第18話 強くはないかもしれない。

 レイカは心のなかで思う。

まさか、私がシューベルト様を介して意見を発言ことを知っている……?

デンバーは心底愉快そうに言った。

「流石、お前の顔は鉄の仮面で出来てるのかってぐらい表情が変わらないなぁ。まあ、その仮面の裏では、なんでこいつが知ってるんだよ、って思ってるんだろうけどな」

センドリアも、クスクスと笑う。

「残念だったわね、こっちも馬鹿じゃないのよ」

レイカはについて言及するしかなかった。

「……シューベルト様が眠っている際に、デンバーあなたが『風』の魔術である自然同化をして私達のやり取りを盗聴していたのですか? 」

デンバーはレイカの前に立ったままだ。

「どうしてそう思うんだい? 」

「ご主人様なら、誰かが魔術を使用した場合に痕跡からすぐに気づくはずです。いつもなら寝ていたとしても、常に一部の意識を警戒状態に持っていくと言っていたのですが……怪我をして寝るとなると話は別です。自分と同じ属性の魔術の使用痕跡には気づきづらいという特性を利用して、あなた自身は城の中の空気、いわば風の流れと同化した……ということではないでしょうか? 」

センドリアは、彼女に対して怒りの感情を抱いているようだ。

「何よ、説明ばっかして気持ち悪い」

しかし、レイカはセンドリアのその言葉を聞き拳銃の引き金に手を添える。

「……否定はしないということで、よろしいですね? それに、先程デンバーは『どうしてそう思うのか』と私に聞きました。それは、自分の行動などを言い当てられたときに人がよく取る対応です。自分がそう行動していないときは、まず必死に否定するというのがいわば心理学で……」

デンバーは彼女に瞬時に近づき、彼女から拳銃を奪った瞬間にそれを炎で燃やした。

「……ああ、大正解だな。それでも、お前は俺らに勝てないだろ? 」

彼は炎でできた魔法陣をすぐに作り、それをどこかの焚き火と通じさせたようだ。

「お前を直接戦地へ連れて行こうと思う、くれぐれも抵抗するなよ? 」

センドリアは彼女の後ろに立つ。

「怪我してるアタシだけでも、すぐに殺せるわよ。第一、非魔術師一般人が魔術師に逆らおうとすることがおかしいのよ! 」

デンバーは呟いた。

「炎、エリア転移」

彼女は魔術による熱風で目を閉じながら、心のなかで思う。

この魔術は、本来なら中級魔術士が使うもの。

『風の魔術を使用できるようになったばかり』という言葉が本当だとするならば、彼も人体実験被験者だということは確実だ、と。


 レイカがゆっくりと目を開けると、そこはすでに激戦区だった。

どこからか雄叫びが聞こえ、魔術による破裂音などが耐えることはなかい。

センドリアは、左手でレイカの首元を掴みもう片方の手には炎の玉を乗せていた。

「アタシ達に歯向はむかったりしたら、すぐに殺すから覚悟しておいて」

レイカは何も言わずにその火の玉を見つめる。

デンバーは、センドリアをなだめるように言う。

「大丈夫だろ、こいつが俺らから逃げられるわけないからな」

レイカは彼の方に眼球だけを動かす。

「……わざわざ私をここに連れてきて、どうやって私の頭脳を使気ですか? 」

デンバーは口角を上げる。

「おいおい、お前だって気づいてるんだろ? ……お前には、マスティック国軍が勝つような作戦を練ってほしいだけだ」

センドリアは彼女をあざ笑うように口元で囁いた。

「もし協力しないなら、お兄ちゃんとアタシでシューベルトを殺すわよ。もちろん、あんたも生かしておけないけどね」

レイカは自らのメイド服のエプロンを握りしめる。

「…………シューベルト様には、勝てませんよ? 」

デンバーは、おいおい……と言いながら『風』の魔術を発生させようとしていた。

「適当なこと言えるのは今のうちだぜ? 」

それでも、レイカは彼の目から視線をずらさなかった。

「……シューベルト様は、センドリア彼女と戦ったときに城の周りに膨大な体力を消費する魔術を使用していました。恐らく、自らの体力の半分ほどを使用していたでしょう。しかし、今はそんなことをする必要がない。センドリアとデンバーの魔術レベルは、これまでに二人が使用している魔術を見る限りほぼ同じようですね。手負いのセンドリアを殺す時間を考える必要はありません」

彼女は二人の前で、初めて笑ってみせた。

「……このままではあなた方は大敗ですよ? 母国の勝敗を考える暇など、ないのでは? 」

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