第19話 存在自体が恐ろしい。

 シューベルトは、汗一つ流すことなくマスティック国軍隊をどんどんを抹殺していった。

周りを囲む人間は、一体誰が助けに来たのかよく分かっていないようだ。

しかし、異質な雰囲気が立ち込めていることだけを感じ取ったのだろう、ストーリック国王軍も気を緩めることなく戦いを続けた。

襲いかかろうとした数十人の剣士達は、風の魔術によって全員の胴体が切断される。

その姿を見たマスティック国軍の一人が、苦し紛れに呟く。

「だ、誰なんだ……! あれは、怪物じゃないか! 」

そういった男も、次の瞬間には意識を失っていた。

彼が戦っていた、まさにその時である。

の気配を感じた。

シューベルトは呟く。

「……レイカ、ちゃん……? 」

襲いかかってくる軍隊員達の攻撃をかわしながら、彼は考えた。

僕の魔術をこめたアメジストのペンダントの気配が、すぐそこにある。

本来なら、彼女レイカはここにいるはずがない。

いや、彼女のことだから自らの意思でここに来たわけではないだろう。

誰かにに違いない。

……先程、急に魔術の気配を感じた。つまりそれは、エリアごと転移する魔法などによって彼女がここにやってきたのだろう。

シューベルトは突如方向転換をし、風の魔術によって瞬時に移動した。

戦場には、マスティック国の数人の軍隊と、数多く残されたストーリック国王軍の者たちが呆然とするしかなかった。

数秒後、我に返ったストーリック国王軍が残された者を殺すべく新たな襲撃を開始した。


 デンバーはレイカの顔右頬を叩いた。

「……! 」

「調子にのるんじゃない」

レイカは痛みを堪えながらも彼のことを見つめた。

彼は、怒りと不満を顔に出している。

「おい、センドリアはこいつをしっかり見張っとけよ。俺は、シューベルトの死体をここに引きずり出してやる」

センドリアは、分かったわ、と言いもう一度レイカに炎を突き立てた。

デンバーは、恐らく彼が居るであろう戦地に向かって歩き始めた。


 数分も立たないうちに、シューベルトはかつて家があったであろう元住宅地へ足を運んでいた。

すっかり日は沈み、張り詰めた夜の時が刻々と過ぎていく。

彼はボロボロの古い家を挟んで、今は死角となっているあちら側の様子を伺う。

シューベルトは、静寂な空気を壊すかのようなスピードで人影に歩み寄った。

そこには、怪しい笑顔を見せながら魔術を使おうとする男がいる。

シューベルトの技をかわした男は、どこかで見た顔に似ていると感じる。

「……そこどいてくれない? 僕を待っている人がいるんだ」

それでも、デンバーは立っているばかりだ。

「俺が誰かも分からぬうちに退去命令かよ? 全く、自己中心的な奴は困るぜ」

シューベルトは彼の言葉を聞き流しながらも、目で敵意を表す。

「早くどかないと、殺すよ? 」

デンバーはその姿の冷ややかさに汗をかきながらも、熱風という二つの魔術を融合させた術式を発生させようと手の紋章に触れる。

シューベルトは、魔術傾向からすぐにセンドリア戦った女の血縁だと気づき、冷静に言った。

「……そういえば、同じ魔術を使う魔銃師同士の戦いはすぐ決着が着くらしいよ。一体アンタは、どうなるんだろうね? 」

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