れてくる手立てはありませんか?」
「トーマス王太子殿下をやはり誘拐されるのですか? すでに私よりも身長も体重も上回っているはず。王宮から浚うには私の力では抱えきれないですよ」
「だからあ、誘拐ではありません。これは里帰りです。トーマスに真実を伝えるだけです」
「真実ですか……。国王陛下に無断で真実を語ると? トーマス王太子殿下は多感なご年齢。真実を知ればどう思われるでしょう。メイサ妃、トーマス王太子殿下のお気持ちを考えたことはございますか? 母親が婚姻前に不貞行為をし、それを隠し国王陛下と結婚し自分が生まれた。実父だと信じていた国王陛下が義父であり、不貞行為の相手は元執事で今の義父だと知ったら、どれほど傷付かれるか。もしかしたら人間不振になられ、荒れてしまわれるかもしれません。悪い輩の仲間となり窃盗団に入るかもしれませんよ。何も知らぬまま王宮で過ごされた方が幸せな場合もございます。メイサ妃はそれほどまでに重大な嘘をついてこられたのですから」
ローザのキツい言葉にメイサは直ぐに言い返せなかった。あの心優しいトーマスが悪い輩の仲間となり窃盗団に入るなんて、絶対にあり得ないとメイサは思ったが、七年も逢わないうちにトーマスがどんな少年に成長したかも母なのにわからないのだ。
「だったらローザはどうすればいいと言うの? 我が子ともう一生逢えないなんて耐えられないわ」
「国王陛下はお優しい方です。だからわざわざ公務でお忙しいなか、スポロンではなく直々にお電話をして下さいました。寧ろ強引にことを進めようとしているのは、マリリン王妃かもしれません。彼女は純粋な女性でしたが、アリトラのことで性格も歪んでしまったようです。コホン、
「……トーマスが殺される」
「そうです。王太后も王妃もトーマス王太子殿下をこちらにお戻しになるつもりはごさいません。唯一取り戻せるとしたら、それはトーマス王太子殿下自身がそれを強く望まれることしか他ありません」
「面会もさせてもらえないのに、そんなこと不可能だわ」
「トーマス王太子殿下がメイサ妃を今でも母と慕っておられるなら、必ずご自分から当屋敷に姿をお見せになられるでしょう。それまでじっと耐えて待つのです」
「ローザ……。真実を明かしてはいけないと?」
「なりません。真実を知れば王位継承権を放棄されるでしょう。カムリ王子のようにご自分の意志で放棄されるのならば何も問題はございませんが、出生の秘密が知れ放棄されたとなると、パープル王国の威厳にも拘わります。先ずは親のエゴを捨て、トーマス王太子殿下の意志に委ねるのです。まあ、どうしてもというのなら、この私が誘拐して差し上げますが?」
ローザは口をへの字に曲げ、メイサを見つめた。幼い頃、誘拐事件に巻き込まれ怖い思いをしたトーマスにそんなことはしたくない。
「ローザ、もうわかったからいいわ。レイモンド……本当にごめんなさい。私のついた嘘がこんなことになるなんて。なんて詫びればいいか……」
「メイサは何も悪くないよ。悪いのは全部私だ。私があの時メイサとトム王太子殿下の結婚を阻止していたらこんなことにはならなかったんだ。謝るのは私の方だよ」
メイサもレイモンドも、ローザの意見に従うざるを得なかった。
「ところでご主人様、ご主人様はこの世界の方ではないと言うのは本当でございますか?」
「……えっ? それは……。メイサ話したのか?」
「ごめんなさい。ローザだけには嘘はつけなくて。少しだけ」
「レイモンドはサファイア公爵家の執事でした。ご主人様の顔は特殊メイクですか? 本当のレイモンドはあの事故で一瞬消えましたが、町外れの病院で身元不明者としてこの私が発見しました。タクシードライバーも同様に発見しましたが、あのレイモンドと今のご主人様は何か違う気がしてなりません。しいて言えば性格でしょうか。この世界とご主人様の世界はどのような繋がりがあるのでしょう? どうやってこちらへ? 円盤に乗ってとか? 異次元ポータルとか? 非科学的なことは無しですよ」
「それは一言ではいえません。ローザさんのような優れた方は私のいた世界にはいません。似た女性はいましたが、立場もかなり異なると思います。タクシードライバーのキダニも行方知れずとなり、私はもう元の世界には戻れないでしょう。心配無用です。私が消えてもレイモンドはこの世界に必ずいますから」
(ローザもメイサも半信半疑で、首を傾げたまま疑っている。それはそうだ俺に上手く説明なんて出来ないよ。現世で俺達を動かしているのはプレイヤーであり、その原作を書いたのは、自分を王妃にのし上げたマリリン、いや、美波なんだから。)
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