第21話 私は、否定したいのに。
レイカの服に、小さな火の玉が燃え移ったその時。
突然強い風が吹き、その火が消え失せた。
センドリアも、その様子を呆然としながら白い煙を眺めていた。
「は……? 」
レイカに馬乗りになったまま、センドリアの動きは停止した。
彼女は、後ろにいる何かを見ようとしたが、それが叶うことはなかった。
次の瞬間、彼女の体は左側に吹っ飛んだ。
当たりどころが悪かったようで、うめき声が聞こえた後すぐに辺りは静まり返った。
レイカはゆっくりと視線をあげる。
そこには、彼がいた。
たぶんどこかで、私は彼のことを諦めなれなかったんだと思う。
自分の存在意義があると言ってくれると、勝手に信じてたから。
レイカはゆっくりと右手をあげた。
その手が、彼の頬に触れる。
「……まさか、君がここまで迎えに来てしまうとはね……。『待ってて』って書いたはずなんだけどなぁ……」
「…………シューベルト、様……? 」
彼は薄っすらと涙を浮かべながら微笑んでいるように、少なくともレイカの目には写った。
「ごめんね、君をこんな目に合わせるつもりはなかったんだ。全部、僕が悪いんだよ……」
違う、と否定しようとしたが、安堵も
シューベルトが彼女の肩を軽く揺すってみるが、目を閉じたままだ。
彼がかすかに震える指で彼女の首元に手を触れると、そこにはしっかりと脈があった。
どうやら、気を失ってしまったようだ。
「……ちょっと、びっくりさせないでよ……」
しかし、先程触れた首元がいつもに増して熱を帯びているように彼は感じた。
シューベルトは、まさか……と小さく呟く。
風の魔術を使用し、周囲の風の動きを完全に視覚化する。
すると、彼女の左ふくらはぎあたりで風が停滞していることが見えた。
彼はレイカの長いスカートを膝辺りまでたくし上げる。
彼女の足には、怪我の痕跡があった。
どこかの小枝で切ってしまったであろう小さな傷に、液体に溶けた魔術が侵入したようだ。
彼は、周りの土の魔術痕跡から結論を出した。
「……傷が泥で汚れて、魔術が体内に侵入した? レイカちゃんは『風』以外の魔術への耐性がないから、直接魔術を体内に入れたら……」
彼は遠くに吹き飛んだセンドリアの死体を冷たく睨む。
すぐに我に返ったシューベルトは、焦りながらも冷静に考える。
「……僕の唯一の苦手分野、回復魔術って前に言ったよね? 」
シューベルトはそう言いながらも、彼女の怪我した部分に手を触れた。
そして、低く呟く。
「……浄化」
その瞬間、風が彼の髪や彼女のスカートを微かに揺らす。
シューベルトがレイカを確認すると、
彼は彼女を抱き上げ、そして一歩づつ歩き始める。
気づけば、日が変わろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます