19
その夜、レイモンドはコーディと二人でワインを飲みながら昔話に花を咲かせた。
メイサは疲れたからと先に休み、エルザは酒のつまみになるものを作ったり、甲斐甲斐しくコーディの世話をしていた。
「エルザ、もういいよ。エルザも一緒に飲もう」
「ご主人様、宜しいのですか?」
「やだな。もうローザさんはここにはいない。ご主人様はやめてくれ。私達はサファイア公爵家で一緒に働いた仲だろう。レイモンドでいいよ。それよりコーディとは上手くいってる? こいつ、我が儘で亭主関白じゃない?」
「亭主関白? どういう意味? コーディは昔から優しいわ。レイモンド様はあの頃マリリンと付き合っていましたよね。あっ、すみません。昔の話を……メイサ妃がいながらご無礼致しました」
「敬語は使わなくていいから。マリリンのことはメイサも知ってるから気にしないで。エルザは今でもマリリンと付き合いはあるのか? マリリンはまだサファイア公爵家で働いているのかな?」
コーディとエルザが目を見開いて顔を見合わせた。
「レイモンド、何も知らないのか? メイサ妃から何も聞いてないのか?」
「一体なんのことだ? マリリンは王宮でローザさんと一緒にメイサ妃に仕えていたけど、メイサは離縁したからサファイア公爵邸に戻されたのでは?」
「……メイサ妃が話してないのなら、私達が話すことはできないわ。ごめんなさい。コーディ、私は先に休ませてもらうわね」
「分かった」
「レイモンド様、お先に失礼致します」
マリリンの名前を出したとたん、コーディもエルザも口を閉ざし言葉を濁した。
「エルザ、おやすみ。コーディももういいよ。また明日な」
「そうか、じゃあお先に失礼するよ」
コーディはエルザに歩み寄り、手を取り仲良くゲストルームへと消えた。二人の仲睦まじい姿を見つめながら、ワイングラスに残った赤ワインを一気に飲み干し、空になったグラスをレイモンドはキッチンへと運んだ。
(マリリンはサファイア公爵邸にはどうやらいないようだ。この世界と現世での出来事が同じような時系列で流れているとしたら、マリリンはもうメイドではなく別の職業に……。それもまた美波の原作とリンクしているならどうにでもなるはずだ。)
レイモンドは納得いかないまま、メイサのいる寝室へと戻る。寝室にはキングサイズのベッドが置かれ、サファイア公爵邸にあったものと同等な高級家具が置かれていた。
『普通の暮らしをしたい』と言ってくれたメイサだが、やはりメイサにはこの生活が相応しい。レイモンドはメイサやトーマスに粗末な生活を強いていたことを後悔していた。
だがその二年間は本来の自分ではなく、この世界に存在していたゲームキャラクターのレイモンドであり、自分は今その体を借りてしているに過ぎない。
ベッドに入るとふかふかの柔らかなマットレスが沈み、メイサが目を覚ました。
「ごめん。起こしたようだね」
「いいのよ。ユートピアは子供部屋でぐっすり眠っているわ」
メイサはレイモンドの顔を両手で包み込み、熱いキスを交わした。二人は縺れ合うように抱き合う。
「初めて逢った時もベッドの中だった」
「初めて? あなたはずっとサファイア公爵家に仕えていた。やはり今のあなたは異世界から来たレイモンドなの? それでもいい。あなたこそが私の愛したレイモンドだから」
「メイサ……」
メイサの柔らかな胸元にキスを落とす。
メイサの口から甘い吐息が漏れた。レイモンドは再びこの世界に来てメイサを抱いた。
美梨に対する罪悪感はあったが、愛する美梨を慈しむようにメイサを優しく愛した。二人が愛を深め合っていたその同時間、運命をも狂わす出来事が起きた。
――その夜、パープル王国の国王陛下が静かにご逝去されたのだ。
◇
パープル王国の国王陛下がご逝去されたことは、翌日、レッドローズ王国の新聞の一面に大きく掲載された。
メイサはその記事を読み、体を震わせた。レイモンドはその体を優しく抱きしめた。
パープル王国の国王陛下の国葬の日程が決まり、ご逝去から二十四時間以内にトム王太子殿下が新国王に即位することが正式に宣言された。
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