第13話 衝撃的で恐ろしいね。

 「……シューベルト、君にお願いがあるんだ」

しわがれてはいるものの、しんのある強い声でカセルダーンは言った。

「……どんな願い事ですかね? 手短にお願いしますよ、なんせこちらのプライベート時間を邪魔しないでほしいので」

少しの沈黙が降り、電話越しに冷静なカセルダーンの声が聞こえた。

「……君を、マスティック国との戦いの前線に行かせる」

「…………どうゆうことでしょうか、冗談じみたお話はやめてください」

シューベルトは電話機をもう一度握りなおす。

その様子を、レイカは隣から何も発せずに見ていた。

「……今、あからさまに戦力が足りていない。このままでは、マスティック国の軍隊がこの国に攻め入るのは数日後であろう。我としても、この決断をするのは……」

「言い訳はやめてください、軍の司令官がみっともないですよ」

電話越しに、微かな風の音だけが聞こえる。

「僕を理由は聞かなくても分かるのですが、一つ疑問があります。あなた方が僕を軍に引き入れたとき、確かに言いましたよね。僕は、何があっても軍隊員の一員として戦わないと」

カセルダーンは、口を開く。

「これは我だけの決断ではないのだ。複数の司令官と国王の意見も取り入れながら、話し合った結果であるのだから……」

シューベルトはため息をつく。

「……まさか今頃、僕の態度に嫌気が差しましたか? 」

その問いには答えず、カセルダーンは言い放った。

「これは、総司令官からの命令だ。逆らうことは国家への反逆罪に等しい」

レイカはシューベルトに対して、小さな声で囁く。

「……シューベルト様、どうされたんですか……? 」

彼は、心の中にある色々な感情を押し殺したような顔で微笑む。

「カセルダーン総司令官は、僕を殺す気ですね」

「…………では、今から小一時間後に使いの者を送る。荷物の準備でもしておけばいい。……分かっているとは思うが、この状況に逆らおうとしないでくれ」

「あ、そうだー。今さっきマスティック国から何人か戦いに来て〜それについての手紙送ったので見といてくださいね」

彼がそう言い終わった直後、電話越しに彼は音を立てず電話を切った。

それでも、シューベルトは受話器を置けずにいた。


 レイカが、心配そうな顔をして彼に聞く。

「何を、言われたんですか? というか、今からどこに……」

シューベルトは彼女に背を向けたまま、トランクケースに自分の荷物を詰めている。

「…………驚かないでね、僕さ、少しだけマスティック国との戦いに参戦することになったんだ」

レイカは、顔に汗を浮かべていた。

「…………意味がわかりません、シューベルト様は、何を言っているんですか……? 」

シューベルトはレイカの方を振り向き、もう一度笑う。

「ごめんね、レイカちゃん」

彼女は、俯いたままだ。

「……八年前、あなたが軍の上層部に協力するか、それとも犯罪者にか決断を迫られた時がありましたよね。……私の記憶が正しければ、ストーリック国王軍の司令官という立場から追放された場合、シューベルト様はその瞬間から『犯罪者』扱いになるという条件でした」

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