第17話 新たなる魔術師の登場です。

 レイカは一人、城の窓からマスティック国軍の死体を回収する人々を見ていた。

死体を回収している彼らは、恐らくカセルダーンが手紙を読み派遣した人物だろう。

数十人の軍服を着た男たちが死体を運び終わった後、レイカに挨拶もせずに帰ってしまったようだ。

彼女一人にはあまりにも広すぎるこの城の中で、ウロウロするしかなかった。

まだ日は沈みそうに無い時間帯だったが、彼女の心は暗くかげっている。

それでもレイカは、都市にあるアパートへ行く準備をするしかなかった。


 一時間も立たないうちに、少ない自らの荷物をまとめ終えてしまった彼女はなんともいえない感情を心に抱いていた。

その感情を払拭ふっしょくするため最後にコーヒーを飲もうと、レイカは数時間前までシューベルトが座っていたソファに腰を下ろす。

彼女は黙ったまま何も言葉を口にしなかったが、やがて小さなため息をついた。

「……シューベルト様に謝られる筋合いなどありません。私が、あなたと共にいることをのですから」

そう言うと、ともっていた最後の一つのランプを消し、彼女は城のドアを開けた。

サビが目立ちながらも銀色に光る鍵で、城のドアを閉める。

レイカはシューベルトからもらったメイド服しか持っていなかったため、服はそのままだった。

彼女は、セリンヴァ路地を目指して歩き出した。

「……歩いたら、数時間で着くでしょうか……? 」

そんな言葉を呟いても、誰もその言葉を聞く人はいない。

レイカはすぐに森を抜けようとした。

その時、彼女はメイド服のエプロンの隙間から小さな拳銃を取り出した。

木々に向けられたように思われた銃口は、実は人に向けられていた。

レイカは冷ややかな瞳で二人の人影に対して言う。

「……こんばんは、は一体誰ですかね……? 残念ながらご主人様はいらっしゃいませんよ? 」

「…………いや、アタシの用があるのは、あなたの方よ! 」

レイカは、これは半日ほど前に聞いた声だと判断する。

「その声は……センドリアですか? 」

笑い声が聞こえ、節々に包帯を巻いたセンドリアが木の陰から登場する。

しかし、レイカの表情はこわばったままだ。

は、誰ですか? 」

センドリアは、わざとらしいため息をつき叫んだ。

「お兄ちゃん〜もう隠れなくていいよ〜! 」

その声と同時に、微かにセンドリアの面影のある若い男が木の上から飛び降りてくる。

「本当にもう登場していいのか? まぁセンドリアがそうやって言うならそうなんだろうな。で、この目の前にいる奴が『レイカ』であってんだろうな? 」

レイカは、彼が恐らく魔術師であることを手の紋章から判断する。

「……あなた方は、元は火の魔術師の家系出身だったのですよね? 人体実験の末に生まれた『二つの魔術を使用できる魔術師』に、今はカテコライズされるようですが」

センドリアの兄である男は、は? と言ってレイカを睨みつける。

「おいおい、まずはそのちっちゃい拳銃を俺に渡してもらおうかな? 」

レイカは言葉を続ける。

「あなたの妹のセンドリアは、火の魔術に加えて地の魔術を使うようでしたが……あなたは何の魔術を使用するのでしょう? 」

明らかに機嫌の悪いセンドリアは、怪我を負いながらもレイカに近づこうとした。

しかし、『兄』がそれを止める。

「センドリア、落ち着け。こいつに説明してやろうじゃないか、俺の名前はデンバーだ。まぁ、『風』の魔術を使えるようになったばかりってことで、お前の言う『ご主人様』と同じだぜ」

レイカは心底驚いたかのように言った。

「……あなたとではレベルが違いすぎて比較対象にならないのでは? 」

センドリアが何よ! と反論しようとする。

デンバーも瞳の中で静かに怒りを燃やしていた。

しかしレイカはそのことに気づかないふりをして、もう一度口を開く。

「私に何か文句でも言いに来ましたか? ……用件をどうぞ」

デンバーが不気味な笑顔を浮かべながら答える。

「お前のそのを、少し借りなくてはいけない状況になったんだよ」

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