第12話 連絡をしなくてはいけないね。

 シューベルトが、手紙を早急に出すために都市から配達ボーイを呼びつけたらしく、レイカは彼と同伴して森の外まで来た。

「……シューベルト様、本当によろしいのですか? 魔術で封をしたその手紙を直接本部に渡しても、何も問題はないのでは……? 」

彼は苦笑する。

「そうだねぇ……。軍の本部の人と顔は合わせたくない、かな。だって、つい数日前に会ったばっかりだもん! 」

そんなことを話しているうちに、古く大きな肩がけバックを持った少年が歩いてやってきた。

「……このシステムは初めてのご利用、ですよね? あの、次からは家に直接伺いますよ……? 」

シューベルトは、ちょっと散歩してた〜と堂々と嘘を付いた。

もちろんその少年がこれ以上勘繰りを入れることもなく、上質な白い封筒はバッグの中の手紙の山に消えていった。

「それでは、電話受付時のご希望どおり本日中にお届けしますね」

レイカは口を開く。

「できるだけでいいので、早く渡していただけるとありがたいです」

その少年は頷き、軽く会釈えしゃくをしてから小走りで去っていった。

シューベルトは笑いをこらえていたそうで、その少年が見えなくなったと同時に笑いだした。

「き、聞いた? 自分より全然年下の男の子に、手紙を渡すときは家に居ていいって教えてもらっちゃったぁ〜! 」

レイカは、はぁ……とため息をつきながら言う。

「…………ここの森が深くてよかったですね。もし彼が数十メートル城側に踏み込んでいたら、凄惨な現場に顔を引きつらせて手紙を届けるどころじゃないでしょうから」


 散らばっている死体を無視して城に戻ると、彼は書斎で本を読んでくるといい階段を上がった。

そこで、レイカは一階の掃除を行いながら先程の出来事を反芻はんすうする。

「……あの女達は、シューベルト様を殺そうとしていた? 少なくとも私にはそう見えたし、確かに動機としては十分……。でも、本当に彼を殺そうと思うなら確実な作戦を練るのでは……? 」

彼のことを知らない人間は、国内外関係なくいないだろう。

八年前、彼は確かに『世界を震撼』させたのだから。

マスティック国も例外ではないし、彼の実力だって分かっていたはず。

しかし、窓から戦いの様子を見ている限りまるで作戦を組んでいないようだった。

「……あれは、それこそで突撃したような配置だった……。マスティック国は、魔術師の配置を綿密に考えているからストーリック国王軍はいまだ彼らを倒せていないというのに……。一体、何が……」

そう小さく呟いた彼女のもとに、電話のコール音が響いた。

彼女は電話が置かれている高い机に向かい、受話器を手に取る。

「……こちら、バルレック・シューベルトでございます」

「…………」

たっぷりとした沈黙があった後、聞いたことのある厳かな老人の声が聞こえた。

「……軍本部のカセルダーンだ。伝言ではなく、直接言いたいことがあるからシューベルトを呼んでくれ」

レイカは心のなかで、微かに警戒の色を強めた。

直接このような大物上層部が電話をかけることはかなり珍しいからだ。

「…………確かに、この声はカセルダーン最高司令官ですね。すぐにご主人様をお呼びいたします」

彼女は階段を走り、座って本を読んでいた彼に電話について伝える。

「……カセルダーンが僕に? まさか、もう手紙が届いたのかな? 」

レイカは即答する。

「いや、その可能性は極めて低いです。馬車で三十分はかかる道のりですから、寄り道をするであろう少年の足では流石に不可能なのでは……? 」

彼は冷静に頷いた。

そして、シューベルトはゆっくりと、置かれている受話器を手に取る。

「…………わざわざ電話でどうされましたか、カセルダーン司令官」

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