柴の証言

美和が久根高校を出る時に誰かの視線を感じた。

「誰?」

大きい声でそう言うと視線は無くなったので、刑事を物珍しさで見ていただけかと特に気にせず、久根商店街にあるスターという店で開店準備をしているというファウストの副リーダー柴に話を聞きに向かう。辺りは、夕暮れ時だ。

カランカランと扉を開ける。中から男の声が聞こえる。

「すまねぇな。まだ開店前なんだ」

「久根峠の時間について、話を聞きにきました」

奥から出てきた男性の見た目は美和と同じか歳上の年齢で、見た目は走り屋をやっているとは思えない好青年の風貌の男が出てきた。

「アンタ刑事さんか。俺に何を聞きたいんだ?」

「貴方が被害者の走田を恨んでいたという証言を聞いたのだけど本当かしら」

「恨んでいたか?そうだな当たってる」

「貴方が作ったファウストを被害者の走田に奪われたから?」

「いや違うな。でも、その証言しか出ねえだろうな。ファウストを作ったのは俺じゃねぇ。神崎大和だ」

「それって、首なしライダーの?」

「なるほど、あの掲示板も見たのか?アイツが首なしライダーか。俺はそれでも良いと思ってる。もう一度アイツと勝負できんならな」

「そんなに賭けレースが大事なの?」

「あんなくだらない賭け事と一緒にするんじゃねぇ。俺と大和と宇宙の作ったファウストは純粋に速さを追い求めるチームだった。それを走田の野郎があんなクズみたいなチームに変えやがった。許せる訳ねぇだろ。死んでくれたことには感謝してる。だがな俺は殺してねぇよ」

「じゃあ、何故ファウストを辞めなかったの?宇宙って人は今はいないってことはやめたんでしょ?」

「宇宙は、大和が生きてると信じて探してる。俺は大和が死んでるなら首なしライダーでも良い。もう一度熱い勝負がしたい。だからチームに残った。それに大和が作ったファウストだ。簡単に辞めるなんて、できなかったんだ」

「そう。話は変わるけど貴方は被害者が亡くなった日、いつもの貴方らしくないと聞いたけどどうして?」

「走田の野郎が俺のバイクに細工したんだろう。俺が走田に負けたレースの時と同じだ」

「バイクに細工?」

「あぁ、マフラーに土を詰まらせて速度が出ないようにしてやがったんだよ。アイツは走り屋なんかじゃねえ。クズだ」

「貴方には動機があるってことね?」

「あぁ、それは認める。だが動機って事ならもう1人いるかも知れねぇ」

「それは誰?」

「誰かはわからないが、あのクズは、弟の学費のために夜の仕事をしていた女に大金を払うと自宅に呼び出し、薬を飲ませて、強引にレイプして孕ませたことを自慢げに話してやがった。その女に『子供に罪はないから子供を産むから認知だけして』と言われたらムカついて、その女の胎にいた子供ごと蹴り上げて、流産させたこともベラベラと得意げに話してやがった」

「そんな酷い」

「酷いなんてもんじゃねぇ。俺以外にもあのクズに対して殺意を持ってた奴なんてゴロゴロ居るだろう。それこそ久根高校内にもファウストの中にもな」

「でも貴方も容疑者の1人よ。また話を聞きにくるかもしれないから逃げないでね」

「俺は、逃げも隠れもしねぇ」

「それを聞いて、安心したわ」

「もう良いか?これから開店なんだ」

「えぇ、時間を取らせて悪かったわね」

「いや、こちらも感情的になって、ベラベラと喋りすぎた」

柴は、そう言うとスタスタと奥の倉庫に行き開店準備に取り掛かる。美和はカランカランと店を後にした。もうこんな時間ね。今日はこれぐらいで良いでしょう。帰りにコンビニでビールを買い。帰路に着く。

「ただいま〜」

誰もいない家に挨拶をすると風呂に入り、夕食を作る。今日の晩御飯は、竹輪とツナの胡麻和えだ。ビールによく合う。

「プハァ〜生き返る〜」

ゴクゴクとビールを飲み干し、寝る支度をして眠りにつく。

あれっ身体が動かない。でも意識はしっかりしてる。まさか金縛り?あれっベッドの位置が可笑しい?なんで、ベランダの方を向いてるんだろう?

ベランダに首のない人の影が浮かび上がり、おどろおどろしい声が聞こえる。

「コレイジョウ、クネトウゲノジケンニ、カカワルナ。コレハ、チュウコクダ。ツギハ、ナイ。ソレデモ、シラベルノナラ、クビガドウタイニツイテイルホショウハナイ。ツギノクビナシライダーハ、オマエダ」

返事をしようにも声が出ない。それにものすごく怖い。金縛りから解放されると下腹部がグッショリと濡れていた。それにベッドも元の位置に戻り、朝にもなっていた。

「うえ〜ん、怖かったよぉ。ヒックヒック」

ポルターガイスト現象に怪異との遭遇だ。美和は、しばらく怖さで震えと涙が止まらなかった。やがて、落ち着くと濡れたパジャマとベッドシーツを洗濯にかけ風呂に入る。そして、着替えを済ませると顔をパンと叩き。「負けちゃダメだ出雲美和」と気合を入れる。でも、怖いものは怖いガクガクと震える足を落ち着かせ奮い立たせて、家を出る。今日は、昨日柴から聞いた被害者の走田が強引にレイプして孕ませたという女性について、調べようと思う。もしかしたら何かの糸口になるかもしれない。

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