終幕
第22話 あなたの優しさで、私を。
レイカは、真っ白なベッドの上で寝ていた。
隣の小さな椅子には、シューベルトが両手を前で組んで彼女のことを見つめていた。
「……レイカちゃん、もうそろそろお昼だよ」
そう言っても、彼女は動かない。
シューベルトはもう一度、レイカに毛布をかけ直した。
彼が立ち上がろうとした、その時。
「ん……」
シューベルトは、あ……と小さく声を上げた。
レイカがゆっくりとまぶたを開けると、見慣れない天井が目に飛び込んでくる。
茶色い木製の天井だ……いや、どうして私はここに?
「……ちゃん、レイカちゃん! 」
彼がレイカの手を強く握っていた。
彼女が驚きながらシューベルトの顔を見る。
モザイクがかかっていたような世界が、だんだんと明瞭になった。
「…………シューベルト、様……? 」
「ホント、良かった。……だって、レイカちゃん一日半ぐらいずっと寝てたんだよ! 心配するに決まってんじゃん! 大丈夫、体は痛くない……? 」
レイカはベッドから立ち上がろうとするも、頭に痛みが走る。
「……っ」
「ちょ、レイカちゃん! 寝たままでいいから……」
ベッドに座って息を整えながら、彼女は静かに言う。
「…………ごめんなさい」
シューベルトは、面を食らったような顔をしてから口角を上げた。
「……どうしたの、急に。前も言ったでしょ、僕は……」
「私は! なんでここにいるんですか!? あなたにとって見れば、ただの『メイド』にすぎないんですよ! 」
部屋が静まり返る。
レイカは必死に、彼に訴えた。
「私を助ける理由はなんですか!? あなたにとって、一体私は、なん、です、か……? 」
瞳に溜まる涙が、太陽の光に照らされて光った。
シューベルトはゆっくりと口を開いた。
「…………君を拾ったあの日、僕の本当の理解者は君しかいないって思った。最初は、正直に言ってそれだけだったんだよ」
彼はレイカの頭の上に、優しく片手を置いた。
「でも、ね。ある時気づいたらさ、君のことを『理解者』とか『メイド』とかそういう単純な言葉じゃ表せない存在になっているように、思ったんだ」
レイカは、でも……! と声を荒げる。
「シューベルト様だって、私の力なんて借りなくてもいいぐらい『天才』じゃないですか! 私が例え、いなくても……」
「違う。それは、違うよ」
彼は、レイカの瞳を見つめていた。
「僕一人では、きっと生きていけなかった。僕のことを本当に助けてくれるのはレイカちゃんだけだったよ。だから、そんな事言わないで」
レイカは一筋の涙を流しながら、彼の手を握り返す。
優しい沈黙が降り、シューベルトがレイカの涙を拭う。
そして、彼は明るく言う。
「この部屋、やっぱり慣れないよね〜! あ、ちなみにレイカちゃんが城の前に置いておいた荷物は全部こっちに持ってきたし、心配しないでね! 」
レイカは涙ながらに、分かりました……と言ってもう一度寝転がろうとする。
そこで、彼女は気づいてしまった。
「…………シューベルト様、あの、私のいま着ている服は……? 」
彼は屈託のない笑みで答える。
「ああ、レイカちゃんがメイド服一着しか持ってないとは思わなくてね〜! これ僕のだけど、やっぱりぶかぶかで着心地悪いかな? 」
メイド服の予備も、体調が良くなったら早めに買おうか……と彼は頷く。
しかし、レイカは彼の言葉をしっかりと聞けなかった。
そして、顔を手でゆっくりと覆いながら呟く。
「……私の意識がない間に、服を脱がしたんですか……! 」
シューベルトは、え? と数秒静止した後、ご、ごめん許して〜! と叫ぶ。
「いや、ほんとにいかがわしいことはなにもないからね! 服が汚れてたから、洗っただけだし、ね! 」
レイカは顔を赤くしながら、毛布を顔までかける。
「……ちょっと寝ますから、どっか行ってくれませんか? 」
彼が、えぇぇ冷たい〜! と言いながら笑っている声が聞こえる。
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