第20話
翌朝、二人は辰巳の方角にある尼寺を訪ねることにした。日の出と共に出発して、陽が真上に来る前に、その寺についたが、
「ここは尼寺、其方たちをここに入れるわけにはいかぬ」
門は開けられることもなく、そう言われた。
「それなら、このままでいい。ここに
「ここにはいない」
と尼僧が答えた。
「では、今はどちらに居られますか?」
「知らぬ」
と突き放すように言われた。
「都が襲われているんだ。
涼悠がなおも食い下がると。
「ここより少し下がったところの庵で待て」
尼僧が言った。
「わかった」
涼悠と颯太は、言われた通り、その庵で待つこと
「改めまして、ご挨拶を。わたくしは
「そうか。それなら知っていることを教えてもらおう。恵禅尼とはどんな奴なんだ?」
涼悠の質問に、善光尼が語り始めた。
恵禅尼が生まれたのは、百五十年以上も前で、善光尼の知るところではないが、一族皆殺しに遭ったことは事実だという。生き残った恵禅尼は尼寺へ預けられ、生き残りであることは伏されていた。尼僧として生きることは、怒りや憎しみを捨て、規律を守らなければならない。恵禅尼はそれを守り、尼僧として立派に務めを果たしていた。しかし、都ではその後も争いは絶えず、その犠牲となる者の話しが漏れ聞こえてくる。それに心を痛めて、死者の魂を鎮めているうちに、その身に人々の怨念が溜まり、十年前に事件が起きたのです。
そこまで黙って聞いていた涼悠と颯太だったが、十年前の事件と聞き、二人は目を合わせると、互いに思っていることが同じだと理解した。
善光尼は、そんな二人を見て、話しを続けた。
都を襲った怨念の強い悪霊は、恵禅尼が鎮めた者たちだが、怨念に飲み込まれた恵禅尼には、それらを再び鎮めるだけの理性はなく、過去に一族皆殺しに遭った怒りと憎しみが蘇り、恵禅尼本人が凶暴な邪神となって、他の悪霊を操り
沙宅家の者たちの師である
「けれど、まさか再び恵禅尼が現れたというのなら、その封印が解かれたのでしょう。秋麗様は動かれてはいないのですか?」
「師匠? 近くにはいないよ。師匠が来たらすぐに分かる。玄道は恵禅尼に気をつけろと言ったが、恵禅尼はまだ姿を現してはいない。師匠が、今動くかは分からないが会いに行って相談しよう」
涼悠が言うと、
「そうですね。それが良いと思います」
善光尼が答えた。
涼悠と颯太は、誰も事の真相を語ろうとしなかった話を、まさかここで聞くことになるとは思わなかった。なぜ、この事が誰からも語られなかったのか。涼悠が思うに、命を奪った者が特定されれば、その者に対しての恨みや憎しみを持つからだろう。しかし、真実を知った涼悠は、恵禅尼にそのような想いは抱かなかった。隣にいる颯太を見たが、平静を保っている。そこには怒りや憎しみは感じなかった。涼悠が心配するには及ばなかったことに安堵した。
善光尼の話で、恵禅尼のことが少しだけ分かった。しかし、どこに身を潜めているのか分からない。
二人は善光尼たちに礼を言って、その足で秋麗のいる金剛山へ向かった。
「少し急ごう」
颯太がそう言って、飛翔すると、涼悠も同じように飛んだ。それを、道行く人が見上げて、感嘆の声を上げた。
「仙人だ」
高度な仙術を身に着けている者は、空を飛ぶことも、瞬時に移動することも可能だが、霊力を消耗するため、頻繁に使うことはない。
「師匠はどのように考えておられるのだろうか?」
颯太が言うと、涼悠が答えた。
「そんなの俺には分からない。だから会いに行くんだ」
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