第11話 誰を、何を、信じるべきか。

 「レイカちゃんって、料理上手だよね〜! ガチで生き返ったわ、あっ例えのほうじゃなくてホントにだからね。簡単なスープなんだけど、僕は素朴で美味しいから好き〜! パンとの相性も良いねぇ〜」

レイカはもちろん表情を崩すことはなかったが、少しだけ嬉しそうだ。

「…………ありがとうございます。まぁ、今のシューベルト様の立場なら何を食べても生き返るとは思いますが……」

彼は置いてあった昼食を早々に完食したあと、彼女に尋ねた。

「レイカちゃんは、もう昼食取ったの? 」

彼女は不思議そうな顔をしている。

「……? 私は、基本的に昼食はとりませんが……」

えぇぇ嘘でしょ! と彼は叫んだ。

ゴホゴホと少し咳き込んでしまい、レイカは心配そうな瞳で彼を見つめていた。

「っ……ちゃ、ちゃんと食べなきゃダメだよ〜! 一日三食ってよく言うでしょ! このスープのあまりがあるなら、今すぐ食べていいよ〜」

レイカは、ですが……と言いかけてまじまじと自分を見つめる彼から目をそらす。

「……分かりました、数分お待ち下さい、全て終わらせてきます」

シューベルトは、いやそんな急がなくていいからね! と言う。

彼女は調理場にある小さなテーブルで昼食を食べてしまおうと思い、小走りに去っていった。


 それから五分も立たないうちにレイカがシューベルトの元に戻ると、彼は白い手紙に万年筆でメッセージを書いていた。

ブルーブラックのインクをつけようとしたときに目線を上げた彼は、彼女に気づくとひらひらと手を振った。

「早くない!? めっちゃ早いよね!? 本当にお昼食べたの!? 」

彼女は、今かなり満腹状態に近いですので……と言って手紙に目を向けた。

「……これは、誰あてに、ですか」

彼はいつもと変わらない笑みを浮かべる。

「安心して、愛人へのラブレターなんかじゃないから〜! 」

「……かつて女性には飽きたと言っておられた気がしますが、シューベルト様に愛人なんていましたか? 」

「……うん、確かにいないけど、かなり鋭いツッコミだね! 」

レイカはため息をつくが、それと同時に真剣な表情になる。

「まぁ、を軍のトップに報告しないわけにはいかないからね……。とにかく、起きたことすべてを書いてみようと思うよ」

彼女は口を開いた。

「確かに、マスティック国をおとしいれたのはシューベルト様です。あなたが全てを暴き提言している、とこの世界にいるほぼ全員は認識していますから」

シューベルトは、窓から見える荒れ果てた景色を見ながら、彼女の声に耳を傾ける。

「でも、どうしてシューベルト様がこの案件について提言したと分かったのでしょうか? 少なくとも、ストーリック王国軍本部としての意見として捉えられているなら、わざわざ彼らがここに来ることはないでしょう」

「……もしかしたら、僕が発言したことを流している奴がいるのかもしれない。正直言って、全員疑わしいよ。僕のことを好んでいる者はいないし、つい先日は殴られそうになったりもしたからね……」

レイカは、自分の足元を見つめた。

「…………誰が密告したかという特定はできないにせよ、マスティック国からの狂気の矛先ほこさきが向いているのは、残念ながらシューベルト様のようですね」

本当は全てを考えたのは私なのだけれど、とレイカは心のなかで付け足した。

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