第20話 争いの末、行き場のない思い。
デンバーは、シューベルトに向かって叫んだ。
「お前のことを『待っている』奴は、たしかにこの先にいるよ……でも、お前がそいつに会えるかどうか、話は別だ! 」
シューベルトは彼から発せられた炎のリングを、風によって一瞬で灰にする。
「……そうか、なら良かった」
そう言うと、デンバーの胸のあたりに向かって一気に風を集め攻撃する。
しかし、彼はなんとかそれをかわし、その風によってできた『銃弾』は体を貫通することはなかった。
シューベルトは目を細める。
「……アンタが銃弾を避けるのに使ったのは、確かに風の魔術だったな? 」
息を切らしているデンバーを横目に、シューベルトは口元を隠しながら笑った。
「魔術レベルが低いことをバカにするつもりはないけど……まぁこの状況じゃあ仕方ないね。君は弱すぎるよ」
そう言うと、彼は風剣を出現させ直接手に触れずに操った。
デンバーの右足に、その剣が刺さる。
赤い血が、薄汚れた古い小屋に飛び散った。
それでもデンバーは、火の魔術でつくる爆弾を投げようと必死だ。
シューベルトは彼を軽蔑するかのような表情を浮かべ、風によるバリアを張る。
「な……! 」
デンバーの虚しい声が響き、爆弾はあえなく投げた自分自身の方にブーメランのごとく返ってくる。
もちろん彼は爆発するそれを避けたが、シューベルトの強さに驚きを隠せていなかった。
「数秒で作ったあんなバリアが、俺の爆弾を跳ね返すわけがない……! 冗談じゃない、お前は……」
そう言いかけたデンバーの背後に立っている彼は、風によって彼の全身に風穴を開けた。
デンバーは血を吐き、そしてそのまま顔面を地につける形で倒れた。
そして彼はそれをもう一度強風によって大破させた。
彼は、静かに呟く。
「…………アンタと話す時間が惜しいんでね」
センドリアは、いつまで経っても兄が帰ってこないことで不機嫌になっていた。
「……全部あんたが悪いんだからね、マスティック国を
レイカはまだ赤みが引かない右頬に手を触れながら、ただ夜の空を見つめて言う。
「……そうですか」
センドリアは、その対応に更に怒りをつのらせる。
「マスティック国の人々が、今もどれだけ苦しんでいると思っているのよ! アタシはあんたの考える勝算を国王に聞かせるのよ、そうすればきっと彼らを救えるわ! 」
彼女は笑っていたが、それを見下すように彼女は感情のこもっていない声で言う。
「……マスティック国の滅亡は必須ですが、マスティック国に住んでいた人々達の死は必須ではないのでは? 別にマスティック国の住民を皆殺しにするわけではないでしょう。これまでの生活と比べたら不自由にはなるでしょうが……そもそも国際法に違反してる時点であなた方に救済など存在しません」
センドリアは黙っていたが、やがて感情が爆発したかのように叫んだ。
「何よ! 一体あんたに何が分かるっていうの!? 」
そう言うと、彼女は地の魔術を発動させた。
レイカの靴が地面についている部分だけ、まるで底なし沼のように沈んでいくのだ。
レイカは彼女と距離を取ろうとするも、魔術のせいでうまく歩けずバランスを崩し倒れる。
「……やっぱり魔術師には勝てないのよ! ここで、死になさい! 」
センドリアは鬼気迫る表情のまま、先程の魔術を解除し彼女に馬乗りになった。
「…………こんな、た、短気な性格で、では……あなた方は、本当に……負けてしまいます……よ……? 」
レイカはこのままでは殺されると思いながら、メイド服のブラウスから短いナイフを取り出す。
しかしそれは、センドリアの手に渡ってしまった。
彼女はほぼ錯乱状態のまま、レイカの頭にめがけてナイフを刺そうとする。
運良く、髪の毛とこめかみ辺りを軽く刺しただけだったが、生暖かい血が流出していることをレイカは自分で感じる。
センドリアは狂気の表情を浮かべ、炎でできた矢を自ら持ち、彼女の心臓を刺そうとした。
彼女は灼熱の炎の温度に目をつぶった。
ただ、虚しいだけだった。
これで全てが終わったとしても、特に不満はないかもしれない。
でも、何かが……足りない……。
……彼女の砂に汚れたエプロンに、小さな火の玉が燃え移った。
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