第10話 少しの幸せを、噛み締めよう。
センドリアは、シューベルトに炎の矢があたる瞬間を見届けるつもりだった。
しかし突然、彼女の視界が大きく歪んだ。
もとから地面に叩きつけられた衝撃で頭がうまく働かないというのに、一体何が……?
直後、彼女は左足に痛みを感じた。
自ら足を見ると、大量の血が流れ出している。
「銃で、撃たれた……? 」
その時、彼女は逆光に照らされて表情は見えないが、長いスカートのような姿の
「な……! 」
センドリアは瞬時に火のロープを作り、誰かがいた方向に投げる。
「誰だ……!? 銃を持って戦おうとする雑魚は、魔術師じゃないはずだ……。一体……? 」
ロープは、どこからから吹いてきた風によって、あえなく灰になり空に消えていった。
彼女は、ゆっくりと振り返る。
左腕から魔術による傷の影響で血を流しながらも、シューベルトは彼女に魔術を放った。
センドリアの腹部に、風穴ができる。
額に汗を浮かべながら、彼は言った。
「……アンタにはちょっと聞きたいことがあるから、僕についてきてくれないかな? 」
彼女はその言葉が言い終わるよりも少し前に、地震を起こした。
シューベルトがふらついたその一瞬を見計らって、彼女の姿は森の中に消えていく。
彼は、追いかけることができなかった。
木の陰から、メイド服を着たレイカは走り出す。
「シューベルト様、大丈夫ですか……! 」
汗を流し息を整えながら、彼は言った。
「ん、僕は……大丈夫だよ……。レイカちゃんも、地下から井戸を
レイカの顔は明らかに彼のことを心配していた。
「ですが……! 」
「さ、最近魔術あんま使ってなかったから、かな……。思ったよりも、体力、足りなくてショックなんだけど……」
彼女は、とにかく屋敷に戻りましょう……と呟き、肩を貸した。
彼は少しだけ笑ってから、フラフラと歩き始めた。
シューベルトは、玄関からすぐの広間にあるソファに座り込んだ。
「……ここで大丈夫ですか? あの、寝室でお休みになったほうが……」
明るい太陽光が差し込む中、彼の顔色の悪さが初めてよく見えた。
彼はシャツの第一ボタンを開けながら、ソファの背もたれにより掛かる。
「ごめんね、ちょっとだけ休憩したら、すぐ体調は戻ると思う、から……」
レイカは、顔を伏せたまま言った。
「申し訳ありません、これは、私のせいですよね。私を守るために、城全体に魔術を使うとなると、当然魔術の消費量も増えます。私は……『守られる』立場にはないんです……」
「……違うよ、レイカちゃんは、何も悪くない。ただ僕が、そうしたいだけだから」
彼女は思い詰めた表情のまま、簡単な食事を作ってきます、と言って目の前を立ち去っていった。
シューベルトはソファに寝転び、頭に手を当てて目をつぶった。
「…………ありがとう、レイカちゃん。君が来なかったら、僕は君のもとに生きて戻れなかったかもしれないから、さ」
彼のおぼろげな意識は、夢の中に溶けていった。
……ここは、どこだろうか。
いや、きっと知っているはずだ。
僕の故郷でもあり、ストーリック王国の都市でもあるこの地。
じゃあ、今目の前にあるのは?
死体だ。
それにしても、現場がハチャメチャだ。血の赤が、僕の視界のすべてを覆っている。
それではなぜ、こんなところに惨殺死体が?
誰かが、やったからだ。殺したからだ。
そうだ、僕が殺したんだ。
僕は、人を殺したんだ。
何人も。
どうして僕は殺したのだろうか……?
一体どうして……?
いや、僕は…………。
僕は…………。
「……さま、シューベルト様! 」
彼は、目を開ける。
レイカが眠っていた彼の顔を覗き込みながら、すいません……と言った。
「一応、昼食ができたので……今、目の前のテーブルに置いてしまっていいでしょうか……? 」
彼は姿勢を整えながら頷いた。
「魔術使用の体力不足には、直接的な食事の摂取が一番を言いますので……。寝ているところ起こしてしまい大変申し訳ありません……。何なら、食事の時間を後にでもずらしますので……」
シューベルトは笑いながら言う。
「すっごいいい匂いだから、なんかお腹へってきちゃったなぁ〜! 今、食べるよ! 」
レイカは少し安心しながら、彼の分の食事をよそった。
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