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 パープル王国のトムカ国王陛下は国民から慕われていたため、パープル王国は悲しみに包まれた。


 王位継承評議会により、トム国王陛下の即位と共に、トーマス王子殿下はトーマス王太子殿下となった。それはメイサ妃にもレイモンドにも衝撃的なことだった。


 国葬より四ヶ月後には戴冠式が執り行われる。それまでトーマス王太子殿下との面会禁止も一方的に通知された。


 ◇


 ―パープル王国・国葬―


 王宮内にある礼拝堂には世界中の王族や、共和国からは大統領が参列し、厳粛に滞りなく執り行われ、納棺の儀式も無事に終わった。


 メイサ妃はもう王族ではないため、参列することは許されなかった。レイディア王太后元王妃はトーマス王太子殿下とメイサ妃を逢わせたくはなかったのだ。


 翌日、新聞には納棺の儀式のあと、喪服に身を包んだ王太后やトム国王陛下や王妃の傍に、トーマス王太子殿下の姿も一緒に掲載されていた。


 それはトーマス王太子殿下がパープル王国の王室に正式に戻ったことを、国内外に知らしめるものだった。


 トーマスを失い失意に襲われたメイサ妃は鬱ぎがちになった。レイモンドはそんなメイサ妃に寄り添い「必ずまた逢える」と励まし続けた。


 コーディもエルザもメイサ妃が元気を取り戻せるように、極力明るく振る舞ったが、メイサ妃が涙する日々は続いた。


「レイモンド、トーマスをこの腕に抱きしめたい。トーマスは寂しい思いをしてるに決まってるわ。あの子の意思に関係なく、王太子に任命するなんて酷すぎる。だってあの子は……」


 レイモンドはメイサの手を優しく握りしめる。ローザはそんなメイサを諭した。


「メイサ妃、トーマス様はもうトーマス王太子殿下になられたのです。たとえ真実が異なったとしても、それを重々承知の上で王位継承を認められたのは、新国王陛下なのですから。メイサ妃の御嫡男がいずれ隣国の国王陛下になられるのですよ。母として誇らしいことではありませんか」


「ローザ、真実をねじ曲げて国王陛下になることが、本当にトーマスの幸せになるの? 万が一王太后や王族、および国民に真実が知れたらトーマスの命が……」


 ローザは落ち着いた様子でユートピアをあやしている。


「最初に真実をねじ曲げたのは、元はと言えばメイサ妃ですよ。それを黙認し噓を真実になさったのはトム国王陛下です。トム国王陛下が今更真実を曝すはずはございません。メイドから王妃に成り上がったあの女性も、ご懐妊したと嘘偽りの診断書を見せ、トム国王陛下との結婚を迫り、メイサ妃を離縁に追い込んだのです。ご成婚が整えばすぐに流産したとのこと。王宮の産科医の診察も受けなかったそうではないですか。明らかに真実をねじ曲げ、メイサ妃を王宮から追い出すためにトム国王陛下を誑かしたに違いありません」


「……まさか、あの王妃が。あの控えめな女性がそんなことをしたなんて信じられないわ」


「王妃だなんて、あのマリリンには相応しくない呼び名ですよ。マリリン夫人で十分なのに、王太后はマリリンに王妃の称号を与えられました。明らかにメイサ妃に対する嫌がらせです」


 (マリリン夫人? ま、まて。

 今、なんて言った? メイサを王宮から追い出すためにトム国王陛下を誑かしたメイドって? まさか、あのマリリンだったのか!? だからコーディもエルザも口を閉ざしたのか。)


「あの……ローザさん。お話中すみません。トム国王陛下の再婚された王妃は、サファイア公爵家の元メイドのマリリンなのですか?」


 ローザは呆れたようにレイモンドを見た。


「まあ呆れた。今更知らなかったとでも? あなたの元恋人だったサファイア公爵家のメイド、マリリン・パールですよ。彼女があんなにもしたたかで、懐妊したと偽証してまでも王妃の座を狙っていたなんて、この私にも見抜けませんでした。レイモンド様が事故を起こし行方知れずとなり、メイサ妃が情緒不安定になられたのをいいことに、私の知らぬところでコソコソとトム国王陛下に擦り寄ったのです。女の武器を最大限に使ってね」


 (あのマリリンが女の武器を使ったなんて信じられない。以前は俺とメイサに協力的だったのに。俺とのことが原因でメイサからトム国王陛下を奪ったのか? まさか……このストーリーも現世で美波が創り出したものなのか、それともプレーヤーの意志でストーリーが変わってしまったのか?)


 ◇


 ――国葬より四ヶ月後に新国王陛下の戴冠式が執り行われた。王太后や王妃と共に戴冠式に参列したトーマス王太子殿下。


 メイサの力ではもうどうすることもできないくらい、トーマスとの距離は開き、パープル王国の王室から『トーマス王太子殿下は王妃を母と慕っているため、トム国王陛下とトーマス王太子殿下のご意志により、その関係性を壊したくないとのことから、面会の権利は当面保留とする』と、一方的な王室からの通達により、何年も逢えない年月が続いた。


 その間、レイモンド《修》はメイサのことも気がかりだったが、それ以上に現世に残した美梨や子供達が気がかりで、ホワイト王国の林檎農園に行ったはずのキダニに連絡を取ろうとしたが、キダニは行方知れずとなり現世に戻る手立てを無くした。

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